本書は、妖怪研究でお馴染みの小松和彦氏を筆頭に、総勢21名にも及ぶ研究者がそれぞれの視点で「異界」を検証した大論文集である。
その読み応えは然る事ながら、様々な着眼点が実に興味深く、最後まで飽きる事がなかった。
さて、本書の冒頭を飾るのは、昨今話題となった映画「千と千尋の神隠し」を中心に、現代に於ける「異界の風景」について考察した佐々木高弘氏の小論だ。
こうした著作はどちらかと言うと、時代の流れに沿った「通史」的な物が多いが、本書は、私達にとって最も身近な現代から幕を開けている所が中々新鮮でもあり、非常に親しみ易く感じられた。
そして「現代の異界」を皮切りにした本書は、その後「近世・近代の異界」「民族から見る異界」「アジアの異界」へと展開して行く。
例えば、妖怪伝説を扱ったものがあるかと思えば、霊に対する概念を追求したものもあり、更には信仰心、風俗と風習、様々な祭祀、シャーマニズムや神の存在等など、扱っている主題がとにかく幅広いのである。
また、各論文の手法も、オーソドックスな形式で総括的に論じるものから、最新のデータベースを駆使したものまで実に多種多様であり、正しく「異界研究の最前線」と言うに相応しい内容と言えよう。
因みに、個人的に興味を惹かれたのは、高岡弘幸氏による「ケータイする異界」である。
これは、所謂「学校の怪談」に代表されるような現代の怪異譚を題材にした小論だが、この「学校の怪談」なるものが現在では姿を消しつつある事に着眼しているのだ。
いや、これはもしかしたら世代の差なのかもしれないが、私が学生だった時代には確かに母校に「七不思議」なるものが存在していた。
お決まりの理科室やら音楽室やら、或いは「何年何組の教室」等など…。
然しながら、現代では明らかにその現象が減りつつあるそうで、著者はこうした傾向の中に現代の志向と環境の変化を見出している。
その上で「怪異譚」は時代に依って、世相に依って、その姿を変えながらも発展し、私達の傍らに生き続けると示唆しており、「文明化されれば怪異譚は居場所を失う」という一般論とは一線を隠している点が興味深かった。
尤も、私はこれまでに触れて来た「異界論」が、たまたま過去の、然も民俗学的な視点に依るものばかりに偏っていた為に、このように現代を舞台にした論考に関心を持ったが、読む人に依って興味の対象は様々だと思う。
近世の妖怪、或いは霊魂の離脱と遊離の伝承に関心がある方もいれば、民俗学的な視点に依るオシラ様信仰や呪い歌に興味を抱いたり、更には、外国人から見た日本の風習に注目する方もいるであろう。
そして本書は、こうしたありとあらゆる「異界観」に対応している事は間違いなく、皆様も必ずや関心のある題材を見つけられるに違いない。
尚、本書に収められているのは何れも小論ばかりであり、然も平易な文章で纏められているので非常に解り易い。
最初から読破しても良し、興味のある論考から読んでも良し…という手軽さがあるのが特色でもある。
但し、その一方で、あくまでも論文集ではあるので、やや専門的、尚且つ限定的な分析も多く含んでいるのは確かだ。
依って、全くの初心者の方よりも、既に幾つかの「異界論」に目を通している方達の方が一層理解し易いと思うので、その点だけは念頭に置いた上で購入を検討して頂きたいと思う。
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日本人の異界観: 異界の想像力の根源を探る 単行本 – 2006/10/1
小松 和彦
(編集)
- 本の長さ493ページ
- 言語日本語
- 出版社せりか書房
- 発売日2006/10/1
- ISBN-10479670275X
- ISBN-13978-4796702751
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登録情報
- 出版社 : せりか書房 (2006/10/1)
- 発売日 : 2006/10/1
- 言語 : 日本語
- 単行本 : 493ページ
- ISBN-10 : 479670275X
- ISBN-13 : 978-4796702751
- Amazon 売れ筋ランキング: - 1,257,396位本 (本の売れ筋ランキングを見る)
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