本書は、アメリカ陸軍戦略研究所の
ジェフリー・レコード氏による真珠湾攻撃に対する考察であり、
それに加えて、訳出した渡辺氏が追加で判断材料を提供している。
アメリカ陸軍戦略研究所は、
アメリカ陸軍大学校に付属する研究機関であり、
著者は、陸軍大学校の教官でもある。
『なぜ、日本は負けると分かっていたアメリカとの無謀な戦争を決断したのか?
がこのレポートのテーマだ。
注意すべきなのは、第2次大戦に対するルーズベルトの評価に対しては、
『正統派御用学者』のルーズベルトは英雄だという主張と
『歴史修正主義学者』のルーズベルトの陰謀説を主張する
二つの考え方がある。
ルーズベルトは3選目の大統領選で、
アメリカは戦争には参加しないという選挙公約を
掲げて当選したのだから正統派の主張は当然だろう。
その任期1年目の12月が真珠湾なのだが。
本レポートは公共機関の公式のレポートであるから、
当然に『正統派』の立場で書かれており、
ルーズベルトは戦争をのぞんでいなかった、
ルーズベルトは日本との和平交渉を真摯に進めていた
という前提からスタートしている。
『歴史修正主義』については説明が必要だろう。
発端はジョン・フリンの『真珠湾の真実』(1944年)だ。
彼は、ルーズベルトのニューディールを批判して、
その失敗の糊塗と、不況からの脱出のために
日本を戦争に追い込んだのだと批判した。
次に、ルーズベルトの死後、日本の真珠湾攻撃を
事前に知っていたのでは無いかという噂が広まり、
アメリカ議会に調査委員会が置かれ詳細な調査が為された。
その、調査資料を詳細に分析したジョージ・モーゲンスターンが
1947年に『パールハーバー』を著し、
日本を戦争に追い込んだ対日外交と、
ハワイのキンメル将軍に日本軍の攻撃に対する警告を
行わなかった事を批判している。
特に、この調査で初めてその存在が明らかになった
ハル・ノートについても最後通牒として厳しく批判している。
1948年には歴史学者のチャールズ・ビーアドが
ルーズベルトが日本に最初の攻撃をさせるように
仕掛けたと主張した。
(ビーアドの本は古書のくせに7000円もする!何て高いんだ!)
1953年に、チャールズ・タンシルが
『裏口から仕掛けたアメリカ参戦:ルーズベルト外交1933ー1941』
彼はスチムソン陸軍長官の日記に書かれている
『我が国の損害を出来るだけ軽微な物にしながら、
どうやって日本に最初の一発を撃たせるかが肝要だ』
という記述を問題視し、蒋介石の政権への工作を明らかにし、
ルーズベルトには『邪悪な意思』があった、
否定しようのない陰謀が存在していると主張した。
1954年にハリー・バーンズがそれまでの学者達の研究をまとめ
『恒久平和のための、止む事なき戦争』を発表して、
調べれば調べるほどルーズベルト外交の裏に潜む悪意を
感じざるを得ないと主張した。
そしてバーンズ教授らは御用学者から『歴史修正主義』との
レッテルを貼られ、様々な、研究の妨害、人身攻撃を受けた。
さらにフレデリック・サンボーンは、対ポーランド外交の失敗、
1941年1月には日本への軍事攻撃を英国に伝えていた事、
ヨーロッパではドイツにアメリカを攻撃させ参戦するために
ユーボートに対して行った様々な挑発行為を明らかにした。
その後、正統派と修正主義の論争はなりを潜めるが、
1977年に米英の当時の無線傍受活動に関する資料が公開され
論争が再び活発になった。
現在は、どうなっているか?
ロバート・ビュートーは正統派の歴史学者であるが、彼は
『陰謀があったということは犯罪性を主張する物であるから
「証拠の比較考量」では有罪とするには不十分であり、
「合理的な疑いのない証明」が必要である』
と、述べる事で論争に終止符を打っている。
要は、状況証拠だけで有罪とする事は出来ない。
陰謀説を主張するなら直接的な証拠を提示せよ、ということだ。
陰謀の主張の正しさに一部屈服した形となっている。
さて、本書は、正統派の歴史観を前提にして、
当時の外交を軍事的な側面から考察して、
なぜ日本が開戦に踏み切ったのか、
真珠湾の奇襲という決断に至ったのは何故か?
