被害者という概念の誕生や残酷に関する考察など啓発される点は多々あったが、理論としての筋を通そうとするためか、時にひどい記述が散見された。最悪なのは、暴力と紛争が対立関係にあると言ったのに続いて表れる次の記述(冷戦の終結に関する箇所)である。
「冷戦は……時には極度な緊張を伴いながらも、それでも両国間の直接的な軍事衝突にはいささかも帰着することのない紛争関係を継続させた。この紛争関係は……せいぜい、限定された地域での衝突を招くにとどまり……両国[米ソ]の敵対関係はしばしば非常に大きな影響力を持ったが、比較的迅速に休戦へといたった朝鮮戦争を別にすれば、その時代を通じていかなる重大な暴力の原因にもならなかった。両国の敵対関係がベトナム戦争を世界大戦に変えることはなかった」(p.39~40)。
冷戦時代に起きた諸々の紛争、とくに朝鮮戦争とベトナム戦争の惨禍をとんでもなく過小評価している。これに続いて著者はさらに、冷戦は各国が戦争や暴力の論理に突き進むことを防いだとまで述べている(p.40)が、冗談ではない。
また、フランス人の著作は得てしてそうなのだが、テロの考察が甘い。フランスを含む西欧諸国内部の構造的暴力、とくに人種差別がテロを生む温床だという点を抜きにして、テロ犯罪だけにフォーカスを当てている。
総じて、この著者は良くも悪くも理論家なのだと思う。分析は巧みであるが、人間に寄り添えていない。だから一部の暴力被害が過小評価されたり無視されたりする。勉強にはなるが、そこは大いに不満の残る点だった。
また、翻訳書としては訳がこなれていないので読みづらいと感じた。
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暴力 単行本 – 2007/11/1
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- 本の長さ380ページ
- 言語日本語
- 出版社新評論
- 発売日2007/11/1
- ISBN-104794807295
- ISBN-13978-4794807298
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登録情報
- 出版社 : 新評論 (2007/11/1)
- 発売日 : 2007/11/1
- 言語 : 日本語
- 単行本 : 380ページ
- ISBN-10 : 4794807295
- ISBN-13 : 978-4794807298
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2007年11月21日に日本でレビュー済み
暴力こそ、資本主義が普く行き渡らせた普遍原理の最たるものである。ソレルの『暴力論』が岩波文庫で新訳刊行されたが、それは何も偶然ではない。
自ら省みれば自明であろう。職場、地域社会、学校・・・・。いまさら国際情勢を見なくても暴力こそグローバリゼーションの基本原理なのである。
本書は細部をみれば案外論争的であろう。しかし、いま本書を問う版元に対しては満腔の敬意を表さざるを得ない。「9・11」だけを声高に語ることがラディカルなのではない。レーニンが言ったように、現実のラディカルさよりもラディカルになることは至難の業なのだ。
唯物論とは自らの日常生活のなかに「暴力」を見ることの謂いだと言い換えても外れていないだろう。「世界」とは暴力そのものなのである。
年末に向けて、本書が省みられることを祈ろう。
自ら省みれば自明であろう。職場、地域社会、学校・・・・。いまさら国際情勢を見なくても暴力こそグローバリゼーションの基本原理なのである。
本書は細部をみれば案外論争的であろう。しかし、いま本書を問う版元に対しては満腔の敬意を表さざるを得ない。「9・11」だけを声高に語ることがラディカルなのではない。レーニンが言ったように、現実のラディカルさよりもラディカルになることは至難の業なのだ。
唯物論とは自らの日常生活のなかに「暴力」を見ることの謂いだと言い換えても外れていないだろう。「世界」とは暴力そのものなのである。
年末に向けて、本書が省みられることを祈ろう。