この巻では、主人公クロムとライバルのコウソンが、それぞれ過酷な試練にさらされています。
その苦難ぶりは、ワムウと戦うジョセフもかくやというもので、「主人公が楽して敵に勝って尊敬される」ということが、俺ツエエの条件だというなら、ここまでやったのに俺ツエエはないだろう、と言えます。
ですが、それでもこの巻は、俺ツエエの特徴を満たしてしまっています。
クロムはまだいいでしょう。王女ユースティナを助けるために猛獣と戦い、卑劣な闘技場の主の罠を破るくだりは、神話のようで綺麗な展開です。しかし、コウソンの方は、騎馬民族の拷問にも負けず、彼らを説得して味方に引き入れるのですが、その展開に無理がある。
彼は単身で使者に行って「和睦してくれ」と申し出て、囚われて拷問されます。これは勇敢な行いのようですが、問題があります。それは、自分が拷問されることを防げなかったことです。拷問の結果、身体が不自由になったら、それはコウソンの主君や国家にとっての不利益になり得る。拷問を飛び越して、逆上した相手に処刑されることも有り得る。軍師なら、そんな危険を冒すのは避けるべきでは。
「そこまでしないと状況を打破できない」というのは、当然あります。ですが、それならそれで、やりようはあったように、本文を読むと思えます。敵の中にコネを作るとか、情報を収集して弱みをつくとか、コウソンほど優秀な軍師なら、できるのでは。というより、作者は、「コウソンはそれができる」という設定を作れるのでは。その方が、体を張って拷問に耐えるよりかっこいいと思います。コウソンの受ける拷問の描写にしても、本当に彼は拷問を受ける必要があったのか。ないのに、「こんな拷問に耐えるなんて、コウソンはなんてすごい奴なんだ」と思わせるために描いたなら、やはりそれは「俺ツエエ」になってしまう。実際、拷問中と後のコウソンの様子も、凄惨な拷問のリアルさが文面から伝わってこない。
そして、拷問に耐えて敵の王の前に出たコウソンの説得は、要約すると、「貴方がたが今の領土で満足しているのは愚かなことだ。我々と手を組み、天下統一を目指そう」というものです。それだけといえば、それだけです。そして何より、コウソンは敵国の信仰を「貴方がたは神を誤解している。貴方がたの神はすでに死んでいる」と言います。これは、信仰を持つ相手には致命的な発言でしょう。こう言った瞬間、「この発言の真意は……」と説明する間もなく、処刑されるはず。敵の王はその後のコウソンの説明に納得し、その申し出を受けますが、これは人間の心理の動きとして理に適っていないのではないか。僕が、「これは俺ツエエだ」と思ったのは、その点にあります。説得する言葉にしても、「共に天下統一しよう」というが、コウソンの国と騎馬民族以外の諸国を全部倒した後、どちらが主導権を握るのか? そこを敵の王に質問されたら、彼はどう答えるつもりだったのでしょうか。
この巻にも評価点は少なからずあります。狂戦士ガジェルと幼い王女リリアのやりとりは、ありふれてはいるが悪くないと思いました。ダカット王の思惑なども筋が通っている。グラウスタンディア、リジア、ラトルグなど各々の国にヒーローがいて、そこの人間の気持ちが描かれているのもいい。どこかの国だけを一方的な悪役にしていないのは大事です。リジアの女将軍ナターシアと、彼女が原因で祖母を失った女将校カレンの屈折した信頼関係も、味わい深い。
その一方で、やはり問題点もある。商業都市ゾラの人々へユースティナが檄を飛ばし、そのカリスマにうたれた人々が奮起しますが、あの言葉でなぜ人々が納得するのかが、いまいち伝わらない。また、普段のユースティナの頼りない様子が、「カリスマのある王女」として設定されている彼女とつながらない。カリスマというのは描写が難しい。まず読者に、「この王様はすごい!」と思わせなくてはいけませんから。それができずに、「彼女はカリスマだ」と地の文で説明しても、読者は「はあ、そうですか」としか思わない。所々見どころがありますが、全体としては力不足の印象があります。
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グラウスタンディア皇国物語4 (HJ文庫) 文庫 – 2014/11/28
物語の舞台は皇国の外へ! 少数精鋭で月の港を攻略せよ!!
大国リジアによる30万の猛攻を辛くも退けた皇国。
それで一息つく間もなく、軍師クロムはたった千の兵で難攻不落と名高いゾラ港攻略に挑むことに。
その前準備として、クロムたちは西の大国ラトルグへと赴き、前代未聞の大博打に打って出る!!
一方、北方騎馬民族との内乱平定に動くコウソンもまた、自らの命を賭して単身、敵陣へと乗り込むが――。
大国リジアによる30万の猛攻を辛くも退けた皇国。
それで一息つく間もなく、軍師クロムはたった千の兵で難攻不落と名高いゾラ港攻略に挑むことに。
その前準備として、クロムたちは西の大国ラトルグへと赴き、前代未聞の大博打に打って出る!!
一方、北方騎馬民族との内乱平定に動くコウソンもまた、自らの命を賭して単身、敵陣へと乗り込むが――。
- 本の長さ299ページ
- 言語日本語
- 出版社ホビージャパン
- 発売日2014/11/28
- 寸法14.8 x 10.5 x 2 cm
- ISBN-104798609250
- ISBN-13978-4798609256
登録情報
- 出版社 : ホビージャパン (2014/11/28)
- 発売日 : 2014/11/28
- 言語 : 日本語
- 文庫 : 299ページ
- ISBN-10 : 4798609250
- ISBN-13 : 978-4798609256
- 寸法 : 14.8 x 10.5 x 2 cm
- Amazon 売れ筋ランキング: - 1,891,003位本 (本の売れ筋ランキングを見る)
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