エコノミストで米本昌平先生が「明るいニヒリズムを持ち続けた科学史家」と書いていますが、全体の印象がとても爽や。著者は爆心地から3kmのところで被爆し、東大の天文教室では教授に放っておかれ、平凡社に入社して労働運動に巻き込まれ、1ドル=360円の時代にフルブライト留学生としてアメリカに渡り博士号を取得。東大教養学部に職を得ることには成功しましたが、学内政治の泥沼に入り込んで定年まで講師として過ごすも、多くの科学史の業績を個人としてだけでなく、トヨタなどの企業も巻き込んで残し、国際学会なども主催した、という方です。最後まで研究心を失わず、名誉教授として大学を去った後もデジタル・ヒストリアンとして研究を続け、最後は記憶だけで書ける自伝を仕上げ、ガン告知の後、ボンボヤージと船で世界一周の旅に発ってお亡くなりになるという見事な研究生活を送ります。
ハーバードでは閉架の中に机を置いて、そこで必要な資料を積み上げて博士論文を仕上げるという羨ましい環境をつくったのですが、日本の大学の図書館ではそうした機能がないので、領域を中国と日本に絞って研究を続けるという思い切りの良さ。天文学といえば西洋では法則志向の科学だが、中国や日本では天界の異常現象を記録するもので、異常であるが故に興味を引き、ルーティン現象の法則を求める暦学よりも上位の学問であるというんですね(p.303)。だから、日本や中国の超新星爆発の記録が貴重なものになってくるわけですが。
59年に日本に帰ってきても日米の差は歴然としていて、コーネル大学の教授は、アメリカで国際科学史学会を開くため、ヨーロッパの学者に旅費を1000ドル出すという太っ腹。これで、著者も出席できたそうですが、1962年当時、駒場の月給は60ドルだったとのこと(p.214)。これは米国のヨーロッパに対する学問的劣等感からきた大盤振る舞いなんですが、日本も敗戦国だったから国連加盟が遅れ、国連機関も長く無かった。やっと1975年に国連大学が出来たが、大学とは名ばかりのセミナー屋だった、という批判は皮肉がきいてます。
《日本で西洋の科学史家として知られたのは、圧倒的にマルキストであった。中略 正統派は大学のスコラの伝統の上にガリレオ、ニュートンも位置づけるのに対し、マルキストは職人の伝統の貢献を強調》するという指摘にはハッとしました(p.136-)。これって山本義隆さんの史学そのものですもの。
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一科学史家の自伝 単行本 – 2013/5/29
中山 茂
(著)
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広島での被爆、平凡社での編集者生活、ハーバード大学への留学、ニーダムやクーンらとの出会い、学内政治に巻き込まれた東大万年講師時代、パラダイム論の反響……草創期の科学史を世界の最前線で学んだ科学史家が初めて明かす、自らの八十余年の軌跡と戦後日本の科学史・科学技術が辿った歴史。
- 本の長さ533ページ
- 言語日本語
- 出版社作品社
- 発売日2013/5/29
- 寸法13.8 x 4 x 19.5 cm
- ISBN-104861824273
- ISBN-13978-4861824272
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登録情報
- 出版社 : 作品社 (2013/5/29)
- 発売日 : 2013/5/29
- 言語 : 日本語
- 単行本 : 533ページ
- ISBN-10 : 4861824273
- ISBN-13 : 978-4861824272
- 寸法 : 13.8 x 4 x 19.5 cm
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トップレビュー
上位レビュー、対象国: 日本
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2014年11月24日に日本でレビュー済み
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2020年1月11日に日本でレビュー済み
