荒野さんの小説は、時間がゆっくり流れているのを感じる。そのぶん、恋愛の調べが倍音になって心に響く。男女の関係は石で作った橋を渡るように、頑強なのに危うい。
夫と妻という立場は、何者にも侵すことができない領域なのか。しかも愛し愛されているという真実を疑いもしなくなるのか。その強さはなんだろう。誰よりも美しい妻は恋愛に慢心しない。夫を自然に愛し、それが当たり前のように振舞う。家庭料理が出てくる場面は家族の絆の深さを感じる。夫婦というものは、それが当たり前なのか。
浮気を繰り返す夫を、妻は全てわかっている。しかし絶対夫は自分のもとへ帰ってくるのを知っている。誰より美しいからではなく、妻だからだ。夫を心から愛している「家族」だからだ。帰巣する本能を愛情で出迎えることができるから、妻は誰よりも美しいく強いのだ。妻のもとへ帰ってきた夫が、たとえ亡骸になったとしても。
妻というものに、憧れ、見習い、嫉妬した物語だった。
愛は、怠惰だ。
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誰よりも美しい妻 単行本 – 2005/12/15
井上 荒野
(著)
誰よりも美しい妻は、幸福なのだろうか、不幸なのだろうか。
今、注目の作家、井上荒野(あれの)の最新作。昨年、『潤一』で第11回島清恋
愛文学賞を受賞し、その後『だりや荘』『しかたのない水』とたてつづけに秀作
を発表してきた著者が、満を持して世に問うのがこの長篇恋愛小説です。マガジ
ンハウスのリトル・マガジン「ウフ.」に連載(13回)された作品を、全面的に
改稿、完璧な作品に仕上がりました。
主人公の安海園子(33歳)は美しい。その美しさは同性の女性によってこのよう
に描写される。「園子はここにいる誰よりも美しいが、その美しさは、なんとい
うか、あまりにも野放図で、傍若無人だ。たとえば、ビルとビルの隙間につぶれ
た箱みたいにがんばっている古い民家の窓辺の、繁り放題に繁った野バラを、女
は思い浮かべる。大型トラックの埃をかぶりながら、蔦に侵食されながら、しゃ
あしゃあと美しい野バラ」。夫の惣介は著名なヴァイオリニストだ。年齢は園子
のひまわり上。「園子を失ったらおれは生きたまま死んでしまう」と信じている
のと、若い女との関係に情熱的なことは自然に両立している(しかも園子は夫の
恋を知っている!)。そして息子の深(12歳)がいる。彼も初めての恋――クラス
メートの可愛い岩崎みくに夢中だ。物語はこの一家と、惣介の先妻・みちる、惣
介の親友・広渡(チェリストの彼は、ひそかに園子に想いを寄せている)、さら
に惣介の若い恋人・鰐淵十和子をめぐってまるで官能的な円舞曲のように展開す
る。しかし、この小説には恋愛に特有の「嫉妬」という感情が一切描かれていな
い。それで恋愛小説は成立するのか――その疑問には、「ともかくこの小説をお読
みください」と答えるしかない。
園子のこんな独白はどうだろう――「私が夫を愛することをやめたら、夫は廃人の
ようになってしまうだろう。少なくとも、ヴァイオリンは弾き続けられないだろ
う。それは、それほど夫が私を愛しているからではない。私が夫を愛しているか
らだ。私が自分を愛し続けることを、惣介は信じているからだ。宗教のように。
そういえば彼はよく言う。『あんたは俺の神様だ』と」
〈新しい形の恋愛小説〉をお届けします。
今、注目の作家、井上荒野(あれの)の最新作。昨年、『潤一』で第11回島清恋
愛文学賞を受賞し、その後『だりや荘』『しかたのない水』とたてつづけに秀作
を発表してきた著者が、満を持して世に問うのがこの長篇恋愛小説です。マガジ
ンハウスのリトル・マガジン「ウフ.」に連載(13回)された作品を、全面的に
改稿、完璧な作品に仕上がりました。
