本書では、人間学としての建築の「射程と可能性」を経験的に論じている。
内藤氏といえば、設計事務所を主宰しながら土木系教授に就任しており、建築と土木の架け橋的存在として活躍しながら、駅舎などの設計を通じて「都市再生（まちづくり）」にも関わっており、個人的には興味ある存在。かつて訪れた「海の博物館」に感銘したこともあり、本書に目を通すことに。
エッセイ風の短編文章の集まりで、理論的な内容が深く論じられているわけではないが、精神的建築論（建築家としての心構え）が分かりやすい言葉で実感を持って語られている。
建築家には様々なタイプがあり、本書で主張されている「心構え」をどう捉えるかは読み手次第だが、個人的には大いに共感できる部分が多い。
建築の本質は、その誕生にあるのではなく、その後、時代と共に生きていく時間の中にこそあるはずではないか。・・・「建築の力」とは人びととの共感の中に現れる。（引用）
建築という射程を拡げて「まち」へと繰り出したときに、老若男女、必然的に多くの関係者と関わることになる。そこでよく議論になるのは「伝統」について。これは世代間問題として取り上げられることが多いが、形式に捉われることなく、その精神を受け継ぐべき、という姿勢で臨まないことには先は見えてこない、というのは個人的にも実感を持って経験しているところ。
伝統とは時代に合わせた革新の連続
：ものづくりへの畏敬の念、絶えず変化する社会に対する挑戦、形式や様式ではなくその方法と姿勢の中にこそ受け継ぐべき伝統がある。（引用）
最終章では、私自身の修論のテーマでもあり、その居心地の良さが印象的な「アアルト建築」を通して住まいの本質について触れられている。個人的にもよく「住まいの本質」について考えており、なかなか自分なりの答えが見いだせないでいるのだが、本章の「窓辺を提示すること」という言葉の中に、そのヒントが隠されているように思う。
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