という理由を明らかにしようとした物である。
しかし、前提は違えども、修正主義者と同じ結論に至っている。
つまり、1933年から続く対日外交は、和平のためでは無く
理解しがたい中国の偏重と、反日的外交政策によって
過度な経済制裁によって日本の経済を破壊し、
日本からの和解の提案に対してはこれを一切無視することで、
日本を追い詰めて、最後に最後通牒を通帳を突きつけ
日本には、アメリカへの隷属か、もしくは戦争か
の二者択一の選択肢しか残らなくしてしまった。
当時の日本と同じように、もしアメリカが追い詰められたら
開戦以外の選択肢は考えられないだろう。
戦争の一半は日本の責任ではあるが、
アメリカの責任もその一半として非常に大きい。というものだ。
戦争をしたくてしたくて仕方なかったルーズベルトは
どう考えても、『20世紀最大の悪魔』だろう。
もう一つ、悪魔と呼ばなければならない理由がある。
それは、1943年1月のカサブランカ会談において
記者団の質問に対して、『無条件降伏』を持ち出した事だ。
これによって、第2次大戦は、それまでの戦争の常識であった、
クラウゼビッツの定義による『政治の手段としての戦争』から
絶対戦争、相手の国を完全に破壊して隷属させる戦争へと
性格を変えてしまったのだ。
そのため、ドイツからの和平の提案も、日本の和平工作も
戦争終結のための努力は全て無駄なあがきとなってしまった。
その結果、日本とドイツの都市は完璧に破壊し、
長崎と広島に原爆を落とし、多数の無辜の民、
女子どもを無慈悲に殺戮していったのだ。
確かにヒトラーのユダヤ人虐殺はひどいけれども、
それと同じくらいの強さでルーズベルトの
百万人を超える市民を虐殺した罪も糾弾されねばならない。
さらに、この本の結論として、日本との戦争に至る過程から7つの教訓を導き出している。
その7番目に、『戦争宿命論の呪縛』というのがある。
戦争が不可避だと考えた時点で、戦争は現実ものもになる・・・という主張だ。
今の中国の状況、ロシアの状況が、戦争への道を不可避にしているように思える。
しかし、不可避であると考えた時点で、戦争へと発展するのを避けられないのであれば
為政者には、特に、中国とロシアの為政者には戦争を回避する努力を期待したいが
残念ながら、日本もまた将来の戦争に備えて、戦争回避の努力を期待したい。
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アメリカはいかにして日本を追い詰めたか: 「米国陸軍戦略研究所レポート」から読み解く日米開戦 単行本 – 2013/11/21
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1941年、ヒトラーとの戦争のきっかけを待ち、日本との戦争は想定外だったルーズベルト米大統領は、石油等の全面禁輸の経済制裁で日本の南進を阻止できると考えた。だがこれによって日本は、明治以来拡大してきた領土をすべて手放し米国経済に完全に組み込まれるか、戦争かの究極の選択を迫られ、結果、真珠湾攻撃に踏み切ることとなった。日米開戦の責任の一端は米国外交の失敗にあったとする陸軍戦略研究所の分析に、日米近現代史研究家渡辺惣樹氏が詳細な解説を付す。
- 本の長さ222ページ
- 言語日本語
- 出版社草思社
- 発売日2013/11/21
- ISBN-104794220154
- ISBN-13978-4794220158
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商品の説明
著者について
国防政策専門家。外交政策研究所、ハドソン研究所のシニア研究員。現空軍大学教官。
日米近現代史研究家。著書に『日米衝突の根源 1858―1908』『日本開国』、訳書に『日米開戦の人種的側面 アメリカの反省1944』ほか。『日米衝突の萌芽 1898―1918』で本年度山本七平賞奨励賞受賞。
日米近現代史研究家。著書に『日米衝突の根源 1858―1908』『日本開国』、訳書に『日米開戦の人種的側面 アメリカの反省1944』ほか。『日米衝突の萌芽 1898―1918』で本年度山本七平賞奨励賞受賞。
登録情報
- 出版社 : 草思社 (2013/11/21)
- 発売日 : 2013/11/21
- 言語 : 日本語
- 単行本 : 222ページ
- ISBN-10 : 4794220154
- ISBN-13 : 978-4794220158
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著者について
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渡辺 惣樹(わたなべ そうき、1954年 - )は、日米近現代史研究家。ソーワトレーディング代表。日本開国から太平洋戦争開戦までの日米関係史を研究し、著作を発表している。『日米衝突の萌芽 1898-1918』により第22回山本七平賞奨励賞を受賞した。
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2014年4月11日に日本でレビュー済み
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Well written by English author from the different views especially most Japanese people never even think about just invading
English, French and Dutch but not that of US which is Philippines. There may have been a possibility that US couldn't have had
a chance to pave a war against Japan.