主人公の安海園子(33歳)は美しい。その美しさは同性の女性によってこのよう
に描写される。「園子はここにいる誰よりも美しいが、その美しさは、なんとい
うか、あまりにも野放図で、傍若無人だ。たとえば、ビルとビルの隙間につぶれ
た箱みたいにがんばっている古い民家の窓辺の、繁り放題に繁った野バラを、女
は思い浮かべる。大型トラックの埃をかぶりながら、蔦に侵食されながら、しゃ
あしゃあと美しい野バラ」。夫の惣介は著名なヴァイオリニストだ。年齢は園子
のひまわり上。「園子を失ったらおれは生きたまま死んでしまう」と信じている
のと、若い女との関係に情熱的なことは自然に両立している(しかも園子は夫の
恋を知っている!)。そして息子の深(12歳)がいる。彼も初めての恋――クラス
メートの可愛い岩崎みくに夢中だ。物語はこの一家と、惣介の先妻・みちる、惣
介の親友・広渡(チェリストの彼は、ひそかに園子に想いを寄せている)、さら
に惣介の若い恋人・鰐淵十和子をめぐってまるで官能的な円舞曲のように展開す
る。しかし、この小説には恋愛に特有の「嫉妬」という感情が一切描かれていな
い。それで恋愛小説は成立するのか――その疑問には、「ともかくこの小説をお読
みください」と答えるしかない。
園子のこんな独白はどうだろう――「私が夫を愛することをやめたら、夫は廃人の
ようになってしまうだろう。少なくとも、ヴァイオリンは弾き続けられないだろ
う。それは、それほど夫が私を愛しているからではない。私が夫を愛しているか
らだ。私が自分を愛し続けることを、惣介は信じているからだ。宗教のように。
そういえば彼はよく言う。『あんたは俺の神様だ』と」
〈新しい形の恋愛小説〉をお届けします。
- 本の長さ243ページ
- 言語日本語
- 出版社マガジンハウス
- 発売日2005/12/15
- ISBN-10483871632X
- ISBN-13978-4838716326
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商品の説明
出版社からのコメント
誰よりも美しい妻、園子を中心に、夫と愛人、息子と恋人たちがからみあう。不思議な恋の円舞曲が展開する長編恋愛小説。
登録情報
- 出版社 : マガジンハウス (2005/12/15)
- 発売日 : 2005/12/15
- 言語 : 日本語
- 単行本 : 243ページ
- ISBN-10 : 483871632X
- ISBN-13 : 978-4838716326
- Amazon 売れ筋ランキング: - 1,060,570位本 (本の売れ筋ランキングを見る)
- - 24,241位日本文学
- カスタマーレビュー:
著者について
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1961年東京都生まれ。成蹊大学文学部卒業。1989年「わたしのヌレエフ」で第1回フェミナ賞を受賞し、デビュー。2004年『潤一』(新潮文庫)で第11回島清恋愛文学賞、2008年『切羽へ』(新潮社)で第139回直木賞を受賞。『あなたがうまれたひ』(福音館書店)など絵本の翻訳も手掛けている。
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トップレビュー
上位レビュー、対象国: 日本
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2023年7月8日に日本でレビュー済み
Amazonで購入
ラジオでお勧めしていたので買いましたが、不倫の話で、ちょっと気分が悪くなりました。
それでもせっかく購入したので、最後まで読みました。
状態は良かったです。
それでもせっかく購入したので、最後まで読みました。
