粗筋を書く:中国・古城刑務所。刑務所捜査官・羅維民(ルオウェイミン)は、休暇を取っている同僚・趙中和(ヂャオヂョンフー)の代わりに、死刑執行猶予で収監されている凶悪な犯罪者・王国炎(ワングゥオイェン)を取り調べる。王は刑務所内で、騒ぐ、暴れる、酒を飲む、とやりたい放題の囚人だった。取り調べで王は、自分が起訴された事件ではない、未解決事件の真相を次々と話し出す。王が喋っていることは真実だ、と直感した羅は直属の上司に報告するが、でたらめと一蹴される。上司を飛び越し幹部へ直訴するが、そこでも一蹴される。羅は直感を信じ、自力での捜査を開始するが...
中国のベストセラー作家、張平(ぢゃんぴん)の長編小説。本作はダークな感じが馳星周に似ている。だが馳星周は悪人を主人公とするのに対し、本作は正義感ある人々が主人公である。人々と書いたように、上巻では明確な主人公はいない。主人公群というべきか。登場人物の多さと、中国の複雑な役所や階級の構造などに戸惑う部分もあるが、100ページくらい読み進めたあたりで作品の方向性が見え、ぐいぐいと引き込まれる。
上巻の途中からぐいぐいと引き込まれるストーリーは、下巻になっても勢いが衰えることはなく、最後まで続いた。
本書の内容は、突き詰めてしまえば至極簡単な話だ。
正義の志を持った主人公群が、
凶悪犯と、
それに癒着する大勢の役人と、
その他下っ端などで構成される黒社会の連中を、
とことんまで追い込む。
それだけの話だ。
それだけの話だが、
・丁寧に作り込まれたストーリー展開、
・上下関係やメンツに縛られながら行動する登場人物、
・貧富の差を筆頭に、生活に密着し存在する現代中国の暗部、
などのディテールが、
・黒社会に引きずり込まれる役人どもの腐敗ぶりに説得力を持たせ、
・黒社会の結束力の強さに説得力を持たせ、
・黒社会の連中が主人公群を邪魔する方法に説得力を持たせ、
・邪魔をする腐敗した役人に太刀打ちできない主人公群のいらだちに説得力を持たせている。
そしてストーリーが抜群に面白い。
相当に暗い小説で、日本人作家でいうと(特に悪人の描き方が)船戸与一に似ていると思う。訳者の文体のせいか。
最後に、この本の素晴らしいところを一点。
中国人の人名はただでさえ覚えにくいのに、この小説はやたらと登場人物が多い。この本では、見開きページごとに登場人物の名前にルビがうってある。これは読者に対する素晴らしい配慮だと思う。
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十面埋伏 下 単行本 – 2005/11/1
事件の真相を追う捜査官との警察の前に次第に姿を現す闇の犯罪組織。そしてその背後には政界上層幹部の姿も見え隠れする。巨大な闇の癒着を暴きだす闘いの結末を見ることができるのか。
中国ベストセラー作家・張平(ヂャンピン)が現代中国社会の病根を抉り出す衝撃作品!
中国ベストセラー作家・張平(ヂャンピン)が現代中国社会の病根を抉り出す衝撃作品!
