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氷 ハードカバー – 2008/6/4
異常な寒波のなか、夜道に迷いながら私は少女の家へと車を走らせた。地球規模の気象変動により、氷が全世界を覆いつくそうとしていた。やがて少女は姿を消し、私はその行方を必死に探し求める。軍事独裁下の某国に彼女がいることを突きとめ、要塞のような〈高い館〉へ乗り込んだ私は、強大な力で少女を支配する長官と対峙するが……。
サンリオSF文庫版 (1985年刊) を全面改訳!
刻々と迫り来る氷の壁、地上に蔓延する抗争と殺戮、絶望的な逃避行。恐ろしくも美しい終末のヴィジョンで読者を魅了し、世界中に冷たい熱狂を引き起したSFの伝説的名作。
『氷』 は唯一無二の作品だ。その魔法の力によって、『氷』 は唯物論的なサイエンスファンタジーの視界を超えた領域に到達している。――ブライアン・W・オールディス
サンリオSF文庫版 (1985年刊) を全面改訳!
刻々と迫り来る氷の壁、地上に蔓延する抗争と殺戮、絶望的な逃避行。恐ろしくも美しい終末のヴィジョンで読者を魅了し、世界中に冷たい熱狂を引き起したSFの伝説的名作。
『氷』 は唯一無二の作品だ。その魔法の力によって、『氷』 は唯物論的なサイエンスファンタジーの視界を超えた領域に到達している。――ブライアン・W・オールディス
- 本の長さ257ページ
- 言語日本語
- 出版社バジリコ
- 発売日2008/6/4
- ISBN-104862381006
- ISBN-13978-4862381002
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商品の説明
著者について
1901年、フランスで裕福なイギリス人の家庭に生まれる。本名ヘレン・ウッズ。子供時代をヨーロッパ諸国を転々として過ごし、イギリスで学業を終える。結婚後はビルマ(現ミャンマー)に滞在、小説を書き始めるが、結婚生活はまもなく破綻。やがて精神状態が悪化し、ヘロイン中毒となる。『アサイラム・ピース』(40)からアンナ・カヴァンと改名、カフカ的な不安と幻想に満ちた作品を発表。世界の終末を描いた長篇『氷』(67)で読書界に衝撃を与えるが、翌1968年に急死。ベッドの傍らにはヘロインの注射器が置かれていたという。
登録情報
- 出版社 : バジリコ (2008/6/4)
- 発売日 : 2008/6/4
- 言語 : 日本語
- ハードカバー : 257ページ
- ISBN-10 : 4862381006
- ISBN-13 : 978-4862381002
- Amazon 売れ筋ランキング: - 296,039位本 (本の売れ筋ランキングを見る)
- - 2,478位英米文学研究
- カスタマーレビュー:
著者について
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トップレビュー
上位レビュー、対象国: 日本
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2021年8月13日に日本でレビュー済み
Amazonで購入
ページをめくるや最終ページまで、不安と恐怖の緊張感が走る。ジェットコースターのように、読み始めるや、途中で降車することはできない。いつ終着駅がくるのか。『出口』がまったくみえない、その圧迫感。著者は、ドラッグユーザーであったそうだ。「なるほど」とうなずける、まさにパニックホラーの傑作。至高の作品という世評もまた”うなずける”、そんな作品です :D
2017年11月8日に日本でレビュー済み
Amazonで購入
スリップストリーム (=slipstream、元々、乱流に係わる航空用語だが、文学のジャンルを越えた一種の幻想小説を指す様に転じられた由)文学の傑作という事で手に採ったが、確かに、読者は作者の奔流に置き去りにされてしまう感がある。「氷」という表題が示す通り、ある「氷河期」を描いているのだが、「氷河期」に際しての終末論などを描いたSFとは程遠い。時代や舞台の説明は皆無、「氷河期」に際しての人間模様を描こうとした訳ではない事は、主な登場人物が主人公(?)の男(恐らく諜報部員)、その男が探す少女及び長官の3人に限られている事から明白(名前は一切出て来ない)。また、通常の文章の中に、男の記憶のフラッシュ・バックが"境目なく"挿入される(私は初め戸惑った)など、時系列も作者の思いのまま。
