この「歌う白骨」は、犯人の側から事件の進行を描く「倒叙推理小説」という手法を初めて取り入れた作品集であり、5編の中篇作が納められている。
この5編は、いずれも前・後半の二部構成となっており、「老いたる前科者」以外は、前半で犯行の過程を描き、後半で捜査の過程を描くという体裁で、「歌う白骨」というこの作品集のタイトル名は、「反抗のこだま」第二部の表題から取っている。
この作品集は、コナン・ドイルのホームズ物と同時代、近代ミステリの草創期に出版されているのだが、いずれもが、当時の作品とは思えないほど、予想以上にレベルの高い作品揃いであるのに驚かされる。
特に、「オスカー・ブロズキー事件」、「計画された事件」、「落魄紳士のロマンス」の出来が秀逸なのだが、その中でも、やはり、一番の傑作とされている「オスカー・ブロズキー事件」が、「倒叙推理小説」としての完成度が、一番高い。犯人が犯罪を決行するに至るまでの心の揺れと偽装工作、その偽装工作を論理的・科学的手法で一つ一つ解きほぐし、次第に犯人に近付いていく探偵の捜査の様子が克明に描かれているだけでなく、最初に犯人の側から描いた犯人と探偵の出会いの場面を、探偵の側から再現し直してみせる手法も、同じ情景でも、正反対の立場から描くと、どれだけ違うかを見事に読者に対比して見せる斬新な手法であり、素晴らしい。
ちなみに、本書解説によると、フリーマンは、当時のイギリス小説界においては、ドイルと並び称される二大花形であったそうなのだが、今では、その知名度は、ドイルに比べ、大きく遅れを取ってしまっている。しかし、この作品集で法医学者ソーンダイク博士に駆使させている論理的・科学的捜査手法は、明らかにホームズ物のそれより緻密であり、「落魄紳士のロマンス」は、一般小説として見ても、なかなかの作品に仕上げている。フリーマンは、もっと評価されていい作家だ。
無料のKindleアプリをダウンロードして、スマートフォン、タブレット、またはコンピューターで今すぐKindle本を読むことができます。Kindleデバイスは必要ありません。
ウェブ版Kindleなら、お使いのブラウザですぐにお読みいただけます。
携帯電話のカメラを使用する - 以下のコードをスキャンし、Kindleアプリをダウンロードしてください。
歌う白骨 (嶋中文庫 M 1-6 グレート・ミステリーズ 6) 文庫 – 2004/12/1
- 本の長さ372ページ
- 言語日本語
- 出版社嶋中書店
- 発売日2004/12/1
- ISBN-104861563151
- ISBN-13978-4861563157
この商品をチェックした人はこんな商品もチェックしています
ページ 1 以下のうち 1 最初から観るページ 1 以下のうち 1
登録情報
- 出版社 : 嶋中書店 (2004/12/1)
- 発売日 : 2004/12/1
- 言語 : 日本語
- 文庫 : 372ページ
- ISBN-10 : 4861563151
- ISBN-13 : 978-4861563157
- Amazon 売れ筋ランキング: - 1,272,215位本 (本の売れ筋ランキングを見る)
- カスタマーレビュー:
著者について
著者をフォローして、新作のアップデートや改善されたおすすめを入手してください。
著者の本をもっと発見したり、よく似た著者を見つけたり、著者のブログを読んだりしましょう
カスタマーレビュー
星5つ中4.2つ
5つのうち4.2つ
全体的な星の数と星別のパーセンテージの内訳を計算するにあたり、単純平均は使用されていません。当システムでは、レビューがどの程度新しいか、レビュー担当者がAmazonで購入したかどうかなど、特定の要素をより重視しています。 詳細はこちら
5グローバルレーティング
虚偽のレビューは一切容認しません
私たちの目標は、すべてのレビューを信頼性の高い、有益なものにすることです。だからこそ、私たちはテクノロジーと人間の調査員の両方を活用して、お客様が偽のレビューを見る前にブロックしています。 詳細はこちら
コミュニティガイドラインに違反するAmazonアカウントはブロックされます。また、レビューを購入した出品者をブロックし、そのようなレビューを投稿した当事者に対して法的措置を取ります。 報告方法について学ぶ
-
トップレビュー
上位レビュー、対象国: 日本
レビューのフィルタリング中に問題が発生しました。後でもう一度試してください。
2006年1月2日に日本でレビュー済み
Amazonで購入
2013年5月27日に日本でレビュー済み
倒叙ものといえば、すぐに思い浮かぶのは『刑事コロンボ』。
しかしコロンボが犯人と探偵の対決を主眼としているのに対して、
その嚆矢であるフリーマンの小説では、
探偵(ソーンダイク博士)と犯人は、ほとんど相まみえない。
探偵が犯人の居所を突き止めるまでが、物語の主眼である。
面白さでいえば、コロンボのスタイルに軍配が上がると思うが、
それは倒叙ものの一つの進化の形を示すものであり、
映像という新しいメディアの特性によるところも大きい。
単純な比較をするわけにはいかないだろう。
「倒叙ものの原点はこういう味わいなんだ」
ということを知る上でも、読む価値のある古典である。
しかしコロンボが犯人と探偵の対決を主眼としているのに対して、
その嚆矢であるフリーマンの小説では、
探偵(ソーンダイク博士)と犯人は、ほとんど相まみえない。
探偵が犯人の居所を突き止めるまでが、物語の主眼である。
面白さでいえば、コロンボのスタイルに軍配が上がると思うが、
それは倒叙ものの一つの進化の形を示すものであり、
