本書の冒頭には、「これまで捕鯨問題を取り上げてきた多くの本では、「日本には捕鯨の伝統がある」という言説がさしたる検証もなしに用いられてきた。」とある。また、著者中園氏の前著では、「捕鯨の是非を問う前に、「日本人がこれまでどのように鯨と関わってきたか」という点についての情報があまりに少なく、また多くの人に充分な情報が行きわたっていない現状を認識して貰いたい」云々とあり、著者は、一環して、日本人と鯨との関わりあいの歴史を、狭溢なナショナリズム、感傷的な環境保護、様々な美談などを一旦取り払い、客観的に、具体的に、日本における捕鯨の伝統、文化について検証した好著である。
本書は、唐津市教育委員会で呼子町を5年間担当したのち、現在(2013年3月)生月島の館の館長を務める民俗学者の執筆による。江戸時代後期に盛んだった古式捕鯨である、鯨組による網掛突取式捕鯨について、現在佐賀県唐津市呼子町に栄えた中尾組の文献である、「鯨魚覧笑録」(絵巻物)と、現在長崎県平戸市生月町で栄えた益富組の文献である「勇魚取絵詞」(折本)とを徹底的に読み解くことによって、日本における「鯨取り文化」とは具体的に何なのか?を浮き彫りにすることを試みている。
本書で、圧巻なのは、古文書である「鯨魚覧笑録」の、そこに書かれた全ての文字情報を、共著者の安永浩氏が活字に翻刻した上で、中園氏が検証している所だ。図案の部分の色彩も綺麗で、鯨を山見小屋から発見、鯨を捕獲し、解体するまでを克明に。残酷な部分もなにもかも包み隠すことなく描かれており、中園氏は、それゆえ、資料としての信頼性が高いと評価している。そして、一級の資料だが、誰にでも気軽に手にとって理解出来るものではない古文書を、現代の我々にも手が届くようにしたという点は、本書の大きな功績だと思う。
最後に、私が個人的に申し上げたいことは、本書は純然たる学術書でありながら、研究者以外の読者を拒まない、つまり、難しい専門知識を持たない読者であっても、本書を楽しみ、理解することが出来るという意味で、とてもオープンマインドな一冊だということです。実際、私は本書を手にしたとき、既に何冊もの捕鯨の是非を問う本を読んではいましたが、本書を手にしたとき、自分が本当に知りたかったのは、こういう事だったんだと思いました。絵や図も色がとても鮮やかで、本書を紐解いた瞬間に虜になってしまうような、壮大な鯨取りの世界が目の前に広がります。
また、中園氏の前著「くじら取りの系譜」には、西海に限らず、また、江戸時代に限らず、全体としての日本の捕鯨の在り方の歴史が書かれており、また用語や、地理的な関係、古式捕鯨の基礎知識、地域ごとの違い、文化的なものなどが、非常に系統立ててまとめられており、本書にいちいち繰り返していないので、2冊合わせて読むと、より深く理解して読めると思います。
捕鯨の是非は、この際、ともかくとして、日本の捕鯨についてどうだったのか、読んで下さい。
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鯨取り絵物語 単行本 – 2009/1/25
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- 本の長さ296ページ
- 出版社弦書房
- 発売日2009/1/25
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- 単行本 : 296ページ
- ISBN-10 : 4863290101
- ISBN-13 : 978-4863290105
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2013年3月20日に日本でレビュー済み
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2011年1月6日に日本でレビュー済み
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捕鯨問題が国際的関心を呼んでいるが、捕鯨のルーツを旅させてくれる本書を強くお奨めしたい。蛇足ながら本書に関係する元資料は大学の図書館や、全国各地に所在する一般の博物館などに所蔵されている。研究者でない限り、目に触れ難いものも少ないなくないと思う。仮に閲覧する機会があっても、古文書を読み下すにはそれなりの知識が必要であろう。そういう意味でもこのような図書は、専門外の人間にとって非常に有難い存在と言えるだろう。なお本書に登場する捕鯨史料の一部は九州大学デジタルアーカイブでも閲覧できる。古文書そのもののコピーなどで研究者にとっても参考になると想像される。
2023年8月20日に日本でレビュー済み
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読んでみて、いまいちでした。図などが少ない気がしました。
2010年5月13日に日本でレビュー済み
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皆さんご存じでしたか?鯨の油って江戸時代には農薬として機能していたいんですよ!とこの本はそんな驚きに満ちた内容になっています。我々が鯨と共に歩んで来た道はすばらしいと読む度に何度も実感させられる傑作中の傑作。わたしは、シャチがあまり好きではなかったのですが、シャチとアイヌ人の絆を読んで感動しました。お陰様でシャチが大好きになりました。とにかく読んでみてください!日本人として捕鯨支持、不支持問わず必読だと思います!
2022年6月23日に日本でレビュー済み
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鯨を糧とし敬意を払って採って来た歴史にかんがみ、こうした著作を書かれた方に敬意を表します。