English, French and Dutch but not that of US which is Philippines. There may have been a possibility that US couldn't have had
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2015年3月10日に日本でレビュー済み
Amazonで購入
米国政府の関係機関がこの様な(米国の過去の大統領の判断を否定するような)レポートを出すことは画期的なことであると思います。この意味ではアメリカという国の懐の深さを感じる次第です。その一方で、やや翻訳者の解説がしつこい感じがしました。ただ、レポートの翻訳だけに徹して読者の判断に委ねた方が良いのではないかと思いました。私は翻訳された内容は正しい翻訳であると思ってはいますが、あまりに翻訳者の意見が強調されると、本当に正しく翻訳しているのかな、と言う疑問まで生じてしまいます。
2013年12月15日に日本でレビュー済み
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この本は、米国の国防政策専門家のジェフリー・レコードが開戦に至る原因を分析してまとめ上げた米国陸軍戦略研究所レポートの訳本である。この本は、決して、日本の行動を擁護してはいないし、満州、中国における事情や日本の真意を理解していないし、日本や日本人に対する多大な誤解や蔑視があるが、日本が勝ち目のない戦争を米国に挑まざるを得なかった原因と理由を、米国の観点から分析している。
結論は、「1941年に日本がアメリカとの戦いを決意した動機は、一つには日本の誇りの問題であり、もう一つは、アメリカによってもたらされた日本経済の破綻であった」としている。米国は日本経済に強い圧力をかけることで日本の東南アジアへの進出を牽制し、インドシナ及び中国からの撤退を要求した。つまり日本という国家の権利の放棄と、米国との交易再開を天秤にかけさせることになった。これは、日本が、国際関係において、唯々諾々と米国の主張を受け入れる国になることを宣言することを意味する。どのような国であれ、このような屈辱的な条件を呑み、国家としての面子をつぶされる事態を甘んじて受けることはない。日本という国家なら、なおさらである、とある。
事実、日本は、領土の支配欲はなく、蒋介石との間で和平を結び治安を維持し平和で安定した中国の建設を望んでいたのであるが、英米が中立法に違反して軍事物資、資金、人材(兵)の提供をしていたために、講和が図られず、治安が維持されないため中国から撤兵ができないでいた。この事情を無視して、米国は自らが蒋介石を支援して和平を妨害しておきながら、即時撤兵を要求した。米国は、1939年7月に日本に対して一方的に通商条約破棄を申し渡し、1940年1月から1941年7月に掛けて、航空燃料、鉄鋼製品、潤滑油、屑鉄、工作機械、銅、真鍮などの日本の工業に必要不可欠な資材の輸出制限及び全面禁止に至り、遂に、1941年7月26日に日本の在米資産を凍結し(すなわち、日本の米国から輸入を不可能にした)、8月1日全面的に石油の輸出を禁止し、日本の生殺与奪権を握ったのである。また、英米は、ゴム、錫などの天然資源のマレーシア、インドネシアから買い占めを行い日本に資源を回さないようにしている。米国が日本の南部仏印進駐を排斥する目的は、アジアを植民地化していた英国の弱体化を防止するためであった。
1941年8月末には、米国の対日経済戦争は最高潮に達し、日本は、東南アジア地域を占領するか、米国の要求に屈伏して経済的に窮乏し無力化に向かうかの二者択一を迫られた。米国の要求に屈伏することは、満州、朝鮮、台湾からの撤退を意味し、これまでの日本の大国としてのステータスを失い、国家目標を喪失することを意味した。日本は、国家の生存を米国の寛容さに依存しなければならず、米国の要求は、日本としては到底、容認できるものではなかった。