- 本の長さ394ページ
- 言語日本語
- 出版社新風舎
- 発売日2005/11/1
- ISBN-104797483067
- ISBN-13978-4797483062
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商品の説明
著者について
◆張平(ヂャンピン):1954年生まれ。中国を代表する中堅実力派作家。中国作家協会副主席、山西省作家協会主席、中国全国政治協商会議委員。84年『姉さん』で全国優秀短編小説賞を受賞。80年代後半、ノンフィクション『法、汾西を揺るがす』・『天網』の発表で、名誉毀損で訴えられるも、張平の勝利で結審。97年『選択』、優秀な長編文学に授与される茅盾文学賞を受賞。同作品は映画化され、中国国産映画としては空前の興行成績をあげる。『十面埋伏』はベストセラー大賞、金盾文学賞、中国図書賞の三冠を得る。04年3月発表の『国家幹部』は最新の超大作。その他、作品多数。日本には04年8月『凶犯』(新風舎文庫)にて初上陸。現代中国の抱える深刻な政治・社会問題に深く切り込むその作品は常に反響を巻き起こしている。
◆荒岡啓子(あらおかけいこ):1951年東京生まれ。東京外国語大学中国語学科卒業、大阪外国語大学大学院言語社会研究科博士前期課程修。(株)ダイエー海外部、駿台外語専門学校中国語専任講師を経て、現在は同志社大学嘱託講師。翻訳家としても活躍。2004年8月『凶犯』(新風舎文庫)の翻訳を手掛ける。
登録情報
- 出版社 : 新風舎 (2005/11/1)
- 発売日 : 2005/11/1
- 言語 : 日本語
- 単行本 : 394ページ
- ISBN-10 : 4797483067
- ISBN-13 : 978-4797483062
- Amazon 売れ筋ランキング: - 871,449位本 (本の売れ筋ランキングを見る)
- カスタマーレビュー:
著者について
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トップレビュー
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2008年7月24日に日本でレビュー済み
2006年6月7日に日本でレビュー済み
ハードボイルド感十分の警察小説。
とりわけ、誰が味方で誰が敵かが皆目分からない中で話が進んでいく前半部の緊張感が素晴らしい。このまま密室の駆け引きが続くのかと思わせながらも、後半にはいると一転して銃撃戦、カーチェイス、爆弾、籠城、決闘等の香港映画さながらの大立ち回りになり、これはこれで迫力充分。最後には悪は退治されるし、満足のいくカタルシスも得られるしで、結果として勧善懲悪の大衆エンタテイメントに仕上がっている。
物語の構造的な類似としては、ハリウッド映画に近く、私はLAコンフィデンシャルを想起した。
ちなみに、主人公たちの正義をなす根拠が「国のため、人民のため」である一方、悪漢たちは家族や一族や仲間のために行動する。敵役の王国炎は、感情移入しずらいように描かれているが、冷酷非情というよりはピカレスク・ロマンの主人公のようでもある。小説の中の善悪の対立は、むしろモラルの対立であり、それは現代の日本がすでにもう失くしてしまった対立のように思えた。
とりわけ、誰が味方で誰が敵かが皆目分からない中で話が進んでいく前半部の緊張感が素晴らしい。このまま密室の駆け引きが続くのかと思わせながらも、後半にはいると一転して銃撃戦、カーチェイス、爆弾、籠城、決闘等の香港映画さながらの大立ち回りになり、これはこれで迫力充分。最後には悪は退治されるし、満足のいくカタルシスも得られるしで、結果として勧善懲悪の大衆エンタテイメントに仕上がっている。
物語の構造的な類似としては、ハリウッド映画に近く、私はLAコンフィデンシャルを想起した。
ちなみに、主人公たちの正義をなす根拠が「国のため、人民のため」である一方、悪漢たちは家族や一族や仲間のために行動する。敵役の王国炎は、感情移入しずらいように描かれているが、冷酷非情というよりはピカレスク・ロマンの主人公のようでもある。小説の中の善悪の対立は、むしろモラルの対立であり、それは現代の日本がすでにもう失くしてしまった対立のように思えた。
2005年12月29日に日本でレビュー済み
上巻がちょっと入りづらかったのですが、人物相関図が解り始めると、すごくひきこまれました。
展開の早さと、同時進行が頭の中の想像力をどんどん掻き立て、後半は一気に読んでしまいました。
映画化になるとのことなので、いつ日本で公開されるか楽しみです!
中国モノ、要チェックですね。
展開の早さと、同時進行が頭の中の想像力をどんどん掻き立て、後半は一気に読んでしまいました。
映画化になるとのことなので、いつ日本で公開されるか楽しみです!
中国モノ、要チェックですね。
2006年1月15日に日本でレビュー済み
共産主義でありながら資本主義を導入し、世界経済の中枢に駆け上がろうとしている現代中国の富の偏在を迫力ある筆致で書いてある。このような話は、中国以外の先進国でもあるだろうと思わせるほど、各方面の調査分析がしっかりしていて、ぐいぐいと引き込まれてしまう。下巻は一気に読み終えた。まるで、ハリウッド映画のようなハラハラドキドキ、複雑な人間関係が一気に相関し、エンディング。。。。とても、良かった!!!
著者の後書にも、感動した。
著者の後書にも、感動した。