(これは2009.7.27に書かれたものです)
とある理由により再読.
前回読んだときは,疑問点が幾つもあったので流し読みで済ませたが,今回精読すると予想以上に疑問点・不審点多し.
▼
「『アフガン零年』は,誇張と作為をちりばめたプロパガンダ映画という印象」(p.13)???
「犯罪者の多くは旧ゲリラ」(p.27)かどうかについても疑問の余地多し.
ただ単に,ターリバーンは身内の犯罪を犯罪としてカウントしていなかっただけ,という可能性が高いのだが.
「女子教育禁止は,欧米への反発から」(p.29)???
著者はその傍証として,「タリバン登場以前から,女性解放を叫ぶNGOへの襲撃事件が相次いでいた」ことを挙げるが,関連性に乏しい.
もう一つの根拠は,ターリバーンのアフマド文相代理の言葉という中立性の乏しいものであり,論外.
「汚職に厳罰」(p.32)???
他のジャーナリストなどの証言によれば,そんなようには全然見えないのだが.
おまけに本書でも,「宝石」と称する屑石を,ターリバーンの司令官に無理矢理買わされる話(p.172)が出てくるが,これは汚職ではないのか?
「女性の教育や就労を禁じるのは,戦争が終わるまでの非常措置」という文相代理の言葉を,無批判に紹介するだけの著者(p.33-34)
ホテルの外国人に対するターリバーンの監視を,「監視でもあるが,保護でもある」と解釈し,「客人をもてなす掟」の話に結びつける著者(p.38-39)
論理展開が強引過ぎやしないか?
「麻薬栽培がアフ【ガ】ーンで本格化したのは,対ソ紛争のさなか,ゲリラ各派がそれを奨励したからだ」と書き,続いて「ゲリラを支援していたのはアメリカだ」と書く著者(p.39)
ミスリード臭濃厚.
そもそも何をもって「本格化した」と言うのかだが,阿片栽培の量で言えば,ターリバーン時代のほうがその前の内戦時代より多かったように記憶しているし,阿片栽培の起源で言えば,かなり古くから医薬品代わりに栽培されているのだが.
その直後の文章も,「94年秋に現れたタリバン」「各地で阿片を焼き払った」(p.40)と,直接関係ない話を並べて書き,まるでターリバーンが登場したての頃から阿片を禁じようとしていたかのようなミスリードを誘う文に.
そして例によって,阿片容認に関するターリバーン側の言い分を垂れ流し(p.40)
もちろん,
「ターリバーンの阿片禁止令は,価格暴落を防ぐためでは?」
という見方には触れず.
「凧上げを禁止したのは,それが大人のギャンブルの道具にされているから」説(p.54-55)
出所の怪しい,「ブレジンスキーは,アフ【ガ】ーン・ゲリラ支援はソ連侵攻を誘引するための罠だったと証言した」も,そのまま掲載.(p.82)
もちろん出典記載無し.
「ビンラディンを育てたのはアメリカ」という,誤っている可能性が高い風説
も,「……と言われることになる」という語句をくっつけて紹介(p.83)
ろくに調べもせずに誤謬を書くことについての,責任逃れのつもりか?
さらにパキスタン人の間の噂を紹介する形で,「ハク大統領CIA暗殺説」を紹介(p.85)する無責任さ
ハク暗殺説については,詳しくはこちらを参照されたし.
「連合政権構想」を「アメリカの裏切り」だと感じるアフ【ガ】ーン人,パキスタン人(p.85)
ビン・ラーディン引渡し問題に関しては,他人の口を借りて
「何の証拠もない」
と繰り返す一方,当時既にあった証拠については一切紹介せず.
「トマホークの不発弾の引渡しと引き換えに,ターリバーンに対して復興支援の約束をした中国」説(p.119-120)
「イランと関係改善していた」説(p.122-123)
「ターリバーンは変わった」説(p.126-132)は,ターリバーン穏健派の活動のみを紹介し,強硬派との政争を紹介してでの考察ではなく,片手落ち.
その直後のページでは,アハメド・ラシッドと著者との対談(p.134-135)を紹介しているにもかかわらず,他ならぬそのラシッドがその対談やその著書で,穏健派と強硬派との政争について言及していることは,ごく僅か触れているだけ.
国連制裁に関し,「あるスタッフは『溺れた犬を鞭打つに等しい』」と言ったとしている話(p.136)は,中村医師の本にあるくだりと同じ.
