イスラエル・ゴールドマンによる暁斎コレクションの春画を網羅した本です。英文対訳つきなので外国の方にも贈れます。
2017年3月現在、東京渋谷でゴールドマンのコレクションによる暁斎展が開かれていてます。著者はそろってその制作スタッフの一員です。この展覧会は傑作ぞろいで圧倒されます。そこにもかなりの春画が展示されていますが、コレクションの春画を網羅しているわけではありませんので、その意味でもこの本には意義があります。蛇足ですがその展覧会のカタログもいいできでこれまた暁斎ファン必読です。
さて、なんといってもこの本は二人の著者の精神が光っています。定村来人(さだむらこと)は「はじめに」でこう言っています。
(引用始め)その魅力は、明治維新からもうすぐ150年、暁斎が没してから130年近くが経つ今日において、ますます新鮮である。人間味溢れる視点でいきいきと、時にあけすけなまでに世の中を描いてみせる暁斎の作品は、動乱と政治的変革によって語られがちな幕末維新期を、日々の生活の情景で肉付けしてくれる(引用終わり)。
私は本書を読み終わって、この文章こそ定村の思い入れが深く刻まれているに違いないと思いました。では、具体的にどう「肉付けしてくれる」のか。それはもちろん本文で解説されます。その文章は達意で淀みがなく、読者に対する啓蒙と筆者による批評がほどよく配され、知的でしかも面白いので、まさに一気呵成に読まされてしまいました。
個々の作品の解説の他に、定村は暁斎の作品世界全体を通じて解説を施しています。それには以下のような題が付けられています。
笑絵としての春画、暁斎の春画制作、暁斎作品に通底する精神ー逆転を面白がる心ー揶揄する心、河鍋暁斎のわらいゑー狂画としての春画。
それら解説の内容を一言で言えば暁斎の春画は「暁斎も読者も一緒に諷刺と笑いを楽しもう」ということなのです。脇に逸れますが、これは落語の精神と通じるところ大であるように私には思えました。なぜなら落語もまた「噺家も聴衆も一緒に諷刺と笑いを楽しもう」ということに他ならないからです。暁斎の時代は落語(寄席)も盛んだったので暁斎は落語をどう聴いたのか是非とも知りたいところです。
さて、もう一人の著者、石上阿希は、本書とは別に「へんてこな春画」という本を書いています(これもおススメです)。それには暁斎作品もありますが暁斎以外の作品もたくさん取り上げられていて、その精神はやはり「へんてこ=笑い」です。たとえば本の最後に山田五郎と石上との対談が載っていますが、そのタイトルは「全力でくだらないものを作る江戸の粋」となっていました。
さてこの本、「暁斎春画」はそのような批評精神で貫かれていているため、この本自身もそのように楽しめます。親子、兄弟姉妹、友達どおし、上司と部下のみなさん、家庭・学校・職場でみんなで楽しみましょう。もし「けしからん本だ」などとメクジラ立てる輩がいてもどんどん仲間に引き入れちゃいましょう(笑)。
ことわっておきますが、お二人の著者は「春画ガール」などという、当今流行の甘い乗りのファンでは金輪際ありません。たとえば定村には「十九世紀後半のヨーロッパにおける河鍋暁斎の受容と北斎評価のかかわり」などという、それこそこの本の随所に描かれている「おやしたまら」のように長くて堅い題名の研究論文がある、レッキとした現役の研究者です。たしかお二人とも、かの大英博物館の大春画展覧会の制作スタッフです。この論文はネットで読めるので読んでみました。私は研究者ではないので、これが優れた論文なのか否かは判らないのですが、すくなくとも面白いことは大変面白かったです。内容はタイトルのとおりでした(笑)。
最後に。性を笑の相で楽しむ文化は日本独特なのでしょうか。そうではありますまい。反対にキリスト教文化の欧米では性は専ら、禁断の相、禁断を犯す破戒の相、禁断からの開放を願う「自由」の相から見られてきたように思えますが、この文化は世界で普遍的なのでしょうか。そうでもありますまい。逆ではないか。笑が普遍で禁断が特殊なのではないか。お二人の著者に古今東西の春画を精査してその根本精神の変遷・分布を解明して頂けたらと思います。大変でしょうが(笑)。

無料のKindleアプリをダウンロードして、スマートフォン、タブレット、またはコンピューターで今すぐKindle本を読むことができます。Kindleデバイスは必要ありません。
ウェブ版Kindleなら、お使いのブラウザですぐにお読みいただけます。
携帯電話のカメラを使用する - 以下のコードをスキャンし、Kindleアプリをダウンロードしてください。
暁斎春画 -ゴールドマン・コレクション ペーパーバック – 2017/3/8
河鍋暁斎、性を笑う!!
