本書を読んでいる間、ずっと聞こえてきたのが、「環境史は実は“予言の書”なのですよ」という著者の声だった。おりしも、最終章の火山噴火について読んでいる最中に、アイスランドの火山の噴火煙でヨーロッパ中の空の交通がマヒしたというニュースは飛び込んできた。文明の危うさを思うと同時に、本書のいろいろなメッセージがさしせまったものであることを痛感した。
善良な小市民を自認する私としては、最初、本書のタイトルは非日常的、無縁に思えた。しかし、ひとたび読み始めると、コロンブスの醜い実像、それ以降のヨーロッパ世界の膨張につれて破壊される地球環境など、挙げればきりのないほどたくさんの興味深い話が次ぎ次ぎに語られ、まるでディッケンズの小説を読むように、その先、その先へとどんどん読み進んでしまった。ピアノの鍵盤に使うため、ベルギー領コンゴでは30年間で200万頭の象が殺されたという。小市民も決して動物虐殺に無縁ではないことがいやと言うほどわかってくる。
「環境悪化は自然災害になってあらわれる」と著者は書いているが、実際、昨今の異常気候やそれによる災害の頻度は尋常ではない。なるべく多くの人にこの本を読んでもらって、現世人類が繁栄している現在の地球の状態は、46億年の経過を経て、さまざまなバランスがかろうじてとれた、貴重なつかのまのプライムタイムだということを理解してほしいと思った。著者の言うように、「人類という一種類の動物の異常増殖によって、次々と野生生物が絶滅し、膨大な資源が略奪され、完膚無きほどに地表が変わってしまった」。われわれは今気づかなければ、いつ気づくというのか?手遅れも目前である。
実際のところ本書は単なるおもしろい読み物だけではない。そもそも環境史学という新しい学問の紹介でもある。これまでの環境問題についての本は、ピンポイント的に問題をとりあげたものがほとんどだが、本書は地球史、人類史、環境史という大きな流れの中で総合的にみていく根本的な視点がある。しかし、歴史だからストーリー性があり、加えて、著者の文化的なうんちくも多く、これがまた魅力である。たとえば、ムンクの有名な「「叫び」の絵の背景の空や「出エジプト記」の三日間の暗黒の日の記述も環境問題で説明がつくのである。小説よりおもしろい学術書である。
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火山噴火・動物虐殺・人口爆発 (歴史新書y) (歴史新書y 2) 新書 – 2010/4/6
石 弘之
(著)
- 本の長さ222ページ
- 言語日本語
- 出版社洋泉社
- 発売日2010/4/6
- ISBN-10486248543X
- ISBN-13978-4862485434
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登録情報
- 出版社 : 洋泉社 (2010/4/6)
- 発売日 : 2010/4/6
- 言語 : 日本語
- 新書 : 222ページ
- ISBN-10 : 486248543X
- ISBN-13 : 978-4862485434
- Amazon 売れ筋ランキング: - 1,105,730位本 (本の売れ筋ランキングを見る)
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2010年4月18日に日本でレビュー済み
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2010年5月5日に日本でレビュー済み
最近、問題をファッション化させて事の本質を見失う風潮が目につきます。そのよい例がエコであり、メタボです。エコ!エコ!と絶叫しつつ、「地球温暖化で北極の氷が溶けて海面が上昇する」などという中学校までの知識で誤りとわかる言説に踊らされたりしています。
環境史を主題にしたこの本では、第8章を除いて人類が環境を破壊してきた過程が、様々な時代や地域(著者の言うところのタテとヨコ)に沿って、いろいろな分野から分析されています。
第3章で述べられているスイスと日本の造林事業の違い、スイスでは、やみくもに植林したのではなく、本来の景観を取り戻すために生態学を駆使した森林の再生が行われた。景観を台無しにし、花粉症ばかりを増やしてきたどこかの国(日本でしょうね)の造林事業と比べると、そこには自然や景観に対する哲学の違いを感じる、そう、本来の植生に関係なく杉の植林を国が補助までして進めたせいで、管理の行き届かない杉林が増え、花粉症の増加だけでなく、大雨の降った時に水を保持できない山林が増え、地滑りや洪水の原因にもなっています。
第5章は先般のクロマグロ騒動を思い出させてくれます。西ヨーロッパの人達の御先祖様は次から次へと漁場を変えてタラを獲り尽くしてきたのですね。
第8章は人間にはどうすることもできない火山噴火についてです。しかし今までの環境史から、火山噴火が長期的にどういうことをもたらすか予想し、それへの対処を考えることはできます。今年もアイスランドの火山が噴火し、飛行機が飛べなくなって大騒ぎになりましたが、今年の夏もっと大きな問題が全地球レベルで起きるかもしれません。地図を片手に是非第8章を熟読してみて下さい。
環境史を主題にしたこの本では、第8章を除いて人類が環境を破壊してきた過程が、様々な時代や地域(著者の言うところのタテとヨコ)に沿って、いろいろな分野から分析されています。
第3章で述べられているスイスと日本の造林事業の違い、スイスでは、やみくもに植林したのではなく、本来の景観を取り戻すために生態学を駆使した森林の再生が行われた。景観を台無しにし、花粉症ばかりを増やしてきたどこかの国(日本でしょうね)の造林事業と比べると、そこには自然や景観に対する哲学の違いを感じる、そう、本来の植生に関係なく杉の植林を国が補助までして進めたせいで、管理の行き届かない杉林が増え、花粉症の増加だけでなく、大雨の降った時に水を保持できない山林が増え、地滑りや洪水の原因にもなっています。
第5章は先般のクロマグロ騒動を思い出させてくれます。西ヨーロッパの人達の御先祖様は次から次へと漁場を変えてタラを獲り尽くしてきたのですね。
第8章は人間にはどうすることもできない火山噴火についてです。しかし今までの環境史から、火山噴火が長期的にどういうことをもたらすか予想し、それへの対処を考えることはできます。今年もアイスランドの火山が噴火し、飛行機が飛べなくなって大騒ぎになりましたが、今年の夏もっと大きな問題が全地球レベルで起きるかもしれません。地図を片手に是非第8章を熟読してみて下さい。