映像という新しいメディアの特性によるところも大きい。
単純な比較をするわけにはいかないだろう。
「倒叙ものの原点はこういう味わいなんだ」
ということを知る上でも、読む価値のある古典である。
2005年4月4日に日本でレビュー済み
作者オースチン・フリーマンは、シャーロック・ホームズと同時期に活躍した名探偵ソーンダイク博士と、ミステリの一形式、倒叙ミステリの生みの親として知られています。直感に頼らずに、「携帯実験室」とよんでいるさまざまな実験道具を詰め込んだカバンを持ち歩き、小さな証拠品を綿密に調べ上げていく捜査法のソーンダイク博士の創造はもとより、はじめに犯人とその犯した罪を書き(犯人をハッキリと書かないままのもありますが)、犯人あての興味を削ってまで、犯罪をどのようにして見破ったのかに重みを置く倒叙ミステリ、その後この形式で多くの名作傑作ミステリが書かれているのをみても、作者のミステリ界への貢献は大きなものがあるといえます。
ソーンダイク博士は、ライバルのホームズと比べるとなんとも地味(ホームズが目立ちすぎということもありますが)、変装しての尾行もなく、突飛な言動で周囲の人を驚かせたりもしないのですが、犯罪現場で見つけた証拠品を実験道具を使って調査分析、一つ一つ証拠を積み重ねていくというその地道な調査法にかえって好感が持てます。
時代を感じさせる、すでに古典といってもいいようなソーンダイク博士の探偵譚ですが、現代のミステリしか読んだことがないという人にはけっこうおもしろく読めるのではないでしょうか。
ソーンダイク博士は、ライバルのホームズと比べるとなんとも地味(ホームズが目立ちすぎということもありますが)、変装しての尾行もなく、突飛な言動で周囲の人を驚かせたりもしないのですが、犯罪現場で見つけた証拠品を実験道具を使って調査分析、一つ一つ証拠を積み重ねていくというその地道な調査法にかえって好感が持てます。
時代を感じさせる、すでに古典といってもいいようなソーンダイク博士の探偵譚ですが、現代のミステリしか読んだことがないという人にはけっこうおもしろく読めるのではないでしょうか。
2005年2月4日に日本でレビュー済み
文字のポイントを大きくした文庫本
厚めですが、文庫本の価格は原稿の枚数で決まるみたいで案外安い
この文庫は元々は海外の推理小説の全集を再編集したもの
このフリーマンの作品は倒序推理小説を全面に押し出した最初の傑作短編集として有名で
名作「オスカー・ブロズキー事件」をはじめ4本の倒序物+一本のノーマル中篇で構成されています
クイーンも絶賛した、まず犯罪の過程を描き、それが露呈していくプロセスを
克明に見せて推理小説を構成する傑作短編集
厚めですが、文庫本の価格は原稿の枚数で決まるみたいで案外安い
この文庫は元々は海外の推理小説の全集を再編集したもの
このフリーマンの作品は倒序推理小説を全面に押し出した最初の傑作短編集として有名で
名作「オスカー・ブロズキー事件」をはじめ4本の倒序物+一本のノーマル中篇で構成されています
クイーンも絶賛した、まず犯罪の過程を描き、それが露呈していくプロセスを
克明に見せて推理小説を構成する傑作短編集
2008年7月10日に日本でレビュー済み
1961年に『世界推理名作全集 3 クロフツ・フリーマン』として出たものの復刊・文庫化。
本書は嶋中文庫として出たもの。
Richard Austen Freemanの『The Singing Bone』(1912年)の翻訳。
ソーンダイク博士の活躍する5本の短篇が収められている。収録されているのは、「オスカー・ブロズキー事件」「計画された事件」「反抗のこだま」「落魄紳士のロマンス」「老いたる前科者」。いずれも他の短編集やアンソロジーに収められているので、初めて見る作品は少ないかも知れない。
ソーンダイク博士の科学捜査がすごい。顕微鏡でなんでも分かってしまう。
本書は倒叙という形式を初めて使った作品としても有名。歴史的価値は高い本だろう。
ただ、いまも読んで面白いかといわれれば、うーんと考えてしまう。科学捜査に頼ってばかりで推理の冴えは見られないし、プロットにもひねりがない。倒叙の側面から見ても、現代の科学捜査のレベルからいえばミスだらけで、読んでいてハラハラしてしまうほどだ。ソーンダイク博士の発見するミスなど、全体のほんの一部でしかない。
とはいえ、ホームズのライバル、ミステリ史上からすると、読んでおかなければならない一冊だろう。
本書は嶋中文庫として出たもの。
Richard Austen Freemanの『The Singing Bone』(1912年)の翻訳。
ソーンダイク博士の活躍する5本の短篇が収められている。収録されているのは、「オスカー・ブロズキー事件」「計画された事件」「反抗のこだま」「落魄紳士のロマンス」「老いたる前科者」。いずれも他の短編集やアンソロジーに収められているので、初めて見る作品は少ないかも知れない。
ソーンダイク博士の科学捜査がすごい。顕微鏡でなんでも分かってしまう。
本書は倒叙という形式を初めて使った作品としても有名。歴史的価値は高い本だろう。
ただ、いまも読んで面白いかといわれれば、うーんと考えてしまう。科学捜査に頼ってばかりで推理の冴えは見られないし、プロットにもひねりがない。倒叙の側面から見ても、現代の科学捜査のレベルからいえばミスだらけで、読んでいてハラハラしてしまうほどだ。ソーンダイク博士の発見するミスなど、全体のほんの一部でしかない。
とはいえ、ホームズのライバル、ミステリ史上からすると、読んでおかなければならない一冊だろう。