これ以前に小室直樹の「イスラム入門」を読んでいましたが、イスラムの成り立ちと
アラブ人の文化的優越感、それに対し野蛮だが戦争はめっぽう強い西洋人という
イメージがあり、やはり攻め込まれた側、攻めた側という構図を意識していましたが、
この本を見るとさにあらず。
イスラム諸国は西洋人とのファーストコンタクトなどという衝撃は当初からなく、
あいつらか。というようなそれこそ昔の隣人のような意識を当初から持っていた。
意外だったのは聖地に対する情熱および領土欲のすさまじさで、
権力者の死に伴う後継者争い、自分たち自身の領土争いに明け暮れていた
ムスリムはこれに対し一貫した姿勢を貫けず、戦争のたびに離散集合する
烏合の衆のごとき不安定さをあらわにし、ついに聖地入城を許す。
しかも宗教的結束は今日見られるイスラム対クリスチャンという相容れなさとは
程遠い。
敵の敵は味方とばかりにフランク(この本では十字軍はひとまとめにフランクと称する)
と同盟する者あり、現実的観点から地中海沿岸の領有を認め、あまつさえ西欧諸国との
交易で利を得ようとするものあり。
そもそもアラブ諸国のムスリム自体が土着勢力ではなく、彼らはイスラムに改宗した
トルコ系民族の国家なのである。 中国で言えば漢民族の王朝でない、元や清。
さらに同時期東方から迫るタタール(元)に蹂躙されるイスラム諸国、それに呼応する
フランク。 エジプトで独立するサラディン。 この時代は宗教、民族、領土欲の
「エネルギー」こそが主役であって人間はその器にすぎないというような錯覚を
覚えるほどだ。
そしてしばしば示される敵に対する寛容さはムスリムの大器をあらわすも、
フランクに対する妥協と主導権の喪失につながっている。
これを一方的な被害者と加害者に解釈するのはいささか疑問に見える。
本書は日本的な解釈とはかけ離れた、アラブにとっての十字軍の対応を非常に
ドラマチックな筆遣いで描き、歴史小説のような読みやすさを持っている。
TVゲームの「アサシンクリ-ド」シリーズをプレイした後に関心をもって見てみたが
例の「暗殺教団」もしっかり登場し、いったいどのような時代・社会だったのか
理解が深まる事請け合いです。
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アラブが見た十字軍 単行本 – 1986/4/1
- 本の長さ430ページ
- 言語日本語
- 出版社リブロポート
- 発売日1986/4/1
- ISBN-104845702185
- ISBN-13978-4845702183
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登録情報
- 出版社 : リブロポート (1986/4/1)
- 発売日 : 1986/4/1
- 言語 : 日本語
- 単行本 : 430ページ
- ISBN-10 : 4845702185
- ISBN-13 : 978-4845702183
- Amazon 売れ筋ランキング: - 467,751位本 (本の売れ筋ランキングを見る)
- - 1,253位ヨーロッパ史一般の本
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2014年4月1日に日本でレビュー済み
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2020年8月14日に日本でレビュー済み
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西洋から見た今までの十字軍とは違って、侵略され混乱するアラブ側の歴史。十字軍の歴史の奥深さが楽しめる。しかし、ムスリムの名前は覚えにくい。
2017年12月6日に日本でレビュー済み
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全体を俯瞰するには、相手側からも見なければ片手落ちである。アニメが好きな方は、「アルスラーン戦記」の元ネタをあちこちで発見するだろう。
2012年1月5日に日本でレビュー済み