日本は、米国との戦いを決意しようが、米国の要求に屈しようが、どちらの選択をしても国家的破滅となることは避けようがなかった。日本は戦うしか道がなかったのである。戦わずして降伏することは、日本が物理的に破滅するだけでなく精神的にも崩壊することを意味したとある。
米国が中国からの無条件即時撤兵を要求したことが、日本に交渉の継続を断念させたとある。逆に言えば、米国は東アジアをめぐって日本と戦ったのではなく、中国をめぐって日本と戦ったのである。日本が米国領のハワイではなく、英国、オランダの植民地だけを攻撃していたならば、ルーズベルトは米国議会での宣戦布告の承認と国民の賛成を得られなかったであろうという。
苛酷な経済制裁(パリ不戦条約によると、経済制裁は戦争の先制攻撃とされている)による恫喝により、ルーズベルトらの米国政府は、要求通り、日本が中国から即時撤兵をすると考えていたのであろうか。米国は、外交の稚拙さにより、しなくとも良い日本との戦争を起こし、戦争責任の半分は、フランクリンルーズベルト政権にあったとしている。
最後に、1941年11月26日に野村駐米大使に手渡された、米国の宣戦布告とも言うべき、いわゆるハルノートについて、本書訳者の渡辺惣樹氏が解説している。このハルノートは米国議会はもとより国民にも知らされていなかった。下院議員ハミルトン・フィッシュは、ハルノートを知らずして、参戦賛成演説をしたことを、後日、恥ている。フィッシュは、ハルノートは、戦争になることが分かりきった明らかな最後通牒であるとしている。ルーズベルトが対日宣戦布告の同意を求めるために議会でなした「恥辱の日」演説には、開戦僅か16時間前に天皇へメッセージを送達したことに触れて交渉継続中であったと偽装しているが、最後通牒(ハルノート)の言及は一切なく、その後もこれを隠し続けて、ルーズベルトは民主党議員も共和党議員も国民も欺いたと、フィッシュは述べている。
本書のレコードレポートは、決して、日本の真意を理解している訳ではないが、ルーズベルトの経済制裁を主とする外交の拙劣さを厳しく批判している。その意味で、極めて良書である。戦後、日本は一方的に侵略戦争を仕掛けて、アジアに迷惑を掛けてきたと教育され、それを疑わないできた日本人、特に、政治家、役人、学者、マスコミ人が、是非とも読むべき本である。
多くの人が、是非とも読まれることを薦める。
結論は、「1941年に日本がアメリカとの戦いを決意した動機は、一つには日本の誇りの問題であり、もう一つは、アメリカによってもたらされた日本経済の破綻であった」としている。米国は日本経済に強い圧力をかけることで日本の東南アジアへの進出を牽制し、インドシナ及び中国からの撤退を要求した。つまり日本という国家の権利の放棄と、米国との交易再開を天秤にかけさせることになった。これは、日本が、国際関係において、唯々諾々と米国の主張を受け入れる国になることを宣言することを意味する。どのような国であれ、このような屈辱的な条件を呑み、国家としての面子をつぶされる事態を甘んじて受けることはない。日本という国家なら、なおさらである、とある。