状態は良かったです。
2006年1月31日に日本でレビュー済み
Amazonで購入
どこかひんやりとした作品の手触と、タイプとしての作品の位置づけは、江國香織さんと共通するものを感じます。けれどおふたりの作品には大きな違いがあり、江國さんが主人公であるところの「わたし」を描いていることに対し、井上さんの作品は、主人公たちが他者との間に紡ぐ「関係性」を描いている、そんなふうに思えます。もちろん、どちらが良いなどという話しではなく、それぞれがそれぞれに素晴らしい。
井上さんの著作全てを読んできましたが、ぼくにとっては本作品が最高傑作でした。リアリティを損なわない範囲での抑制の効いた「意外性」。ストーリーにもあり、登場人物たちの行動や感情にも描かれたその「意外性」は、本作品の大きな魅力のひとつです。
また、読みやすいながらも非常に練られた文章には、時として、登場人物たちの隠された心情をふいにあらわにし、人物同士の間に作られていた関係を、一瞬にして緊張感溢れる不安定なものとして見せてくれる、そんな言葉が随所に埋め込まれています。魅力的なストーリーを追うことを主眼とした気軽な読み方もアリでしょうが、一行一行を丁寧に読み進めることで、味わいはより深く濃くなることうけあいです。
そして最大の魅力は、一見すると読者である自分からは遠くかけ離れた存在であるかのような登場人物たちですが、彼ら彼女らの心を抉り出す文章のそのひと言ひと言が、ぼくらどこにでもいるような者たちにも当てはまることばかりだということです。それはある意味とても恐ろしいことなのだけれど、どうしようもなく惹き付けられてしまう魅力です。
再読、再々読に耐えうる、素晴らしい作品だと思います。
井上さんの著作全てを読んできましたが、ぼくにとっては本作品が最高傑作でした。リアリティを損なわない範囲での抑制の効いた「意外性」。ストーリーにもあり、登場人物たちの行動や感情にも描かれたその「意外性」は、本作品の大きな魅力のひとつです。
また、読みやすいながらも非常に練られた文章には、時として、登場人物たちの隠された心情をふいにあらわにし、人物同士の間に作られていた関係を、一瞬にして緊張感溢れる不安定なものとして見せてくれる、そんな言葉が随所に埋め込まれています。魅力的なストーリーを追うことを主眼とした気軽な読み方もアリでしょうが、一行一行を丁寧に読み進めることで、味わいはより深く濃くなることうけあいです。
そして最大の魅力は、一見すると読者である自分からは遠くかけ離れた存在であるかのような登場人物たちですが、彼ら彼女らの心を抉り出す文章のそのひと言ひと言が、ぼくらどこにでもいるような者たちにも当てはまることばかりだということです。それはある意味とても恐ろしいことなのだけれど、どうしようもなく惹き付けられてしまう魅力です。
再読、再々読に耐えうる、素晴らしい作品だと思います。
2008年9月15日に日本でレビュー済み
圧倒的に美しく、オシャレで料理上手、家族への慈愛に満ちている。
しかも自分の美しさは夫のためだけにあればよい、という貞淑さ。
これだけでも十分優等生妻ですが・・
次々と愛人を作る夫に全く動じず嫉妬せず、家に連れて来れば感じ良く接待する?!
彼女は世の男性の描く理想の妻像なのでしょうか?
音楽家の夫の仕事の一部である「本を読んで論評を書くこと」まで代わりにやってくれる妻。
まるで息子を溺愛しすべてを受け入れ甘やかす母親のようです。
解脱した女性のレアなサンプルとして楽しく読みました。
しかも自分の美しさは夫のためだけにあればよい、という貞淑さ。
これだけでも十分優等生妻ですが・・
次々と愛人を作る夫に全く動じず嫉妬せず、家に連れて来れば感じ良く接待する?!
彼女は世の男性の描く理想の妻像なのでしょうか?