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今の世界史は中世以降のヨーロッパの視点から作られた物です この本を読むとそれがよく分かります アラブから見るとヨーロッパはビザンツ帝国はローム人(ローマ人)でそれ以外は全てフランクです フランスはもちろんのことベネチア(当時はひとつの国)もイギリスも神聖ローマもです 一方アラブは地方豪族の寄り集まりでとても帝国ではありません 有名なサラーフッディーン(サラディン)はクルド人ですしその後に続くペルシャやオスマントルコを見てもヨーロッパから見たひとつのイスラム帝国とは相当違うと思います また11世紀前後の医学における(もちろん文化も含めて)ヨーロッパの後進性は私の高校の教科書には無いものでした どこまでが正確かは別にして読むに値すると思います
2015年5月7日に日本でレビュー済み
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塩野七生「十字軍物語」に不満を感じた読者なら、この本とランシマン「十字軍の歴史」をあわせ読むことを勧める。塩野本のネタはこの二つの著作にほぼ網羅されている。塩野の感想や思い込みが「うざい」とか「偏っている」と思う人にはこちらのほうが公平・明解であろう。とくにイスラム側の視点からまとめられた類書はほとんど存在しないので貴重である。
ただし、翻訳は過去形、現在形がバラバラで日本語の文章としては読みづらい。また、散見する引用文も字体を変えるなどの工夫がみられないため読み疲れする。印刷の質も「十字軍の歴史」と比較すると一目瞭然である(単行本について)。
しかし「十字軍」についての一般読者向けとして基本的な読み物である。これを読めば「十字軍遠征」に一かけらの正義も道義もなかったことがわかる。
ただし、翻訳は過去形、現在形がバラバラで日本語の文章としては読みづらい。また、散見する引用文も字体を変えるなどの工夫がみられないため読み疲れする。印刷の質も「十字軍の歴史」と比較すると一目瞭然である(単行本について)。
しかし「十字軍」についての一般読者向けとして基本的な読み物である。これを読めば「十字軍遠征」に一かけらの正義も道義もなかったことがわかる。
2019年8月28日に日本でレビュー済み
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すごく楽しみにして買ったのに翻訳がGoogle翻訳?というレベルで非常に読みにくい。翻訳者はカトリックなの?と疑うレベル。
2011年7月26日に日本でレビュー済み
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先に発生したノルウエーでのテロ事件は反イスラムを唱える原理主義者の行為のようだが、この本を読むと今から約1000年近く前のヨーロッパ十字軍のアラブ世界への侵攻がキリスト教原理主義集団の蛮行であり、今回のテロと根深いところで共通するものを感じる。
ヨーロッパでは美化される十字軍だが、アラブ世界での残虐の数々を冷静に記述しており、一読に値する。
ヨーロッパでは美化される十字軍だが、アラブ世界での残虐の数々を冷静に記述しており、一読に値する。
2013年7月29日に日本でレビュー済み
塩野七生の「十字軍物語」を読んでいたので、今度はアラブ側の十字軍に対する見方を知りたくて、本書を手に取った。
十字軍に関して書かれた本の大半は、西洋の立場で書かれており、中近東から遠く離れた日本においてすら、西洋の歴史認識が支配的な地位を占めている。塩野七生の「十字軍物語」は面白い本だったが、やはりその範疇を出ることはない。こうした歴史観に対して、一方当事者であるアラブ側から一石を投じることを目的に執筆されたのが本書である。そうした著者の思いがタイトルからもひしひしと伝わってくるだけに、かなり固い、敷居の高い本だと思い、それなりの心構えで読み始めた。しかし、本書は私のようなアラブ(イスラム)に関する予備知識のない読者への心配りも効いていて、とにかく読みやすくて面白い。これはうれしい誤算だった。
そもそも、十字軍に関する疑問は、中世西洋とは文化レベルは比べものにならず、人数では圧倒的に勝り、地の利もあるイスラム勢力が、なぜ西洋に負け続けたのかという点に尽きる。その答えは、当時の中近東では様々な勢力が群雄割拠し、西洋からの侵略者に立ち向かうよりも目の前の敵を倒す、屈服させることに主眼が置かれていたからに他ならない。彼らは、目先の敵を倒すためなら、中近東に居座った西洋のキリスト教勢力と組むことも何ら躊躇わなかった。要するに、十字軍は西洋対アラブ、キリスト教対イスラム教という二大勢力による争いとは単純に言い切れないその複雑な構造故に、欧州や中近東から遠い日本人にとっては理解が難しいのだが、この本では歴史書を引用しながら、その歴史模様を鮮やかに描き出している。
一方で、十字軍の物語には欠かせないとされる、サラディンvsリチャード一世の対決にはほとんど触れていない。フリードリッヒ1世に関する記述もそれほど多くないことから、西洋史観に慣れた人間にとっては、多少物足りない点はあるかもしれない。しかし、仮にこうした有名人の個々のエピソードを強調した場合、ストーリーの流れがいびつになり、かえって当時の歴史の全体図を把握する障害となっただろう。アラブから見た十字軍を語るという大枠を堅持するうえで、著者の選択は正しい。
十字軍についてより知りたいと思っても、学者による専門書や論文は敷居が高すぎるという読者にとって、不特定多数の読者に訴える記事を書き続けたジャーナリスト出身の著者による本書は最適な本であろう。前述の西洋視点で書かれた塩野七生の「十字軍物語」と併読すれば、歴史絵巻を読む感覚で、十字軍についてより深く理解できるはずである。9.11以降イスラム教やアラブに対してある種の偏見というか忌避感が日本にも存在するが、そういう人にこそ本書を手にとって欲しい。
十字軍に関して書かれた本の大半は、西洋の立場で書かれており、中近東から遠く離れた日本においてすら、西洋の歴史認識が支配的な地位を占めている。塩野七生の「十字軍物語」は面白い本だったが、やはりその範疇を出ることはない。こうした歴史観に対して、一方当事者であるアラブ側から一石を投じることを目的に執筆されたのが本書である。そうした著者の思いがタイトルからもひしひしと伝わってくるだけに、かなり固い、敷居の高い本だと思い、それなりの心構えで読み始めた。しかし、本書は私のようなアラブ(イスラム)に関する予備知識のない読者への心配りも効いていて、とにかく読みやすくて面白い。これはうれしい誤算だった。
そもそも、十字軍に関する疑問は、中世西洋とは文化レベルは比べものにならず、人数では圧倒的に勝り、地の利もあるイスラム勢力が、なぜ西洋に負け続けたのかという点に尽きる。その答えは、当時の中近東では様々な勢力が群雄割拠し、西洋からの侵略者に立ち向かうよりも目の前の敵を倒す、屈服させることに主眼が置かれていたからに他ならない。彼らは、目先の敵を倒すためなら、中近東に居座った西洋のキリスト教勢力と組むことも何ら躊躇わなかった。要するに、十字軍は西洋対アラブ、キリスト教対イスラム教という二大勢力による争いとは単純に言い切れないその複雑な構造故に、欧州や中近東から遠い日本人にとっては理解が難しいのだが、この本では歴史書を引用しながら、その歴史模様を鮮やかに描き出している。
一方で、十字軍の物語には欠かせないとされる、サラディンvsリチャード一世の対決にはほとんど触れていない。フリードリッヒ1世に関する記述もそれほど多くないことから、西洋史観に慣れた人間にとっては、多少物足りない点はあるかもしれない。しかし、仮にこうした有名人の個々のエピソードを強調した場合、ストーリーの流れがいびつになり、かえって当時の歴史の全体図を把握する障害となっただろう。アラブから見た十字軍を語るという大枠を堅持するうえで、著者の選択は正しい。
十字軍についてより知りたいと思っても、学者による専門書や論文は敷居が高すぎるという読者にとって、不特定多数の読者に訴える記事を書き続けたジャーナリスト出身の著者による本書は最適な本であろう。前述の西洋視点で書かれた塩野七生の「十字軍物語」と併読すれば、歴史絵巻を読む感覚で、十字軍についてより深く理解できるはずである。9.11以降イスラム教やアラブに対してある種の偏見というか忌避感が日本にも存在するが、そういう人にこそ本書を手にとって欲しい。