夢で見たないようが現実になるお話。SFとしても非常にトリッキーで
なぜ夢を現実にできるのかはいっさい語られない。しかしそれがむしろ
深みを出していて、変化してしまう世界に戸惑う主人公に感情移入できる。
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天のろくろ (fukkan.com) 単行本 – 2006/4/1
- 本の長さ253ページ
- 言語日本語
- 出版社復刊ドットコム
- 発売日2006/4/1
- ISBN-104835442210
- ISBN-13978-4835442211
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登録情報
- 出版社 : 復刊ドットコム (2006/4/1)
- 発売日 : 2006/4/1
- 言語 : 日本語
- 単行本 : 253ページ
- ISBN-10 : 4835442210
- ISBN-13 : 978-4835442211
- Amazon 売れ筋ランキング: - 1,261,503位本 (本の売れ筋ランキングを見る)
- カスタマーレビュー:
-
トップレビュー
上位レビュー、対象国: 日本
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2021年2月26日に日本でレビュー済み
本書は1971年に発表されたル・グィンの7作目の長編です。
評者としては5冊目のル・グィン、昔サンリオで購入していた4冊の中の1冊になります。
先に発表された6作うち、4作はハイニッシュ・ユニバース・シリーズ、2作はアース・シー・シリーズに属する作品ですが、本作はそれらのシリーズとは全く関係のない独立した作品で、以後も関連する作品は書かれていないようです。
1968年に発表した『闇の左手』や『影との戦い』で高い評価を得た後に書かれた作品なので、相当な意欲を持って書かれた作品であろうと想像します。
本書は、自分が見た夢が現実になってしまったことに恐怖し、これ以上は夢を見たくないと望む主人公の青年ジョージ・オアと、彼の治療を担当することになってからは彼の見る夢を社会改革のために利用としようと考えるヘイパー博士、そして、ジョージが助けを求める公民権弁護士のヘザー・ルラッシュ(黒人女性)の3人の物語です。
時代設定は21世紀初頭。人口増加による環境破壊、気象異常、食料不足に苦しむオレゴン州ポートランド市が舞台です。1970年頃にはこのような設定の近未来SFがあふれていたように思いますが、ル・グィンもそこに参入したことになります。
それまでに発表された6冊の長編がすべて未来の宇宙世界と異世界を舞台にしたシリーズの作品だったと考えると、一気に身近な世界に近づいた感じです。
詳細なあらすじは省きますが、主人公のジョージ青年が見た夢が現実になることを知ったヘイパー博士は、治療の前段階として彼に暗示を与えて自分の望む夢を見させて社会を変革しようと考えます。博士は悪人ではないのですが、性格的な問題で主人公と対立し、困った主人公が公民権弁護士のヘザーに助けを求めて以来、二人は徐々に愛を育んでいきます。
初対面の時には、お互いに苦手なタイプだと思っていたジョージとヘザーが、いつの間にか離れがたい関係になる物語は、ル・グィンのテーマの一つだと訳者あとがきで指摘されています。
博士の治療を受けながら主人公が見る夢は社会を大きく変えていきます。人口爆発、国境紛争、人種間対立などの問題が主人公の夢によって解消されます。しかし、夢ゆえの不条理さ。その結果は良いことばかりではありません。
例えば人種間対立。それがなぜ解消されたかというと、主人公が地球上の人間の肌の色が全員灰色一色になった夢を見たから。そうなってしまった社会で、主人公と博士以外の全世界の人々はそれが当たり前だと思って生きているのです。しかし、主人公だけは、ヘザーの琥珀色の肌に魅力を感じていたことが忘れられません。
メイン・テーマが夢なので、ストーリーの展開は不条理であったり、ぼんやりしたところがあることは否めません。最後には落ち着くところに落ち着きますが、これで良いのか・・・
本作は、ル・グィンの代表作のひとつだと評価する声もあるようですが、評者にはル・グィンが本作で何を書こうとしたのか理解できません。寓話なのかな?
老荘思想があちこちに顔を出しますが、そのことも難解さの原因かもしれません。評者にはよくわかりません。もしかしたら、あるがままに生きよ。と言いたいのかなと思ってみたり・・・冒頭の海月のように。
訳者あとがきによると、物語の舞台となっているオレゴン州ポートランド市は作者の居住地であり、ヒロインのヘザーは作者自身が理想としている女性ではないかと考えている。ということは、一種の妄想的私小説なのかも?
