あの高橋源一郎が「日本文学盛衰史」「官能小説家」を経て、いよいよ私小説にチャレンジ?しかも題材は五年間で二度にわたるあの結婚と離婚!……と思うじゃないですか。違うんです。むしろこれらのエッセイを書くにあたって“いちばんのウェイトは進行中の「事件」を「隠す」ことに置かれていた”くらいで、私生活の生々しい事実は“入ってはいる。だが、それがどれなのかをいう必要がないことは、わかっていただけるものと思う”。つまり先に挙げた二つの小説同様、読者は「このシーンは事実?それとも……」と邪推と妄想を繰り広げるしかない。
ただ、どうなんだろう。高橋氏は、作家はほんとうのことをいいたいけど、いわないものだと序文で定義した上で、それでもこのエッセイ集にはその時の「気分」がはっきり出ていると言い(「沼袋の私生活」)、かつ“よくあることなのに、なかなか、書けないし、いわないし、書きにくい”私生活を鮮明な写真を添えて、写真的に書いた写真家神蔵美子氏にエールを送る(「『たまもの』からの『かりもの』」)。つまり源ちゃんは揺れているのだ。
私たちも揺れている。「さようなら、ギャングたち」の作者の明治時代ばりの私小説を本当に読みたいのか。それはファンにあるまじきワイドショー的興味ではないのか。……しかし一方では、「ゴーストバスターズ」を書き「日本文学盛衰史」を書き「あ・だ・る・と」を書いた源ちゃんだからこそ書ける平成の私小説がある筈だ、と夢想するのも事実だ。
勿論その揺れる過程こそが文学だし、文学の極北をめざすことそのものが高橋氏の文学だという思いもある。だとすればこのエッセイ集もひとつの高橋文学だ。たとえば27年ぶりの子供の誕生を語るエッセイ(「子供を育てる」)の何気ない文章。かつてこんなふうに赤ちゃんを描いた小説はあっただろうか?そして末尾に置かれた、母の死を語るエッセイ(「さよなら、ママ」)。この二本のエッセイに添えられた氏のポラ写真は、氏の小説を象徴するような写真だ。一方文章には非小説的な透明感がある。いつか到達するかも知れないししないかも知れない高橋文学の極北は、こんな文章で書かれるのではないだろうか。
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私生活 単行本 – 2004/2/5
高橋 源一郎
(著)
1999年から2003年まで「月刊PLAYBOY」に連載されたエッセイ「鎌倉午前3時」に大幅加筆。連載中、2度の離婚と2度の結婚を体験し、「死ぬかと思った」作家の狂おしき日常ドキュメント。
- 本の長さ296ページ
- 言語日本語
- 出版社集英社インターナショナル
- 発売日2004/2/5
- ISBN-104797671149
- ISBN-13978-4797671148
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商品の説明
内容(「MARC」データベースより)
競馬、ワイン、離婚、結婚、不倫騒動の真相…。著者の波瀾万丈の日々を通して、私生活とはどんなものなのかを探る。スキャンダラスなノンフィクション。月刊『PLAYBOY』連載と、書き下ろしを加えて単行本化。
登録情報
- 出版社 : 集英社インターナショナル (2004/2/5)
- 発売日 : 2004/2/5
- 言語 : 日本語
- 単行本 : 296ページ
- ISBN-10 : 4797671149
- ISBN-13 : 978-4797671148
- Amazon 売れ筋ランキング: - 796,711位本 (本の売れ筋ランキングを見る)
- - 12,338位近現代日本のエッセー・随筆
- - 74,374位ビジネス・経済 (本)
- カスタマーレビュー:
著者について
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1951年、広島県生まれ。81年、『さようなら、ギャングたち』で第4回群像新人長編小説賞優秀作を受賞しデビュー。88年、『優雅で感傷的な日本野球』で第1回三島由紀夫賞、02年、『日本文学盛衰史』で第13回伊藤整文学賞を受賞。著書に『いつかソウル・トレインに乗る日まで』『一億三千万人のための小説教室』『ニッポンの小説―百年の孤独』他多数ある。10年5月には、『「悪」と戦う』も刊行された。
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