エリアーデには、世界宗教史など宗教研究書のほかに、マイトレイなど小説・幻想小説があり、日記の一部も公開され、大部分は日本語で読むことが出来る。縁あって世界宗教を読み、作者の背景を知ろうと手に取ったのが「迷宮の試煉」という対談。「みずからの精神的遍歴を赤裸に語った」という帯封どおりで十分満足できた。ルーマニアのブカレストという西欧と東洋の中間に1907年に生まれ、欧州大戦、ソビエトロシアの成立、オスマン帝国の解体を体験しつつ、マックス・ミュラーやフレイザーに触発されて比較宗教研究に志し、1928年インドに赴いてヨガなどヒンドゥー哲学研究3年、兵役でルーマニアに戻りマイトレイ出版で大成功、1940年英国に文化アタッシェとして赴任、第2次大戦勃発で翌年リスボンに転勤、大戦終了で1945年パリへ移った。祖国はソ連圏となり亡命生活、1956年シカゴ大学に移り米国で初めての宗教学科を開設、1986年死去までそこで研究した。
マックス・ミュラーは明治時代東本願寺の南條文雄が留学して学んだ先生で、南條はサンスクリット原典の漢訳仏典との照合に貢献し、日本に仏教の原典研究・比較研究という新しい分野を開いた。戦時中に始まった文部省の「諸民族の思惟方法の比較研究」が結実して中村元先生の名著「東洋人の思惟方法」となった事を付け加えよう。この本はインドに生まれた仏教の中国・朝鮮・日本への伝播がそれぞれの国の文化=思惟方法により変容した事を追求したもので、中村先生には「世界思想史」の大著もある。エリアーデと読み比べるのも面白い。
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エリアーデ 自身を語る 迷宮の試煉 単行本 – 2009/1/10
20世紀の宗教学と文学において偉大な足跡を遺した稀代の碩学ミルチャ・エリアーデ。自らの精神的遍歴を赤裸に語った名著、待望の翻訳なる!
本書『迷宮の試煉』は、エリアーデが著した日記や自叙伝とともに、この多作な創作者の多面的な実像に光を当てる対談として重要であり、私たち読者も大いに興味を惹かれるはずである。――本書収載◆奥山倫明「エリアーデを再読するために」より
本書『迷宮の試煉』は、エリアーデが著した日記や自叙伝とともに、この多作な創作者の多面的な実像に光を当てる対談として重要であり、私たち読者も大いに興味を惹かれるはずである。――本書収載◆奥山倫明「エリアーデを再読するために」より
- 本の長さ296ページ
- 言語日本語
- 出版社作品社
- 発売日2009/1/10
- ISBN-104861822092
- ISBN-13978-4861822094
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登録情報
- 出版社 : 作品社 (2009/1/10)
- 発売日 : 2009/1/10
- 言語 : 日本語
- 単行本 : 296ページ
- ISBN-10 : 4861822092
- ISBN-13 : 978-4861822094
- Amazon 売れ筋ランキング: - 939,849位本 (本の売れ筋ランキングを見る)
- - 354位西洋近現代思想
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トップレビュー
上位レビュー、対象国: 日本
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2009年11月12日に日本でレビュー済み
Amazonで購入
2014年6月1日に日本でレビュー済み
ルーマニア出身のミルチャ・エリアーデ(1907-1986)は世界的な宗教学者であり、優れた小説を多く残した作家でもあった。彼は厖大な仕事を残した稀代の巨人であり、彼の思想や哲学の全貌は計り難い。おそらく、現在入手できる本のなかで、それを知るための最も有効な鍵となるだろう。
本書の本篇は、エリアーデと聞き手のクロード=アンリ・ロケによる対談である。全十章から成るそれはまず、早熟で幸福だったエリアーデの誕生〜少年期についての対話から始まる。次はインドで過ごした青年期、帰国後の成功とそれに次ぐロンドン、ポルトガル、パリでの生活を経て生涯を終えるまで住むことになるシカゴの生活が語られる。以上のような、エリアーデの人生に関する内容は前半の五章を占める。続く四章は宗教や神話の解釈について、聖について、歴史について、想像世界について、自身の文学作品について…つまり、エリアーデの仕事と思想の核心について語らわれる。そして、最後の章で迷宮について話され、彼のそれまでの生涯とこの対話のまとめが成される。ちなみに、エリアーデの考える「迷宮の試煉」とは、人生における一連の通過儀礼であり、死と再生の試煉である。それと対するのは苦しみや痛みを伴って困難だが、迷宮を抜けて中心へ到達することで多くの学びと意義を得られる。一つの迷宮を抜けても別の迷宮の試煉が現れるが、その一連の過程と結果が「人間の条件の最高の表現かつ最良の定義」であるという。
