「もし、仮に」…西洋美術史上に名を残した巨匠達が就活をするならば、恐らく、こんな履歴書を書いたに違いない？！
そんな奇想天外なコンセプトで編集された本書は、楽しく西洋美術を学べると同時に、彼等の作品を鑑賞する上でも大いに役立ってくれるであろう、非常にユニークな一冊である。
さて、皆様の中でも履歴書を書いた経験のある方は多いと思うが、本書でも所謂「一般的な履歴書」のフォーマットを採用しており、見開き、若しくは片側一頁を使って全面掲載をしている。
取り上げている芸術家は全部で37人。
「ルネサンスからマニエリスムまで」「バロックから写実主義まで」「印象派以降」の三部構成で、特定の時代や画家に偏る事なく「芸術家通史」としても立派に通用する内容だ。
勿論、本書が優れているのはそれだけでは無い。
「履歴書」だけでは足りない部分を補う為の解説もあるし、各個人が残した「名言」や逸話も紹介している。
更には、当時の「人物相関図」も掲載しているので、時代毎の傾向や芸術運動、或いは様々な芸術家達の交流が具に解る仕組みなのだ。
とは言え、やはり面白いのは「履歴書」であろう。
カラヴァッジョ「画家以外の経歴：囚人、若しくは逃亡者」、ジョット「性格：お金儲けが大好きです」…には思わず笑ってしまったし、「自己PR」でのルソー「悔しさをバネにして頑張れます」、モンドリアン「線を引く仕事だったら任せて下さい」は余りにも上手い。
極め付けはフランシス・ベイコンだ。
「人を暗い気持ちにするのが得意です」は最早、抱腹絶倒である。
だが、その後に「作品が残酷に見えるのは、現実が残酷だからです」という一言を加えるのも忘れておらず、単なる「笑い」だけでは終わらせない所が本書の真髄だと実感した次第である。
但し、幾らバランス良く網羅していると言っても、どうしても限界があるのは止むを得ない。
依って、もしかしたら、皆様の御贔屓の巨匠の「履歴書」は本書の中には見当たらないかもしれないし、現に、例えば自由奔放な逸話が多く残るフィリッポ・リッピや壮絶な人生が映画化までされたモディリアーニが載っていないのは意外でもある。
或いは、クールベの履歴書は載ってはいたものの、もっと自信に満ちて（傲慢に？！）書かれているかと思いきや、少々無難過ぎて拍子抜けしたりもした。
また、盛期ルネサンスの三大巨匠の後にジョットやマサッチオが登場したり、キュビズムに影響を与えたセザンヌがピカソよりも後に掲載されていたりするのは些か疑問でもある。
折角「通史」の形態を取っているのだから、そこはインパクトよりも忠実さを求めても良かったのではなかろうか。
尤も、こうしたマイナス点は本書を読む上では瑣末な事かもしれない。
何よりも、著者が掲げる「楽しく芸術を学ぶ」という目的は十分過ぎる程に達せられており、初心者の方は言う迄もなく、西洋美術に造詣が深い方にとっても興味深い一冊となってくれる事は間違いないであろう。
斬新な発想と楽しい工夫が際立つ「アイデア作」である。
無料のKindleアプリをダウンロードして、スマートフォン、タブレット、またはコンピューターで今すぐKindle本を読むことができます。Kindleデバイスは必要ありません。
ウェブ版Kindleなら、お使いのブラウザですぐにお読みいただけます。
携帯電話のカメラを使用する - 以下のコードをスキャンし、Kindleアプリをダウンロードしてください。
この著者の人気タイトル
ページ 1 以下のうち 1 最初から観るページ 1 以下のうち 1
著者について
著者をフォローして、新作のアップデートや改善されたおすすめを入手してください。