物語としての起承転結も全くなく、通常の小説としてはプロットが破綻している(例えば、男が少女を探している本当の理由さえ説明されない、男が数々の危険を殆ど偶然で乗り越えるetc.)様に見えるが、ここがスリップストリーム文学と称される所以なのだろう。作者が感じる<現実>の"不確実性"、それに対する"不安"・"孤立感"、<現実>による自身の世界の"浸食"などの作者の思惟(畏れ)をそのまま読者に投げ出しているという印象を受けた。確かに凄みのある作品である。また、上で「起承転結がない」、と書いたが、本作は男が迷いながら少女を探し続ける"迷宮"の物語であって、カフカ「城」に似た読後感を持った。このように、全体としては茫洋とした幻想小説・不条理小説の体裁でありながら、渡航手続き等の細かいエピソードはかなり具体的に書き込んでいる辺りの妙なアンバランス感が凄みを増しているという印象を受けた。
スリップストリーム文学という言葉は本作の序文で初めて知ったが、今まで読んだ事のない作風で、その真価を知るには実際に読んで頂くしかない。作者は唯一無二のスリップストリーム文学作家の由なので、興味のある方には是非手に採って頂きたい。
物語としての起承転結も全くなく、通常の小説としてはプロットが破綻している(例えば、男が少女を探している本当の理由さえ説明されない、男が数々の危険を殆ど偶然で乗り越えるetc.)様に見えるが、ここがスリップストリーム文学と称される所以なのだろう。作者が感じる<現実>の"不確実性"、それに対する"不安"・"孤立感"、<現実>による自身の世界の"浸食"などの作者の思惟(畏れ)をそのまま読者に投げ出しているという印象を受けた。確かに凄みのある作品である。また、上で「起承転結がない」、と書いたが、本作は男が迷いながら少女を探し続ける"迷宮"の物語であって、カフカ「城」に似た読後感を持った。このように、全体としては茫洋とした幻想小説・不条理小説の体裁でありながら、渡航手続き等の細かいエピソードはかなり具体的に書き込んでいる辺りの妙なアンバランス感が凄みを増しているという印象を受けた。
スリップストリーム文学という言葉は本作の序文で初めて知ったが、今まで読んだ事のない作風で、その真価を知るには実際に読んで頂くしかない。作者は唯一無二のスリップストリーム文学作家の由なので、興味のある方には是非手に採って頂きたい。
2020年3月16日に日本でレビュー済み
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続けて、アンナ・カヴァンの最期の作品で、代表作と言われる「氷」を1日で読了。
期待を裏切るか、「草地は緑に輝いて」が特別だったのか、と、ドキドキしたが、良かった!
二人の男性(一人が語り手)が、氷に浸食される末期の世界の中、儚げだというのに夢のような圧倒的存在感の美少女をただひたすら追い求める話。この話は時代によっては、SFに分類されたこともあったが、スリップストリームというのに今は位置づけられるとのこと。不条理を描く純文学。思い当たるのは村上春樹。アンナ・カヴァンの「氷」は、(村上春樹からユーモアと性描写を抜き取り)あり得ないことが延々続くのに、非常に上質な小説として成り立ってしまう凄い作品だった。
幼い頃に、サディスティックな母に虐待を受け、心に傷を負い、神経症のようなイメージさえ受ける華奢な美少女は、その純度の極まった雪の結晶を思わせる美しさからか、語り手と社会的権力のある「長官」から執拗なまでに求められるが、現れたかと思えば消え、囚われとなったかと思えば夢のように抜けだす。男たちは迫り来る氷の浸食を背に彼女を追い求めるが、人間性を覗わせる理由や心根が一切分からない。純度の高い、美しさを極めた「孤独」に心酔しているかのように、少女を手中に納めようとする。世界が終わるというのに、こんなに少女に執着するのは一体。。。
最後、語り手は少女と共に迫り来る氷から逃げるため車を走らせる。みちゆき。車は疾走するふたりを包む暖かい小部屋。少女と寄り添い、懐の拳銃の存在を感じ、物語は終焉する。
私には、少女が魅惑的な死の願望の象徴に思えてならない。
因みに、アンナ・カヴァンは、「氷」の発表の翌年亡くなる。40年常用したヘロインが直接的な死因でないらしい。自殺未遂を繰り返した経歴もあるが、それが死因でないらしい。
次は、精神病院に入院した経験が影響した短編集「アサイラム・ピース」を読む予定。
期待を裏切るか、「草地は緑に輝いて」が特別だったのか、と、ドキドキしたが、良かった!