その上,バーミヤン遺跡破壊に関し,ムタワキール外相の「国連制裁とは関係ない」という言葉を紹介する(p.177)など,内容の整合性もとれていない.
中村医師の屁理屈,
「真の『人類共通の文化遺産』とは,平和・相互扶助の精神である」
や,現地の人の言葉とされる
「人を助けるより仏像を助けるほうに,国際社会は熱心だ」
と紹介することで,バーミヤン遺跡破壊の擁護に努める著者(p.180-181)
かつてあった人道援助に対してターリバーンが足蹴にするようなまねをしたり,人道援助は外国任せといった態度だったりしたので,援助が尻すぼみになっていただけだったという事実のほうは,もちろん紹介されていない.
こんな状態であるにも関わらず,アフ【ガ】ーン援助に関心を持ち続けろと要求するほうが無理がある.
バーミヤン遺跡破壊は「お前は悪だと決めつけられ,追い詰められ,窮鼠猫を噛む状況に至ったのではないか」(p.212)
これは著者のバイアスかかった感想であって根拠なし.
ビン・ラーディンに対する「国外自主退去処分」は,ターリバーン窮余の策???(p.205)
実効性のなんらない「窮余の策」なんて存在するのかね?
「9.11テロはユダヤの陰謀」と言い出す,ターリバーンのソエル・シャヒーン代理大使(p.207-208)
「アメリカの対ターリバーン政策に,穏健派への懐柔策や切り崩しはなかった」???(p.215)
「アメリカの『報復攻撃』を,日本の識者までもが正当化するのは,思考停止としか思えない」???(p.230-231)
ターリバーン攻撃を単純な報復攻撃ととらえ,『では,どうすればアフ【ガ】ーンがアル・カーイダの聖域化されている状況を打破できるのか?』の代案を示すこともなく思考停止とレッテルを貼る行為こそ,思考停止の産物のように思えるのだが.
「マスード部隊による虐殺についての記述が,マイケル・グリフィン著『誰がタリバンを育てたか』に書かれている」
とする記述もある(p.242)が,当方の記憶が確かならば,そのような記述は見ていないので,要research.
「アフ【ガ】ーン復興のためのボン会議では,ヘクマチァール派が除外された」(p.253)
ヘクマチァール派は参加を自ら拒否したように記憶しているが……
その後段を読むと,そのソースはどうやら著者自身の独自取材らしいが……
「かつてタリバンにカンダハル入場を許したのは,当時のラバニ大統領の指示だった」と,ナキブラの発言として記す著者(p.291)
なぜかニューズウィークその他外電の記事内容と良く似ている,「ターリバーン政権崩壊後の地方の状況」.
サヤフの言葉として,「マスード暗殺はCIAまたはSISの陰謀」説を開陳する著者(p.316-319)
……サヤフこそ,マスード暗殺を手引きした裏切り者ではないかと噂されている人物なのだが.
▼
かといって,全面的にターリバーン寄りというわけでもなし.
「事実上,ビン=ラーディン引渡しはありえないと明言するムタワキール外相」(p.62)
「スピンブルダック攻略は常識的に考えれば,ヘクマチァール派を支援していたパキスタンへの攻撃を意味していたから,パキスタンの指示もしくは同意がなければ起こり得なかった」(p.96-97)
「マドラサで,広島・長崎への原爆投下を引き合いに出し,アメリカを非難する学長」(p.106)
といった記述も散見.
著者にとってはミスリード・主,ターリバーン擁護・従ということかもしれない.
▼
本書で一番問題があると思われるのは,言いがかりレベルや噂レベルの無責任な言説に関しては,断言を避け,「……と誰それは言っていた」「……という印象」などといった言葉で「逃げ道」を作っている点.
「あたしゃ伝聞を紹介しただけです」的なスタンスをとりさえすれば,噂レベルの話をバラまいてもよし,という態度は無責任ではないか?
▼
いずれにせよ,情報にバイアスがかかっている可能性が高く,ゆえに情報の信頼性低し.
中村医師本よりは狡猾であるため,その分ややマシ,という程度.
パキスタンの過激原理主義についての記述は,他の文献と比較する限り,問題は少なそうだが,上述の理由により,本書をソースとして何かを論述することは躊躇われる.
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少なくとも,初心者にはとうていお勧めできない.
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アフガニスタンから世界を見る 単行本 – 2006/2/1
春日 孝之
(著)
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- 出版社晶文社
- 発売日2006/2/1
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- 出版社 : 晶文社 (2006/2/1)
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- 単行本 : 324ページ
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