この本に関しては讃辞しか思いつかない。たいへんな労作であり、また、じつに細かな点にまで配慮し尽くした大作である。著者の博士論文がベースとなっているというが、これは雑誌研究を目指す後期課程の学生にとっては、研究方法および執筆スタイルのお手本といっていい。
本書は雑誌「平凡」（月刊誌の方、為念）が1950年代において果たした役割を、そのコンテンツ、送り手、受け手の三方面から分析している。そして政治闘争や労働闘争で語られる1950年代において、じつは圧倒的多数を占めていたのは普通の若者（すなわち平凡な若者、本書の形容では「『平凡』時代の若者たち」）であり、その行動や思想は、けっして政治的な左右対立図式、労働闘争における経営者対労働者といった二項対立で捉えきれないものである、と結論づけている。つまりこの本は、1950年代の新たな視座を雑誌「平凡」の分析を通じて示したものだ。
もちろんこれはきわめて大きなテーマであり、当然ながら、ひとつの雑誌の分析だけで立証できるのか、という疑問が湧いてくるはず。それをやってのけたのが著者の力量の凄さといえる。「平凡」という雑誌の位置づけを明確にするうえで、競合誌「明星」との比較、「平凡」休刊後のマガジンハウスの雑誌（平凡パンチやananなど）との連続性をキッチリと分析している。記事やグラビアだけでなく、送り手である編集者やグラビアに登場した雪村いずみたちへのインタビューを重ね、コンテンツの意図をきちんと抑えている。
個人的に最も興味を持って読んだのは、「平凡友の会」という読者組織に関する部分であった。いわゆる誌友ともいわれるこの「想像の共同体」に関し、投稿内容や会員名簿をもとに、その発生から活動のピーク、そして衰退し消滅する過程をていねいに追いかけている。さらにその特性を把握するために、1950年代の青少年の地域サークル活動の分析までおこなっている。「こういう主張をするにはこういう分析をしなければいけないのでは」という点を、この著者はことごとく抑えている。その緻密さは、解析学の複雑な定理の証明のように思えた。
こうした分析を通じ、1950年代が二項対立では捉えきれないことを問題提起するには、雑誌「平凡」を分析することが最もふさわしいことを示している。著者の力量には脱帽である。
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