二人の男性(一人が語り手)が、氷に浸食される末期の世界の中、儚げだというのに夢のような圧倒的存在感の美少女をただひたすら追い求める話。この話は時代によっては、SFに分類されたこともあったが、スリップストリームというのに今は位置づけられるとのこと。不条理を描く純文学。思い当たるのは村上春樹。アンナ・カヴァンの「氷」は、(村上春樹からユーモアと性描写を抜き取り)あり得ないことが延々続くのに、非常に上質な小説として成り立ってしまう凄い作品だった。
幼い頃に、サディスティックな母に虐待を受け、心に傷を負い、神経症のようなイメージさえ受ける華奢な美少女は、その純度の極まった雪の結晶を思わせる美しさからか、語り手と社会的権力のある「長官」から執拗なまでに求められるが、現れたかと思えば消え、囚われとなったかと思えば夢のように抜けだす。男たちは迫り来る氷の浸食を背に彼女を追い求めるが、人間性を覗わせる理由や心根が一切分からない。純度の高い、美しさを極めた「孤独」に心酔しているかのように、少女を手中に納めようとする。世界が終わるというのに、こんなに少女に執着するのは一体。。。
最後、語り手は少女と共に迫り来る氷から逃げるため車を走らせる。みちゆき。車は疾走するふたりを包む暖かい小部屋。少女と寄り添い、懐の拳銃の存在を感じ、物語は終焉する。
私には、少女が魅惑的な死の願望の象徴に思えてならない。
因みに、アンナ・カヴァンは、「氷」の発表の翌年亡くなる。40年常用したヘロインが直接的な死因でないらしい。自殺未遂を繰り返した経歴もあるが、それが死因でないらしい。
次は、精神病院に入院した経験が影響した短編集「アサイラム・ピース」を読む予定。
2020年7月6日に日本でレビュー済み
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カフカが引き合いに出されることが多い作家なので気になっていましたが、
この作品を読んだ限りでは、似ているとは思いませんでした。
既存の型に当てはまるようなものではなく、著者独特の世界が精緻に描かれている作品でした。
カフカにはシュールなやり取りから生み出される滑稽さや、読んでいるものを次第に
不気味な世界に引き込む認識のずれや違和感からの広がりがありますが、
カヴァンの表現方法はもっと直截で、より幻想的なのに世界は広がるどころか狭まってゆき、
ユーモアは排除され、世界は湿っているのに文体は乾いています。
肝心の内容は、文体には品があり、技巧を凝らしていて、描写も細かくすごいと思えるのに
どうにも展開が退屈で、おもしろいと思えませんでした。
設定や表現には鋭いえぐさがあるものの、端々にメルヘンチックな雰囲気を感じてしまいます。
残酷さや暴力も混在する少女漫画でも読んでいるみたいな、むず痒い気分になってしまいました。
いやな言い方をすると、女性キャラのヒステリーな感情描写だけやけに生々しくなることがあり、
メンヘラの聖典みたいな印象を受ける本でした。
すごいと思うんだけど、おもしろかったとは言えない、不思議な感覚でした。
この作品を読んだ限りでは、似ているとは思いませんでした。
既存の型に当てはまるようなものではなく、著者独特の世界が精緻に描かれている作品でした。
カフカにはシュールなやり取りから生み出される滑稽さや、読んでいるものを次第に
不気味な世界に引き込む認識のずれや違和感からの広がりがありますが、
カヴァンの表現方法はもっと直截で、より幻想的なのに世界は広がるどころか狭まってゆき、
ユーモアは排除され、世界は湿っているのに文体は乾いています。