事実、日本は、領土の支配欲はなく、蒋介石との間で和平を結び治安を維持し平和で安定した中国の建設を望んでいたのであるが、英米が中立法に違反して軍事物資、資金、人材(兵)の提供をしていたために、講和が図られず、治安が維持されないため中国から撤兵ができないでいた。この事情を無視して、米国は自らが蒋介石を支援して和平を妨害しておきながら、即時撤兵を要求した。米国は、1939年7月に日本に対して一方的に通商条約破棄を申し渡し、1940年1月から1941年7月に掛けて、航空燃料、鉄鋼製品、潤滑油、屑鉄、工作機械、銅、真鍮などの日本の工業に必要不可欠な資材の輸出制限及び全面禁止に至り、遂に、1941年7月26日に日本の在米資産を凍結し(すなわち、日本の米国から輸入を不可能にした)、8月1日全面的に石油の輸出を禁止し、日本の生殺与奪権を握ったのである。また、英米は、ゴム、錫などの天然資源のマレーシア、インドネシアから買い占めを行い日本に資源を回さないようにしている。米国が日本の南部仏印進駐を排斥する目的は、アジアを植民地化していた英国の弱体化を防止するためであった。
1941年8月末には、米国の対日経済戦争は最高潮に達し、日本は、東南アジア地域を占領するか、米国の要求に屈伏して経済的に窮乏し無力化に向かうかの二者択一を迫られた。米国の要求に屈伏することは、満州、朝鮮、台湾からの撤退を意味し、これまでの日本の大国としてのステータスを失い、国家目標を喪失することを意味した。日本は、国家の生存を米国の寛容さに依存しなければならず、米国の要求は、日本としては到底、容認できるものではなかった。
日本は、米国との戦いを決意しようが、米国の要求に屈しようが、どちらの選択をしても国家的破滅となることは避けようがなかった。日本は戦うしか道がなかったのである。戦わずして降伏することは、日本が物理的に破滅するだけでなく精神的にも崩壊することを意味したとある。
米国が中国からの無条件即時撤兵を要求したことが、日本に交渉の継続を断念させたとある。逆に言えば、米国は東アジアをめぐって日本と戦ったのではなく、中国をめぐって日本と戦ったのである。日本が米国領のハワイではなく、英国、オランダの植民地だけを攻撃していたならば、ルーズベルトは米国議会での宣戦布告の承認と国民の賛成を得られなかったであろうという。
苛酷な経済制裁(パリ不戦条約によると、経済制裁は戦争の先制攻撃とされている)による恫喝により、ルーズベルトらの米国政府は、要求通り、日本が中国から即時撤兵をすると考えていたのであろうか。米国は、外交の稚拙さにより、しなくとも良い日本との戦争を起こし、戦争責任の半分は、フランクリンルーズベルト政権にあったとしている。
最後に、1941年11月26日に野村駐米大使に手渡された、米国の宣戦布告とも言うべき、いわゆるハルノートについて、本書訳者の渡辺惣樹氏が解説している。このハルノートは米国議会はもとより国民にも知らされていなかった。下院議員ハミルトン・フィッシュは、ハルノートを知らずして、参戦賛成演説をしたことを、後日、恥ている。フィッシュは、ハルノートは、戦争になることが分かりきった明らかな最後通牒であるとしている。ルーズベルトが対日宣戦布告の同意を求めるために議会でなした「恥辱の日」演説には、開戦僅か16時間前に天皇へメッセージを送達したことに触れて交渉継続中であったと偽装しているが、最後通牒(ハルノート)の言及は一切なく、その後もこれを隠し続けて、ルーズベルトは民主党議員も共和党議員も国民も欺いたと、フィッシュは述べている。
本書のレコードレポートは、決して、日本の真意を理解している訳ではないが、ルーズベルトの経済制裁を主とする外交の拙劣さを厳しく批判している。その意味で、極めて良書である。戦後、日本は一方的に侵略戦争を仕掛けて、アジアに迷惑を掛けてきたと教育され、それを疑わないできた日本人、特に、政治家、役人、学者、マスコミ人が、是非とも読むべき本である。
多くの人が、是非とも読まれることを薦める。
2017年4月7日に日本でレビュー済み
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まとまっている。この日米開戦の真実を知るのは、HooverのFreedam Detrayedが一番網羅した本です。解説本は出てますが、900頁を超す大著で、未だ日本語訳本はありません。