クーンの「科学革命の構造」の翻訳・紹介で知られる中山茂の自伝。抜群に面白いが、彼が東大で陰湿な排除にあっていたことは知らなかった。広島で被爆した体験があることも。クーンがよく読まれ、柴谷篤弘が「反科学論」を発表していた頃、一度だけご本人を研究会でお見かけしたおぼろな記憶がある。ニコニコした柔らかな印象の人だったように思う。それだけに東大で呻吟するような排斥を受けていたことが意外であった。
はっきりと記憶にあるのは、この本でも行き届いた解説を書いている弟子の吉岡斉の印象。当時、物理学から科学史に転じた大学院生だったが、極端に知的進化を遂げた宇宙人のような風貌だった。ぼくら若手は口をきくこともできなかった記憶がある。もし何事かしゃべったらその「嘲笑癖」でへこまされたかもしれない。九州大学の副学長になり、福島原発の事故調委員をつとめていたその吉岡斉も、この解説を書いた4年後に急死した。科学史家として冷静な脱原発の道筋を考えていたはずで、さぞ無念だったろう。
はっきりと記憶にあるのは、この本でも行き届いた解説を書いている弟子の吉岡斉の印象。当時、物理学から科学史に転じた大学院生だったが、極端に知的進化を遂げた宇宙人のような風貌だった。ぼくら若手は口をきくこともできなかった記憶がある。もし何事かしゃべったらその「嘲笑癖」でへこまされたかもしれない。九州大学の副学長になり、福島原発の事故調委員をつとめていたその吉岡斉も、この解説を書いた4年後に急死した。科学史家として冷静な脱原発の道筋を考えていたはずで、さぞ無念だったろう。
2022年8月21日に日本でレビュー済み
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中山茂(1928-2014)、東大の専任講師を28年。専門は天文学史。トマス・クーン『科学革命の構造』の訳者・紹介者としても知られる。
読みどころは東大の教員になる以前。大学卒業と同時に、羽振りのよかった平凡社に入社(給料は大学の助手の2倍だったとか)。事典の編集のほか、翻訳も手がける(のちに、よく売れた世界教養全集の1冊も翻訳)。1955年、ハーヴァードの大学院に留学し、科学史を専攻。そしてこの間、天文学史の権威、ケンブリッジのジョゼフ・ニーダムや京大の薮内清にも師事(留学先からの留学だ)。59年帰国、東大教養学部講師に。前途洋々だ。
ところが、ボタンの掛け違いで、山のようなパブリケーションがあるのに、その後昇任はなく、「万年」講師。なぜか? 関係者が実名で登場するので、この部分が一番おもしろいと感じる人もいるかもしれない。(中山茂に限らず、こと人事や人間関係に関して、東大教養学部はひじょうに狭量という印象を受ける。リベラル・アーツの府なのにね。たとえば、西部邁『学者この喜劇的なるもの』、小谷野敦『東大駒場学派物語』、中島義道『東大助手物語』などを参照。)
ただ、私としては、東大退官後の活躍も含め、この後半部分はちょっと食傷気味。興味深いエピソードとしては、旧制中学のクラスメート、手塚治虫と旧交を温める場面が登場。
本書は2013年刊。著者は翌年、85歳で逝去。巻末、吉岡斉の「解説」が温かい。
読みどころは東大の教員になる以前。大学卒業と同時に、羽振りのよかった平凡社に入社(給料は大学の助手の2倍だったとか)。事典の編集のほか、翻訳も手がける(のちに、よく売れた世界教養全集の1冊も翻訳)。1955年、ハーヴァードの大学院に留学し、科学史を専攻。そしてこの間、天文学史の権威、ケンブリッジのジョゼフ・ニーダムや京大の薮内清にも師事(留学先からの留学だ)。59年帰国、東大教養学部講師に。前途洋々だ。
ところが、ボタンの掛け違いで、山のようなパブリケーションがあるのに、その後昇任はなく、「万年」講師。なぜか? 関係者が実名で登場するので、この部分が一番おもしろいと感じる人もいるかもしれない。(中山茂に限らず、こと人事や人間関係に関して、東大教養学部はひじょうに狭量という印象を受ける。リベラル・アーツの府なのにね。たとえば、西部邁『学者この喜劇的なるもの』、小谷野敦『東大駒場学派物語』、中島義道『東大助手物語』などを参照。)
ただ、私としては、東大退官後の活躍も含め、この後半部分はちょっと食傷気味。興味深いエピソードとしては、旧制中学のクラスメート、手塚治虫と旧交を温める場面が登場。
本書は2013年刊。著者は翌年、85歳で逝去。巻末、吉岡斉の「解説」が温かい。