20年以上に亘りデザインの第一線で活躍される佐藤直樹さんは、「最初に絵を描いたときのことを覚えておられますでしょうか」と問う。それはもちろん文字を書く以前のことであり、それほど身体性を持たないという意味において、歌や踊りとも違う表現だという。
誰が為でもなく、無意識な行為。50歳を過ぎた佐藤さんは入門という作法を通じて、今またこれと向き合う。そこには自己、生と死、自然といった普遍的なテーマが横たわり、どうにも一筋縄ではいかないようだ。結局のところ自身を形成するデザインを「考えない」という手法から、理解が深められていく。
言葉の成り立ちから、木彫りの熊、東京五輪のエンブレムに至るまで、幅広いテーマが軽快な語り口で展開される。品格漂う文章が特徴だ。
アートもデザインも社会性を持つ以上、経済的な制約を受ける。すなわち他人の評価に影響されることはやむを得ない。しかしこれからは人生100年の時代。ベーシックインカムも議論される中で、ものを作るという人間の自然な行為が尊重される未来を夢見ても良いのではないだろうか。
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