音楽家の夫の仕事の一部である「本を読んで論評を書くこと」まで代わりにやってくれる妻。
まるで息子を溺愛しすべてを受け入れ甘やかす母親のようです。
解脱した女性のレアなサンプルとして楽しく読みました。
2006年2月3日に日本でレビュー済み
「誰よりも美しい妻」園子は夫・惣介にとって最高の母港だ。
夫である惣介の浮気心を確信しても、自分の心を乱すこともない。
かえって夫をサポートする。
自分にも夫にもゆるぎない自信を持っているから。
静かで波の立たない水面の下には「死」の覚悟もある。
すごすぎるよ。あたしにはわかんないよ。
絶対的な妻の座につくということは、
悟りを得ることとおなじなのかしら。
恋愛は強い感情に突き動かされて、
悲しんだり妬いたりいとしく焦がれたりするのに
妻になって結婚生活を永く続けることって「誰よりも美しい妻」になることなのかしら。
実は世の中には「誰よりも美しい妻」たちが
いっぱいいるのだったりして。
夫である惣介の浮気心を確信しても、自分の心を乱すこともない。
かえって夫をサポートする。
自分にも夫にもゆるぎない自信を持っているから。
静かで波の立たない水面の下には「死」の覚悟もある。
すごすぎるよ。あたしにはわかんないよ。
絶対的な妻の座につくということは、
悟りを得ることとおなじなのかしら。
恋愛は強い感情に突き動かされて、
悲しんだり妬いたりいとしく焦がれたりするのに
妻になって結婚生活を永く続けることって「誰よりも美しい妻」になることなのかしら。
実は世の中には「誰よりも美しい妻」たちが
いっぱいいるのだったりして。
2016年9月14日に日本でレビュー済み
タイトルから私が想像したのと内容が真逆でしたのでいつか私の希望する 誰よりも美しい妻 編をお願いします。
常識的で貞操観念もしっかりとあって、一見普通の綺麗な人妻・・・。
なのですが、どうにもこうにも異性も同性も惹きつけてしまう圧倒的な魅力の持ち主。
夫はそんな自分の妻が誇らしくもあるが表面ではクールを装っていてある時妻が恋に落ちたことで焦燥感と悲壮感にさいなまれ苦悩する。
妻に問いただして無理矢理引き裂くべきか、それとも妻を信じて終わりを待つのか。
そっちのストーリーかと思い購入を検討しましたが逆だったのでやめました。
常識的で貞操観念もしっかりとあって、一見普通の綺麗な人妻・・・。
なのですが、どうにもこうにも異性も同性も惹きつけてしまう圧倒的な魅力の持ち主。
夫はそんな自分の妻が誇らしくもあるが表面ではクールを装っていてある時妻が恋に落ちたことで焦燥感と悲壮感にさいなまれ苦悩する。
妻に問いただして無理矢理引き裂くべきか、それとも妻を信じて終わりを待つのか。
そっちのストーリーかと思い購入を検討しましたが逆だったのでやめました。
2009年10月10日に日本でレビュー済み
「切羽へ」を読みとても感銘を受けたのでこの本を手にしました。
しかし、残念ながら楽しむことはできませんでした。
その一番の理由は、全てのエピソードが方向性を持っていない点です。
個々のエピソードが、読者の好奇心を刺激するように書かれていながら、それだけに終わっている所です。
何も伝えようとしない、所謂「シュール」なフィクションは、それなりの面白さを提供してくれますが、この小説は「シュール」な作品でもありません。
繰り返しになりますが、個々のエピソードが「興味本位」といえば言い過ぎかもしれませんが、それに近いくらい、一貫性を損ねていると私は思います。
「切羽へ」で、江國香織さんの書く文章に似ていて、なおそれを凌ぐ感動を受けた後だけに残念です。
しかし、残念ながら楽しむことはできませんでした。
その一番の理由は、全てのエピソードが方向性を持っていない点です。
個々のエピソードが、読者の好奇心を刺激するように書かれていながら、それだけに終わっている所です。
何も伝えようとしない、所謂「シュール」なフィクションは、それなりの面白さを提供してくれますが、この小説は「シュール」な作品でもありません。
繰り返しになりますが、個々のエピソードが「興味本位」といえば言い過ぎかもしれませんが、それに近いくらい、一貫性を損ねていると私は思います。
「切羽へ」で、江國香織さんの書く文章に似ていて、なおそれを凌ぐ感動を受けた後だけに残念です。