肝心の内容は、文体には品があり、技巧を凝らしていて、描写も細かくすごいと思えるのに
どうにも展開が退屈で、おもしろいと思えませんでした。
設定や表現には鋭いえぐさがあるものの、端々にメルヘンチックな雰囲気を感じてしまいます。
残酷さや暴力も混在する少女漫画でも読んでいるみたいな、むず痒い気分になってしまいました。
いやな言い方をすると、女性キャラのヒステリーな感情描写だけやけに生々しくなることがあり、
メンヘラの聖典みたいな印象を受ける本でした。
すごいと思うんだけど、おもしろかったとは言えない、不思議な感覚でした。
2015年7月12日に日本でレビュー済み
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一番初めに読んだカヴァンが「氷」で最近読み終わった本が「氷」。初体験は情報もなく、こちらも若いためか、余り惹かれない。その後、幾つかを読んで、面白さは感じるものの理解……というか、腑に落ちるところまで行けずに終わる。失敗したセックスのようだ。そして年月が流れる。今思えば、「愛の渇き」に明らかなように「氷」の少女はカヴァン自身だ。だから視点中心人物に惑わされずに少女の物語として読めばすっきりするし、見通しも良い。けれども、この終わり方から直線的に連想される未来は暗い。氷の侵食の話ではなく、少女の自立だ。「私」=ヘロインに取り込まれて終わってしまう。それはまたカヴァンの意志でもないだろう。だからわたしは願う。「私」が手に入れた拳銃により「私」が「少女」に撃たれることを……。そんな「私」の死こそ、物語の救いに違いない。
2018年11月15日に日本でレビュー済み
Amazonで購入
幻想的なのに機械的な香りもする、近未来SFのようでいて幻惑的である 村上春樹作品によく出てくる謎の女のようなヒロイン、それに訳もなく振り回される男 説明がほしいという人には不向きであるが嵌る人には心地よい
2018年10月23日に日本でレビュー済み
短編集「アサイラム・ピース」を読んでから本書を読みました。
結論めいたことを先に言うと、アンナ・カヴァン未経験の方であれば、先にこの「氷」を読むのが良いと思います。
アサイラム・ピースを先に読んでしまうと、カヴァン作品経験何作目かに当たる本書の導入部に既視感が生じるというか、同工異曲のように感じてしまいかねないのです。
私の場合はそれで一気読みできず、1/3くらいを読んだところで何日か中断してしまったのですが、これはちょっともったいないことをしたと読後に思ったのです。
残り1/4くらいになってからの展開--語り手である「私」の少女への執着(としか呼べないでしょう)と、少女の受動的ながらも現状から逃避しようとする意志--これらは冒頭からコンスタントに読んだほうがより緊迫感を持って読めたかなあ、と…
それでも最終部分に至る展開は十分スリリングで、全体がシルバーグレイの靄のように感じられた世界が急にオーロラのように鮮やかに、少しばかりおどろおどろしく見えてくるような描写は見事でした。また、中盤のすべての登場人物が自由意志というより状況に流されてファナティックな行動に走っているかのような印象は、J.G.バラードを思わせるようで、こちらも個人的に非常に好みでした。
この、取り憑かれたように破滅的な行動をとる愚かしい人々の存在する冷たい世界を、それでもこんなに美しく描けること自体が奇跡的なのかもしれません。
繰り返しますが、アンナ・カヴァン未経験ならば、ぜひこの作品からどうぞ。
