量子力学ではベルの不等式が破れていることを実験的に確かめたことで量子エンタングルメントの非局所性を実証したアメリカのクラウザー博士、フランスのアスペ博士、オーストリアのツァイリンガー博士の三氏が2022年度のノーベル物理学賞を受賞!本書はアスペ博士による決定的実験の成功が学界にアナウンスされて間もなくに行われた著名研究者たちへのインタビューをまとめたもの。アスペ博士はもちろん、当時まだ存命だったベル博士への貴重なインタビューが掲載されています。
コペンハーゲン派を代表して重鎮故パイエルス博士、反コペンハーゲンの急先鋒である隠れた変数派を代表して故ボーム博士と同志ハイリー博士、当時注目を浴び始めていた多世界解釈を代表して若き日のドイチュ博士それぞれが論陣を張っています。(ちなみに故ベル博士は隠れた変数派に共感を寄せる反コペンハーゲン派!解釈問題の困難は相対論に由来するものだ、だからエーテル概念に回帰するべきだと大真面目に主張してます。)質問が非常に突っ込みが深く、問題の核心をめぐる緊張感のあるやりとりが記録されています。これがラジオ番組の中で行われたインタビューだというのだから驚きです。
本書を読んではっきり分かったことは、量子力学の解釈問題というものは十九世紀以来続いている物理学内部での二つの研究思想の対立の延長上にあるのだということ。十九世紀後半、実在の近似モデルの探求を重視するイギリス流の研究スタイルと現象間の定量的関係の確立だけを重視するドイツ流の研究スタイルの対立が生じましたが、量子力学の解釈問題はその積年の対立の二十世紀版だったのだと確信しました。現象(観測量)以外には沈黙し背後の実在を問わないコペンハーゲン解釈はドイツ流の現象論派の系譜を受け継いでいることは明らかで、それは量子力学形成の中心がドイツであったことと無関係ではないだろう。(アメリカの伝統的なプラグマティズム=実用第一主義との相性が良かったこともコペンハーゲン派の教義の普及を強く後押ししたでしょう。)
ボーム博士は局所性(近接性)の絶対視は近代物理学から始まった新しい考え方であって少しも普遍性はないと訴えておられます。(実際十九世紀以前は重力も電磁気も瞬間的に伝わる非局所的な遠隔力だと考えられていました。近接力の考え方は十九世紀後半のイギリスに始まる新しい考え方です。)ボーム博士はこれから五十年くらい考え続ければ非局所性は物理学の中で再び受け入れられるようになるだろう、考え続けることが大事なのだと早急に検証実験をと急き立てる質問者をたしなめておられます。これぞ賢者である。
本書刊行から四十年近くが経とうとしている今、量子コンピューターに代表される量子情報技術も大きく進歩して観測前の状態の重ね合わせを制御できるようになってきたことで現象の背後にあるものを不問に付すコペンハーゲン派流の態度への不満が高まっていると思われます。2022年度ノーベル物理学賞はそうした学界の空気を反映しているのでしょう。
また、本書の中でボーム博士は量子力学の数学はホログラムの数学に似ていると指摘していて、粒子と波動の二重性はホログラムに似た折り込まれた秩序とでも呼ぶべきものなのではないかと言います。本書公刊から約十年後に発見されたゲージ重力対応予想がホーキングのブラックホール熱力学に由来するホログラフィック原理に基づいていることを考えるとボーム博士の指摘はきわめて予言的だったのではないだろうか。
やはりボーム博士は賢者であった!長いものに巻かれず、孤立を恐れなかった信念の人ボーム博士への強い尊敬の念が湧いてきました。十九世紀末のドイツ語圏を中心とした反原子論(現象論派は観測できない原子を説明に持ち込むことを嫌った)の猛威に対してドイツ語圏の中にいながらほとんど孤軍奮闘で立ち向かったボルツマンを思い起こしてしまいました。
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量子と混沌 (地人選書 28) 単行本 – 1987/10/1
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- 本の長さ250ページ
- 言語日本語
- 出版社地人書館
- 発売日1987/10/1
- ISBN-104805202564
- ISBN-13978-4805202562
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登録情報
- 出版社 : 地人書館 (1987/10/1)
- 発売日 : 1987/10/1
- 言語 : 日本語
- 単行本 : 250ページ
- ISBN-10 : 4805202564
- ISBN-13 : 978-4805202562
- Amazon 売れ筋ランキング: - 792,358位本 (本の売れ筋ランキングを見る)
- - 602位理論物理学
- カスタマーレビュー:
著者について
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トップレビュー
上位レビュー、対象国: 日本
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2014年2月21日に日本でレビュー済み
This book might be regarded as out of date in terms of today's viewpoint; nonetheless the book is certainly worth reading, for in that are the interviews with pioneers of the last half of the 20th century who were puzzled as to the coherency of quantum mechanics, included. That is, you can read the testimony of the times when most of the interviewees lived in.