評者としては5冊目のル・グィン、昔サンリオで購入していた4冊の中の1冊になります。
先に発表された6作うち、4作はハイニッシュ・ユニバース・シリーズ、2作はアース・シー・シリーズに属する作品ですが、本作はそれらのシリーズとは全く関係のない独立した作品で、以後も関連する作品は書かれていないようです。
1968年に発表した『闇の左手』や『影との戦い』で高い評価を得た後に書かれた作品なので、相当な意欲を持って書かれた作品であろうと想像します。
本書は、自分が見た夢が現実になってしまったことに恐怖し、これ以上は夢を見たくないと望む主人公の青年ジョージ・オアと、彼の治療を担当することになってからは彼の見る夢を社会改革のために利用としようと考えるヘイパー博士、そして、ジョージが助けを求める公民権弁護士のヘザー・ルラッシュ(黒人女性)の3人の物語です。
時代設定は21世紀初頭。人口増加による環境破壊、気象異常、食料不足に苦しむオレゴン州ポートランド市が舞台です。1970年頃にはこのような設定の近未来SFがあふれていたように思いますが、ル・グィンもそこに参入したことになります。
それまでに発表された6冊の長編がすべて未来の宇宙世界と異世界を舞台にしたシリーズの作品だったと考えると、一気に身近な世界に近づいた感じです。
詳細なあらすじは省きますが、主人公のジョージ青年が見た夢が現実になることを知ったヘイパー博士は、治療の前段階として彼に暗示を与えて自分の望む夢を見させて社会を変革しようと考えます。博士は悪人ではないのですが、性格的な問題で主人公と対立し、困った主人公が公民権弁護士のヘザーに助けを求めて以来、二人は徐々に愛を育んでいきます。
初対面の時には、お互いに苦手なタイプだと思っていたジョージとヘザーが、いつの間にか離れがたい関係になる物語は、ル・グィンのテーマの一つだと訳者あとがきで指摘されています。
博士の治療を受けながら主人公が見る夢は社会を大きく変えていきます。人口爆発、国境紛争、人種間対立などの問題が主人公の夢によって解消されます。しかし、夢ゆえの不条理さ。その結果は良いことばかりではありません。
例えば人種間対立。それがなぜ解消されたかというと、主人公が地球上の人間の肌の色が全員灰色一色になった夢を見たから。そうなってしまった社会で、主人公と博士以外の全世界の人々はそれが当たり前だと思って生きているのです。しかし、主人公だけは、ヘザーの琥珀色の肌に魅力を感じていたことが忘れられません。
メイン・テーマが夢なので、ストーリーの展開は不条理であったり、ぼんやりしたところがあることは否めません。最後には落ち着くところに落ち着きますが、これで良いのか・・・
本作は、ル・グィンの代表作のひとつだと評価する声もあるようですが、評者にはル・グィンが本作で何を書こうとしたのか理解できません。寓話なのかな?
老荘思想があちこちに顔を出しますが、そのことも難解さの原因かもしれません。評者にはよくわかりません。もしかしたら、あるがままに生きよ。と言いたいのかなと思ってみたり・・・冒頭の海月のように。
訳者あとがきによると、物語の舞台となっているオレゴン州ポートランド市は作者の居住地であり、ヒロインのヘザーは作者自身が理想としている女性ではないかと考えている。ということは、一種の妄想的私小説なのかも?
