聖書とは、神が民を支え、導き、救ってきた道のりの膨大な記憶であり、その記憶に基づいた希望、これからも神はわたしたちに同じことをなしてくださり、現在の抑圧や苦難から必ず救い出されるという希望の書である。ぼくは著者からこういうメッセージを受けとりました。
出エジプト物語は、神が民を救い出したことの、ゆたかで生き生きとした記憶であり、この記憶ゆえに、わたしたちも現代のファラオによる奴隷支配から解放されるという希望と約束を手にしているのです。そして、著者はこの約束は必ず守られると言います。
本書では、神とわたしたちの関係は、個人的なものではなく、わたしたちは神の民に属しているのであり、そういう意味で、集団的なものだと語られ、また、その関係は、「あの時は」「この時は」というような刹那的なものではなく、プロセスにおいて明らかになるものだ、と述べられています。この意味では、創造とは、わたしたちが神との「継続的な関係」を持つ者へと召されることだとされます。
聖書の中には戦争が出て来て、わたしたちは困惑しますが、著者は、これは、わたしたちが断念せざるを得ないような戦いの中でも、神がわたしたちとともに戦い続けてくださることを意味すると言います。イエスの告知を告げる天使の名「ガブリエル」には「戦士」という意味がありますが、これは、神が打ちのめされている人々と一緒にいて救い出すというメッセージだと言うのです。
この本は、ぼくに非常に大切なことを教えてくれました。ぼくは、不正義や抑圧、あるいは、困難なことに満ち、病気や貧困、人間関係や仕事の問題も解決しない世界においても、ただひとつ疑いえないことは、インマヌエル、神がともにいるということ、これだけはたしかだと信じてきました。これが聖書の究極のメッセージだと思いました。どんなときもで、戦いに勝てない時でも、神はともにいる、これこそが救いだと。
けれども、著者は、神はただともにいるだけでなく、わたしたちに関わってくださり、御業をなさってくださる、「言葉は肉となった」とはそういう意味だ、と言います。
これには目が開かれました。たとえどんなことになっても神さまがいてくださる。これは究極の救いだと信じますが、信仰告白として、どこか、合理的、静的な空気があるかも知れません。いや、それだけではない、神さまは御業をなしてくださる。これも究極の救いのメッセージであり、このことを強く告白する必要を今回、感じました。
同じように、ぼくは、いのちとは神とのつながり、他者とのつながりだと静的にも捉えられる言い方で考えていましたが、著者は「生命とは父に喜びをもって従うこと、そして兄弟姉妹に喜びをもって関わること」(p.122)と、動的な表現で再定義しています。
著者は、さらに、回心とは個人的なこと精神的なことにとどまらず、政治的、経済的なことでもあり、人びとを抑圧し搾取し差別し使い捨てる価値観に抗して、社会正義、公正を目指すことだと、非常に重要な指摘をしています。本書全体が、社会正義、国家や政治や社会、権力者によって虐げられた人々を解放し、わたしたちをその御業へと招き入れる神、という観点から書かれています。
つまり、神さまは社会の中で貧しくされている人々と、ともにいるうえに、そこから解放なさるお方なのです。そして、わたしたちはその場に招かれているのです。
もうひとつ、おもしろい指摘がありました。「キリストにあって」という聖書の表現は「主の契約の共同体にあって、という意味」(p.177)というのです。「洗礼を受けてキリストに結ばれた」(ガラテヤ3:27)とは、洗礼を通して、神の救済の記憶とそれゆえの希望、また、解放の御業に招く神へ応答する生き方を共有する、神の民に入る、ということになるのです。
さいごに、著者は聖書は「伝承」だと言います。それは、聖書が現在の形になる以前のいくつもの資料、言い伝えという意味ではなく、現在の形で、今のわたしたちに記憶と希望と招きを生きて語りかけてくる神の言葉ということなのです。
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聖書は語りかける 単行本 – 2011/2/15
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- 本の長さ236ページ
- 言語日本語
- 出版社日本キリスト教団出版局
- 発売日2011/2/15
- ISBN-104818407690
- ISBN-13978-4818407695
登録情報
- 出版社 : 日本キリスト教団出版局 (2011/2/15)
- 発売日 : 2011/2/15
- 言語 : 日本語
- 単行本 : 236ページ
- ISBN-10 : 4818407690
- ISBN-13 : 978-4818407695
- Amazon 売れ筋ランキング: - 1,064,058位本 (本の売れ筋ランキングを見る)
- - 1,287位聖書 (本)
- カスタマーレビュー:
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上位レビュー、対象国: 日本
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2014年5月1日に日本でレビュー済み
Amazonで購入
2011年4月25日に日本でレビュー済み
入門書なので、ざっと読み下せるのかと思って、本を開きましたが、そうはいきませんでした。
言葉がむずかしいわけでもありません。論理展開が難解でもありません。
独自の逆説的な言い回しはありますが。
著者は、聖書を「内部者」として、つまり、聖書が現代に語りかけるその現場に
居合わせるものとしてよむことの必要性を訴えます。
その「内部者」(信者ではありません)になることが、容易ではないのです。
自分の思考を変えてゆく必要があります。
自分がいかに「現代的な」考え方、姿勢に浸っているかを反省させられるのです。
著者の現代(とくにアメリカ合衆国)批判は先鋭です。
キルケゴールを思い出させます。
言葉がむずかしいわけでもありません。論理展開が難解でもありません。
独自の逆説的な言い回しはありますが。
著者は、聖書を「内部者」として、つまり、聖書が現代に語りかけるその現場に
居合わせるものとしてよむことの必要性を訴えます。
その「内部者」(信者ではありません)になることが、容易ではないのです。
自分の思考を変えてゆく必要があります。
自分がいかに「現代的な」考え方、姿勢に浸っているかを反省させられるのです。
著者の現代(とくにアメリカ合衆国)批判は先鋭です。
キルケゴールを思い出させます。