The story the late Prof. John S. Bell narrated brings home to me that such a person as him couldn't appear in Japan, where such a silly thought that it's no use to challenge the points of view that so-called experts in Japan, most of whom are never first-rate experts at the level of the world, have is a kind of common sense, or rather where most Japanese won't see the essence of things; that is, they turn away from lots of truths. What's more, they tend to form a set of a big fish in a small pond, fearing to lose face. In sum, it's out of the question.
Be that as it may, I rated the book as five-star, so it's highly recommended!
The story the late Prof. John S. Bell narrated brings home to me that such a person as him couldn't appear in Japan, where such a silly thought that it's no use to challenge the points of view that so-called experts in Japan, most of whom are never first-rate experts at the level of the world, have is a kind of common sense, or rather where most Japanese won't see the essence of things; that is, they turn away from lots of truths. What's more, they tend to form a set of a big fish in a small pond, fearing to lose face. In sum, it's out of the question.
Be that as it may, I rated the book as five-star, so it's highly recommended!
2003年4月26日に日本でレビュー済み
量子力学におけるパラドックスは、シュレーディンガーの猫や、アインシュタイン-ポドルスキー-ローゼンの論文で古くから知られているが、本書ではそれらはもとより、最近の成果、つまりベルの定理やアスペの実験等を絡め、本テーマについて総合的に解説した良書となっている。
勿論このような書物は既に多数あるのだが、本書での後半(というか、それが大部分なのだが)では、ホイーラー、ドイッチ、ボームなどそうそうたる論客を集め、著者がインタビューしており、それがとにかく面白い(日本と違い、インタビューされる側に妙に気遣ったりしないのだろう)。
それにしても、多重宇宙解釈など、一般人にはどう考えても冗談としか思えないようなものであるが、量子力学の最も自然な解釈であるという!理由によりそれを真剣に検討するドイッチなどは、正に常識に捕らわれていては自由な発想はできない、ということを身を持って証明したものであろう。
本書は量子論の解釈をめぐる専門書には違いないが、自然を理解することに対して人間のとり得る最高の挑戦物語であると捉えたい。
勿論このような書物は既に多数あるのだが、本書での後半(というか、それが大部分なのだが)では、ホイーラー、ドイッチ、ボームなどそうそうたる論客を集め、著者がインタビューしており、それがとにかく面白い(日本と違い、インタビューされる側に妙に気遣ったりしないのだろう)。
それにしても、多重宇宙解釈など、一般人にはどう考えても冗談としか思えないようなものであるが、量子力学の最も自然な解釈であるという!理由によりそれを真剣に検討するドイッチなどは、正に常識に捕らわれていては自由な発想はできない、ということを身を持って証明したものであろう。
本書は量子論の解釈をめぐる専門書には違いないが、自然を理解することに対して人間のとり得る最高の挑戦物語であると捉えたい。
他の国からのトップレビュー
Useless
5つ星のうち5.0
Education
2023年4月20日に英国でレビュー済みAmazonで購入
Education is the most important
SammedMPatil
5つ星のうち5.0
Good book
2021年11月1日にインドでレビュー済みAmazonで購入
Thus book is for beginners who are not physicists and who want to learn and are very much interested in understanding the quantum computing and related things and also some philosophical questions.
1973
5つ星のうち5.0
Good book, but when you get to the actual ...
2014年12月23日にアメリカ合衆国でレビュー済みAmazonで購入
Good book, but when you get to the actual radio interview you get to see how weak some of these highly respected quantum physicists are. When asked questions about how quantum physics relates to certain things in life they make total fools of themselves. I thought quantum physicists were the pound for pound strongest of scientists but what a bunch of geeks. Only a couple of the scientists interviewed gave intelligent answers. A must if you have a strong background in quantum physics. I advise you not to buy this book is you are just starting to learn about quantum physics, it will confuse you, and these geeks will make you think quantum physics is a bull poop science.
Herbert Gintis
5つ星のうち5.0
Fascinating interviews with the greats of quantum mechanics
2019年4月29日にアメリカ合衆国でレビュー済みAmazonで購入
I was surprised at the amount of insight provided by these radio interviews more than thirty years ago with the major interpreters of quantum mechanics. Most of the interviewees believed that experiments would show the superiority of one view over the other, although their ideas for experiments were quite vague. This of course has not materialized.
Jatin Prajapati
5つ星のうち1.0
Terrible. Missing pages from such profound book.
2020年4月3日にインドでレビュー済みAmazonで購入
Pages are missing from the book. Terrible.