近代仏教の研究が進んでいる今、新たな段階に進むことに貢献しようというのが本書のねらいと著者は言う。その手段として、近代仏教の最大の集団(宗団)である「真宗」を扱った。
本書での「真宗」は、「真宗大谷派」である。しかもその宗派がこれまで清澤満之を主としてきたのに対し、「近角常観」という社会的には「無名」と言える人物を解明しつつ作業をすることに本書の特徴がある。
近角常観については岩田文昭の『近代仏教と青年 近角常観とその時代』がある。碧海は岩田を長とする研究集団に参加し、そこでの知見をも本書に活用したようである。合わせ読まれると相互補完が利いて読者の益は増す。
本書は第一章で清澤満之を扱って「近代真宗」の形成を説き、第二章で近角常観を扱っていま一つの「近代真宗」を説いている。真宗という派内で近角は活躍と挫折を強いられ、しかし独自な「信徒集団」を形成したと分かる。その形成にあたって近角は、論や学ではなく「体験」を語り合うことを大切にした。それが親鸞の道でもあるとした。自身の説教も体験に基づくものであったらしく、また著書においても「懺悔」を重んじ、信徒たちとの語り合いで告白を柱に、その告白を文字にして読み合うなどで「信徒集団」を形成したようである。その断片が本書にあって様子は分かる。
第二章の末尾で碧海は、こう書いている。「近角の体験の宗教思想を検討した本章から示唆すれば、時代の苦悩に応える、と同時に時代を超えた普遍性も備えた体験の言語を語る人材の欠如、その育成の不足こそが、現代における信仰の衰退をもたらしたのだというべきだろう。」
この言葉は著者の現代仏教への最大の呼びかけかと思える。評者もまた、そのように思う。親鸞を扱って「思想家」とするなどもその例のひとつであろう。
第三章「近代真宗とキリスト教―近角常観の布教戦略」、第四章「人格の仏教―近角常観と明治後期・大正期の宗教言説」、第五章「近代仏教とジェンダーー女性信徒の内面を読む」第六章「法主と国家―昭和初期の大谷派宗門革新運動」、終章「真宗の伝統と近代」にわたって著者は、近代仏教と真宗の関わり、問題点を説いている。
その中、章末で「学生信徒の体験談」4点、「求道者たち」5点があり、興味深く読める。ただし、「求道者たち」は元稿を編集したものらしく、やや読みずらい。これは修正されたほうがいいだろう。
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近代仏教のなかの真宗: 近角常観と求道者たち (日本仏教史研究叢書) 単行本 – 2014/8/15
碧海 寿広
(著)
明治時代後期に存在した、近角常観というカリスマ的な真宗僧侶と彼に魅入られた信徒たちによる熱烈な求道と救済の共同体が、近代の日本仏教にいかなる変革をもたらしたかを明らかにする。
- 本の長さ225ページ
- 言語日本語
- 出版社法蔵館
- 発売日2014/8/15
- 寸法14.1 x 1.8 x 19.1 cm
- ISBN-104831860433
- ISBN-13978-4831860439
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登録情報
- 出版社 : 法蔵館 (2014/8/15)
- 発売日 : 2014/8/15
- 言語 : 日本語
- 単行本 : 225ページ
- ISBN-10 : 4831860433
- ISBN-13 : 978-4831860439
- 寸法 : 14.1 x 1.8 x 19.1 cm
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