本書は、ガンディーの思想を主として経済学の観点から解き明かそうとしているものであるが、権利と義務、産業化、平等論、教育など多岐にわたるテーマが取り上げられている。
ガンディーの考え方は、イギリスの植民地支配、貧困、宗教的因習的な不平等からインドを救うことを第一義とし、その強い意志に基づいていたことが本書からよく理解できる。机上の思想家、学者ではなく、インドの大衆の指導者として、その考え方はある程度の一貫性を保ちながら、柔軟であり、非常に実践的である。
ここで書かれているガンディーのものごとの考え方は現代のビジネスや社会に当てはめてみても、非常に役に立つものが多い。例えば、国家や組織ではなく、個人に焦点をあてた考えかたはモチベーション3.0の発想につながると思うし、その教育思想は、多くの優秀な人材を輩出している現インドの実学を優先した教育制度の基礎となっていると考えられる。ジェンダーの議論においても、男女が同じ能力であれば、女性を優先して登用すべしの考え方は70年後の現在において積極的に採用されているものと同じである。理想の絵姿(ビジョン)を描く一方で、現実を見据えた戦術を見事に使い分けるという、人々を一方向に向かわせるためのチェンジ・マネジメントの実践的な手段を経験的に身に着けていたことも読み取れる。
当時の難しいインドの社会事情がありながら(あるいは、そのような社会事情があったからこそ)、社会主義、資本主義の限界を既に見据えた卓越した考え方も示している。例えば、第六章の受託者制度理論は現代の会社経営のあり方にも、福祉国家としてのあり方にも、(議論はあるにしても)示唆に富む考え方を提示している。
原著は1996年刊行であり、その2年後にアマルティア・セン(参考:
不平等の再検討―潜在能力と自由
)がノーベル賞をもらう時代の中で書かれている。現在、マイケル・サンデルの「正義」の本が話題になっているが、経済学と倫理に関する現在の議論の中でも、一読する価値のある本であると思う(このトレンドにのって約15年前の原著のこの和訳本がいま出版された気がするが)。
一言、難を言えば、本書は学者の書いた本を学者の方々が翻訳をしており、私のような一般読者には非常に読みづらい文章である(特に第一章は学者の悪訳の典型のような気がする)。そのあたり、本を出す側ももう少し一考してほしいと思う。
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ガンディーの経済学――倫理の復権を目指して 単行本 – 2010/9/23
新自由主義でもマルクス主義でもない、「第三の経済学」という構想。知られざるガンディーの「経済思想」の全貌を、遺された膨大な手紙や新聞の論説によってはじめて解き明かす。
- 本の長さ358ページ
- 言語日本語
- 出版社作品社
- 発売日2010/9/23
- ISBN-104861823021
- ISBN-13978-4861823022
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登録情報
- 出版社 : 作品社 (2010/9/23)
- 発売日 : 2010/9/23
- 言語 : 日本語
- 単行本 : 358ページ
- ISBN-10 : 4861823021
- ISBN-13 : 978-4861823022
- Amazon 売れ筋ランキング: - 840,856位本 (本の売れ筋ランキングを見る)
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著者について
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1974年生まれ
早稲田大学大学院政治学研究科博士後期課程単位取得退学、博士(政治学)
神戸学院大学法学部准教授
現代政治理論、政治思想史、アイザィア・バーリン研究
-
トップレビュー
上位レビュー、対象国: 日本
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2010年11月3日に日本でレビュー済み
ガンディーというと、非暴力による独立運動を行った政治家という程度の知識しか持ち合わせていない。
本書は、そのガンディーの経済思想について詳細に分析した著作である。
特に欲望と幸福についての記述は参考になる。「際限のないモノへの欲求は、人間を幸福にはしない。『知足』こそが幸福である。」とし、物質的な欲求の制限を主張している。
一方で、貧しい者への施しや貧国への財政的援助などは、人や国家が怠惰であり続ける原因として、否定的な見解を示している。
また、権利と義務の概念は、「人は単に権利のみを追い求めてはいけない、自らの義務を果たすときに権利はあなたのものとなる。」と主張し、ケネディの有名な演説を思い起こさせる。
さらに、労働を置き換えてしまい大衆の貧困を増長するとしてある種の「機械」には嫌悪感を示している。
ガンディーに一貫しているのは、欲望に任せて必要以上のモノを際限なく求めたりせずに、働くことこそが大切であるという考え方であり、分配ばかりを多く求める今の時代には新鮮に感じる。
当時の時代とインドという国を背景にした思想だけに、理解しにくい部分もあるが、混迷を深める現代にも一筋の光を与えてくれる。
本書は、そのガンディーの経済思想について詳細に分析した著作である。
特に欲望と幸福についての記述は参考になる。「際限のないモノへの欲求は、人間を幸福にはしない。『知足』こそが幸福である。」とし、物質的な欲求の制限を主張している。
一方で、貧しい者への施しや貧国への財政的援助などは、人や国家が怠惰であり続ける原因として、否定的な見解を示している。
また、権利と義務の概念は、「人は単に権利のみを追い求めてはいけない、自らの義務を果たすときに権利はあなたのものとなる。」と主張し、ケネディの有名な演説を思い起こさせる。
さらに、労働を置き換えてしまい大衆の貧困を増長するとしてある種の「機械」には嫌悪感を示している。
ガンディーに一貫しているのは、欲望に任せて必要以上のモノを際限なく求めたりせずに、働くことこそが大切であるという考え方であり、分配ばかりを多く求める今の時代には新鮮に感じる。
当時の時代とインドという国を背景にした思想だけに、理解しにくい部分もあるが、混迷を深める現代にも一筋の光を与えてくれる。