結論めいたことを先に言うと、アンナ・カヴァン未経験の方であれば、先にこの「氷」を読むのが良いと思います。
アサイラム・ピースを先に読んでしまうと、カヴァン作品経験何作目かに当たる本書の導入部に既視感が生じるというか、同工異曲のように感じてしまいかねないのです。
私の場合はそれで一気読みできず、1/3くらいを読んだところで何日か中断してしまったのですが、これはちょっともったいないことをしたと読後に思ったのです。
残り1/4くらいになってからの展開--語り手である「私」の少女への執着(としか呼べないでしょう)と、少女の受動的ながらも現状から逃避しようとする意志--これらは冒頭からコンスタントに読んだほうがより緊迫感を持って読めたかなあ、と…
それでも最終部分に至る展開は十分スリリングで、全体がシルバーグレイの靄のように感じられた世界が急にオーロラのように鮮やかに、少しばかりおどろおどろしく見えてくるような描写は見事でした。また、中盤のすべての登場人物が自由意志というより状況に流されてファナティックな行動に走っているかのような印象は、J.G.バラードを思わせるようで、こちらも個人的に非常に好みでした。
この、取り憑かれたように破滅的な行動をとる愚かしい人々の存在する冷たい世界を、それでもこんなに美しく描けること自体が奇跡的なのかもしれません。
繰り返しますが、アンナ・カヴァン未経験ならば、ぜひこの作品からどうぞ。
2015年3月13日に日本でレビュー済み
原題 Ice (原著刊行1967年)
2008年にバジリコから刊行された単行本の文庫化復刊。版権の問題によりサンリオSF文庫版と単行本版に付されていたブライアン・オールディスの序文がクリストファー・プリーストによるものに差し替えられている。
世界を侵食し覆い尽くす禍々しくも美しい氷のイメージに圧倒される。それはまるで我々が決して逃れることの出来ない人生における不安と絶望の結晶の様だ。そして偏執的なまでに語り手の男に追い求められ、長官と呼ばれる独裁者に幽閉される少女の宿命に、蹂躙され汚される絶対的な無垢の存在を見る。勿論これは評者個人の一面的な見方に過ぎないが、本書の透徹された幻想の純度の高さと力強さは全ての読者が様々な感情を仮託する事を許す揺るぎなさを持っている。男と少女の逃避行の果てに訪れる美しくも悲痛で冷酷な結末はその象徴だ。
スリップストリーム文学の流れに本書を位置付けた卓抜した序文、実作者らしい示唆に富む川上弘美氏の解説を含め、素晴らしい復刊であり、スリリングで稀有な読書体験を約束してくれる一冊だ。
2008年にバジリコから刊行された単行本の文庫化復刊。版権の問題によりサンリオSF文庫版と単行本版に付されていたブライアン・オールディスの序文がクリストファー・プリーストによるものに差し替えられている。
世界を侵食し覆い尽くす禍々しくも美しい氷のイメージに圧倒される。それはまるで我々が決して逃れることの出来ない人生における不安と絶望の結晶の様だ。そして偏執的なまでに語り手の男に追い求められ、長官と呼ばれる独裁者に幽閉される少女の宿命に、蹂躙され汚される絶対的な無垢の存在を見る。勿論これは評者個人の一面的な見方に過ぎないが、本書の透徹された幻想の純度の高さと力強さは全ての読者が様々な感情を仮託する事を許す揺るぎなさを持っている。男と少女の逃避行の果てに訪れる美しくも悲痛で冷酷な結末はその象徴だ。
スリップストリーム文学の流れに本書を位置付けた卓抜した序文、実作者らしい示唆に富む川上弘美氏の解説を含め、素晴らしい復刊であり、スリリングで稀有な読書体験を約束してくれる一冊だ。