世界屈指のゴールドマン・コレクションによる河鍋暁斎の大展覧会が2017年2月東京で開催されます。
暁斎の奇才光る“春画"の一級品を有しながらその内容がほとんど知られてこなかった状況に向けて、本書を「暁斎春画の決定版」として刊行。
宴席で酔狂で描いた作品をはじめ、6メートルの巻物など筆冴えわたる肉筆、密やかに楽しむ豆判版画など、
暁斎の素顔が見えるファン必見の内容です。
稚児・男色好み
陽物比べ
放屁合戦
松茸見立て
……などなど 性を笑い飛ばす酔狂な暁斎春画“世界初公開!
【和英併記】
*イスラエル・ゴールドマン:イギリス在住の国際的な暁斎コレクター。80年代から暁斎作品の収集を続け、個人としては世界最大のコレクションを保有する。
世界屈指のゴールドマン・コレクションによる河鍋暁斎の大展覧会が2017年2月東京で開催されます。
暁斎の奇才光る“春画"の一級品を有しながらその内容がほとんど知られてこなかった状況に向けて、本書を「暁斎春画の決定版」として刊行。
宴席で酔狂で描いた作品をはじめ、6メートルの巻物など筆冴えわたる肉筆、密やかに楽しむ豆判版画など、
暁斎の素顔が見えるファン必見の内容です。
稚児・男色好み
陽物比べ
放屁合戦
松茸見立て
……などなど 性を笑い飛ばす酔狂な暁斎春画“世界初公開!
【和英併記】
*イスラエル・ゴールドマン:イギリス在住の国際的な暁斎コレクター。80年代から暁斎作品の収集を続け、個人としては世界最大のコレクションを保有する。
- 本の長さ228ページ
- 言語日本語
- 出版社青幻舎
- 発売日2017/3/8
- 寸法20 x 1.8 x 19.5 cm
- ISBN-104861525896
- ISBN-13978-4861525896
この商品をチェックした人はこんな商品もチェックしています
ページ 1 以下のうち 1 最初から観るページ 1 以下のうち 1
商品の説明
出版社からのコメント
(展覧会情報)
「これぞ暁斎! 世界が認めたその画力」Bunkamuraザ・ミュージアム:2月23日〜4月16日
他、高知県立美術館、美術館「えき」KYOTO、石川県立美術館に巡回予定
「これぞ暁斎! 世界が認めたその画力」Bunkamuraザ・ミュージアム:2月23日〜4月16日
他、高知県立美術館、美術館「えき」KYOTO、石川県立美術館に巡回予定
著者について
石上 阿希(いしがみ・あき)
1979年生まれ。立命館大学文学部卒、同大学院文学研究科博士課程後期課程修了。
立命館大学専門研究員を経て、現在、国際日本文化研究センター特任助教。
2013年に開催された大英博物館春画展のプロジェクトキュレイターをつとめる。
著書に『日本の春画・艶本研究』(平凡社)、『へんてこな春画』(青幻舎)。
定村来人(さだむら・こと)
1982年生。国際基督教大学教養学部卒。東京大学大学院総合文化研究科博士課程在籍。
フリーア美術館・アーサー・M・サックラー美術館(スミソニアン協会)のフリーア・リサーチ・フェロー。
大英博物館アジア部門の客員研究員としてロンドンに滞在中。河鍋暁斎に関する研究論文多数あり。
2011年からゴールドマン・コレクションの整理、研究に携わっている。
1979年生まれ。立命館大学文学部卒、同大学院文学研究科博士課程後期課程修了。
立命館大学専門研究員を経て、現在、国際日本文化研究センター特任助教。
2013年に開催された大英博物館春画展のプロジェクトキュレイターをつとめる。
著書に『日本の春画・艶本研究』(平凡社)、『へんてこな春画』(青幻舎)。
定村来人(さだむら・こと)
1982年生。国際基督教大学教養学部卒。東京大学大学院総合文化研究科博士課程在籍。
フリーア美術館・アーサー・M・サックラー美術館(スミソニアン協会)のフリーア・リサーチ・フェロー。
大英博物館アジア部門の客員研究員としてロンドンに滞在中。河鍋暁斎に関する研究論文多数あり。
2011年からゴールドマン・コレクションの整理、研究に携わっている。
登録情報
- 出版社 : 青幻舎 (2017/3/8)
- 発売日 : 2017/3/8
- 言語 : 日本語
- ペーパーバック : 228ページ
- ISBN-10 : 4861525896
- ISBN-13 : 978-4861525896
- 寸法 : 20 x 1.8 x 19.5 cm
- Amazon 売れ筋ランキング: - 333,584位本 (本の売れ筋ランキングを見る)
- - 76位浮世絵・絵巻物
- カスタマーレビュー: