ローマ帝国は“人間の祖国”であり、崩壊しても尚、その理念は不滅の神話として生き残った―そんな偉大なるローマ文明を解り易く凝縮したのが本書。
この「大文明シリーズ」は何れも上梓された時代は古いものの、決して“時代遅れの解釈”を感じさせられる事は無いが、この『ローマ文明』も例に漏れず…否、シリーズの中でも取り分け親しみ易く端的に纏められており、改めて「古代ローマ」なる時代への理解を深められる名著として多くの方にお薦め出来ると思う。
さて、本書は「ローマ文明の歴史」「選ばれた民」「素顔のローマ」の三部作から成るが、ローマが発展するに至る地理的条件や歴史、ギリシャの影響とローマの独自性、都市計画、法制度、経済、軍事、宗教、芸術、更には市民の日常生活や娯楽に至る迄、実に様々な題材について論じており、この一冊を以て古代ローマを網羅していると言っても過言ではない。
勿論、訳者が後書きで指摘しているように、かの悪名高きネロやカリグラ帝が全く出て来ない事に違和感を持ったのは事実だが、成程、彼等の存在は「ローマ文明」を語る上では些末なものに過ぎないという著者のスタンスも理解出来たので、それはそれで納得も出来た。
そして何よりも、こうした人物の逸話を欠いても尚、本書の面白さは揺らぐ事は無いのだ。
本書を読むと、ローマ文明の真の姿が見えて来る。
先ずは、ヴィンケルマンの主張から繰り返し論じられて来た「ローマ＝ギリシャの模倣」説については、芸術文化の枠に捉われる事無く、一つの「都市」としての成熟性を考えるならば決してギリシャの後塵を拝しただけの存在ではない事に気付かされるのではなかろうか。
また、古代ローマと言うと、とかく残酷な流血を好んだと言うイメージが付き纏い、確かに演劇の舞台で人を八つ裂きにしたり、火だるまにしたり…と言う演出が実際にあったと言うのは驚きではあったものの、ここにはリアリズムを求める精神があり、また、舞台で殺されたのはあくまでも罪人であったという事は差し引くべきである（当時の罪人や奴隷に対する価値観を現代の物差しで測ってはならない）…また、剣闘士についても民衆は決して弱者が一方的に殺されるのを喜んだ訳ではなく、そこに「英雄」を求めていた事を思えば、彼等は単なる“血に飢えた狂気の民”だったのではないという事を再認識した次第である。
因みに、これ等は第三部に詳しく書かれており、今でもローマ観光の中心となっている闘技場、円形劇場、大浴場、そして水道設備や住宅等と併せて書かれているので興味深い。
古代ローマ人の日々の営みが具体的に解るばかりではなく、その活気と熱量が肌に感じられるようでもあり、その臨場感は素晴らしかった。
古代ローマを知る上では欠かせない一冊。
勿論、ヨーロッパの原点がギリシャにある事は明白だが、本書を読む事に依って、古代ローマが決してギリシャの模倣国家だったのではなく、ギリシャと共に、現在のヨーロッパ世界を支える重要な役割を担って来たのだという事を理解出来たように思う。
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