2006年7月9日に日本でレビュー済み
25年前に読んだ。
当時、サンリオSF文庫より
出版されていた。
ル・グィンの有名な『闇の左手』系列の
宇宙史SFとは、完全に独立した作品。
本編で、注目すべきは、異星人によって、
本土攻撃を受ける合衆国オレゴン州のシーンで、
オレゴン在住の、ル・グインが、
「オレゴン州は、合衆国で、本土攻撃を
体験した事のある唯一の州」と、
述べている事である。勿論、2001年9月の
テロ以前に、執筆された作品であり、
この本土攻撃とは旧日本軍の伊号潜水艦に
搭載されて、オレゴン州の山の中に、
小さな爆弾を投下してきた、
旧日本軍戦闘機の事である。
そして、今世紀になって、WTCを
崩壊させた、テロ攻撃。
本作の中で、人類は一度、世界戦争で、
滅びかけている。原因は中東危機。
その世界戦争の最中で、主人公オアは、
瀕死の状態で、絶望の中でまどろみ、
夢を見て、人類を救ってしまうのだが、
その後、このオアの能力が、作品世界の
問題を解決させるどころか、ますます、
混迷を深めさせて行く。
人間と言うのは、生きている限り、
問題が起き続け、生きている限り、
問題に対処し続けなくてはならないと言う、
そういう姿が、描かれている。
21世紀の現実世界の混迷を
考えると、作品世界よりも、
現実の方の錯綜振りが、余りにも、
強烈過ぎて、「悲劇的」を通り越して、
「喜劇的」な感すら、ある。
本作で描かれたジョージ・オアの様に、
夢に「力」が有るのならば、この現実世界は、
一体、誰の見た夢なのか。
そして、もう一人の、大統領ジョージは、
今、どんな夢を見ているのか。
或いは、大統領ジョージは、嘗て酒浸りで、
どんな夢を見ていたのか。
当時、サンリオSF文庫より
出版されていた。
ル・グィンの有名な『闇の左手』系列の
宇宙史SFとは、完全に独立した作品。
本編で、注目すべきは、異星人によって、
本土攻撃を受ける合衆国オレゴン州のシーンで、
オレゴン在住の、ル・グインが、
「オレゴン州は、合衆国で、本土攻撃を
体験した事のある唯一の州」と、
述べている事である。勿論、2001年9月の
テロ以前に、執筆された作品であり、
この本土攻撃とは旧日本軍の伊号潜水艦に
搭載されて、オレゴン州の山の中に、
小さな爆弾を投下してきた、
旧日本軍戦闘機の事である。
そして、今世紀になって、WTCを
崩壊させた、テロ攻撃。
本作の中で、人類は一度、世界戦争で、
滅びかけている。原因は中東危機。
その世界戦争の最中で、主人公オアは、
瀕死の状態で、絶望の中でまどろみ、
夢を見て、人類を救ってしまうのだが、
その後、このオアの能力が、作品世界の
問題を解決させるどころか、ますます、
混迷を深めさせて行く。
人間と言うのは、生きている限り、
問題が起き続け、生きている限り、
問題に対処し続けなくてはならないと言う、
そういう姿が、描かれている。
21世紀の現実世界の混迷を
考えると、作品世界よりも、
現実の方の錯綜振りが、余りにも、
強烈過ぎて、「悲劇的」を通り越して、
「喜劇的」な感すら、ある。
本作で描かれたジョージ・オアの様に、
夢に「力」が有るのならば、この現実世界は、
一体、誰の見た夢なのか。
そして、もう一人の、大統領ジョージは、
今、どんな夢を見ているのか。
或いは、大統領ジョージは、嘗て酒浸りで、
どんな夢を見ていたのか。
2009年5月4日に日本でレビュー済み
Amazonで購入
ル・グインの傑作『天のろくろ』はアメリカでは映画化もされ(日本未公開)、最近の映画『ジェイン・オースティンの読書会』でもSFオタクのグリッグに『闇の左手』同様に高く評価されているのに、日本ではサンリオSF文庫で出版され、その後再刊もされていない不幸な作品です。サンリオ文庫版も脇明子の名訳だったにも関わらず。
設定は一種のマッド・サイエンテイストものですが、主人公オアが自分が見た夢の通りに世界が改変してしまうパワーに気が付くあたりに、ル・グインの社会変革の意志があります。『ゲド戦記』やアースシーものとは異なる異色作品ですが、夢見るパワーを評価する点ではフィリップ・K・ディックの「壊れよ! この世界」と現実を解体して新生を期待するのと同じ作家魂を感じます。
復刊はうれしい限りです。
設定は一種のマッド・サイエンテイストものですが、主人公オアが自分が見た夢の通りに世界が改変してしまうパワーに気が付くあたりに、ル・グインの社会変革の意志があります。『ゲド戦記』やアースシーものとは異なる異色作品ですが、夢見るパワーを評価する点ではフィリップ・K・ディックの「壊れよ! この世界」と現実を解体して新生を期待するのと同じ作家魂を感じます。
復刊はうれしい限りです。
2011年9月6日に日本でレビュー済み
若き日のル=グィンの名作。変な上にも変な話であり、絶版→復刊にふさわしいと感じる。
あなたにも、廃墟に響く古代音楽の歌声をきいてほしい。
あなたにも、廃墟に響く古代音楽の歌声をきいてほしい。