この対話があった1978年当時、エリアーデは七十一歳。人生の総決算をはじめる時期にあったと言えるかも知れない。そのような印象が対話の全体からひしひしと伝わって来る。また、聞き手であるクロード=アンリ・ロケの博学と的を射た質問、ある場面でエリアーデに「見事です。何もつけくわえることはありません」とまで言わしめた鋭い見解にも舌を巻く。この対談のすばらしさは、クロードが学術書・小説・日記を含むエリアーデによる著作を読み込み、彼を大いに尊敬していることに負うところも大きい。しかも、それは盲目なものではなく、時に手厳しい質問をもエリアーデに投げかける。聞き手として真に優れた姿勢だ。
「(この対話の過程で)私は、不意に、人生の、青年期の、重要な瞬間に立ち返ることがありました。貴方の質問でときどき何かの問題を再検討することを強いられました。(中略)今、数週間前には想像していなかった非常に興味深いことを自分が考えているとわかります。この「対話」を始める前、私には話すべきことがいくつかあるのはよく分かっていたのですが、しかし今はそれと違うことが頭に浮かんでいます」
以上のように最終章で語られるエリアーデの言葉が、この対話の大変な充実をあらわしている。見どころがあまりにも多すぎて、ここに列挙する暇(いとま)がないほどだ。「すぐれた対話は創造的である」と訳者があとがきで書いているのも大いに頷ける。
また、本篇の対話以外も優れている。聞き手によるはしがきとあとがき、付録である「ブランクーシと神話」という題のエリアーデによる論文と彼の生涯の年譜、本篇に欠けていた部分を補う奥山倫明による解説、そして訳者あとがき。それらは本篇やエリアーデをさらに立体的に理解する助けになるだろう。迷宮を連想させる貝の模様をあしらったミルキィ・イソベによる装丁も美しい。
本書の本篇は、エリアーデと聞き手のクロード=アンリ・ロケによる対談である。全十章から成るそれはまず、早熟で幸福だったエリアーデの誕生〜少年期についての対話から始まる。次はインドで過ごした青年期、帰国後の成功とそれに次ぐロンドン、ポルトガル、パリでの生活を経て生涯を終えるまで住むことになるシカゴの生活が語られる。以上のような、エリアーデの人生に関する内容は前半の五章を占める。続く四章は宗教や神話の解釈について、聖について、歴史について、想像世界について、自身の文学作品について…つまり、エリアーデの仕事と思想の核心について語らわれる。そして、最後の章で迷宮について話され、彼のそれまでの生涯とこの対話のまとめが成される。ちなみに、エリアーデの考える「迷宮の試煉」とは、人生における一連の通過儀礼であり、死と再生の試煉である。それと対するのは苦しみや痛みを伴って困難だが、迷宮を抜けて中心へ到達することで多くの学びと意義を得られる。一つの迷宮を抜けても別の迷宮の試煉が現れるが、その一連の過程と結果が「人間の条件の最高の表現かつ最良の定義」であるという。
この対話があった1978年当時、エリアーデは七十一歳。人生の総決算をはじめる時期にあったと言えるかも知れない。そのような印象が対話の全体からひしひしと伝わって来る。また、聞き手であるクロード=アンリ・ロケの博学と的を射た質問、ある場面でエリアーデに「見事です。何もつけくわえることはありません」とまで言わしめた鋭い見解にも舌を巻く。この対談のすばらしさは、クロードが学術書・小説・日記を含むエリアーデによる著作を読み込み、彼を大いに尊敬していることに負うところも大きい。しかも、それは盲目なものではなく、時に手厳しい質問をもエリアーデに投げかける。聞き手として真に優れた姿勢だ。
「(この対話の過程で)私は、不意に、人生の、青年期の、重要な瞬間に立ち返ることがありました。貴方の質問でときどき何かの問題を再検討することを強いられました。(中略)今、数週間前には想像していなかった非常に興味深いことを自分が考えているとわかります。この「対話」を始める前、私には話すべきことがいくつかあるのはよく分かっていたのですが、しかし今はそれと違うことが頭に浮かんでいます」
以上のように最終章で語られるエリアーデの言葉が、この対話の大変な充実をあらわしている。見どころがあまりにも多すぎて、ここに列挙する暇(いとま)がないほどだ。「すぐれた対話は創造的である」と訳者があとがきで書いているのも大いに頷ける。
また、本篇の対話以外も優れている。聞き手によるはしがきとあとがき、付録である「ブランクーシと神話」という題のエリアーデによる論文と彼の生涯の年譜、本篇に欠けていた部分を補う奥山倫明による解説、そして訳者あとがき。それらは本篇やエリアーデをさらに立体的に理解する助けになるだろう。迷宮を連想させる貝の模様をあしらったミルキィ・イソベによる装丁も美しい。