Amazonで購入させていただきました。
他のレビュアーの方も書かれていらっしゃいましたが(いまは削除? されているようです)、本書の存在は「インテリゲンちゃん」こと高橋源一郎さんから教えられました。
はじめて本書の存在を知ったのはもう定かではないのですが、おそらく高橋源一郎『一億三千万人のための小説教室』(岩波新書、2002)のなかでだったと思われます。
以下、本書に言及した部分を挙げます。
「(前略)わたしは、この作者(レビュアー註:猫田道子さんのこと)が、遠く彼方を目指したために罰せられたのではないか、この作品(レビュアー註:『うわさのベーコン』のこと)は、人間という、この傲慢な(おそれを知らぬ)存在に、神が下した罰の徴ではないかとさえ思うのです」(p.xx)
このように高橋さんは述べられてからおもむろに『うわさのベーコン』からの引用をはじめます。
「私がこの家に生まれた時から、私の身近には楽しい音楽がありました。これは、きついレッスンにたえていく音楽ではなくて、私の生活の一部となっていました。/藤原家は父一人母一人兄一人と、私。兄は私が生まれた時からフルートを吹いていたのですが、私が三歳になって、兄は交通事故にあい、フルートが吹けない体になってしまいました。その日、兄のフルートを手で持って遊んでいました。/兄は、その交通事故にあった日より三日もたたない内に死んでしまいました。/「お兄さんにはもう逢えないの?」/私が母親に、この質問をしたのは、兄貴が死んで、ちゃんとあの世へ送り届け終った後。それまで私は、兄貴の姿が見えない事に気付いていても、口にせず、いつかひょっこりと現われてくるだろうと信じていました。/この私の質問に母親は何かしら答えて下さったのだけれど、私は何を喋っていらしたのか分からなかった。”聞こえない”/私の中で、はっきりとその事が分かって、それでもまだ私に答えて下さる母親に申し訳けがありませんでした。/私は耳が聞こえない事を母親に言うと、私を耳鼻科に連れてって、耳の手術を受けさせました。お陰様で耳は、すごくと良く聞こえる様になりました。楽しい音楽とやらは現在進行形でしたがフルートの音色がたりない。「これ、使わないの?」と誰となく聞いてみたら、母が「お兄ちゃんが使っていたのだけれど、お兄ちゃんが交通事故で死んだから使う人がいなくなったんだよ。」と答えて来られたのでした。ここで改めて私は兄の死を知らされた。私は泣いてしまいました。わんわん泣いていても、母達は私をなぐさめず、自分の音楽にふけっています。それでもまだ泣いていた自分が、ふと泣くのをやめて辺りを見回すと、皆んな笑っている。”何故笑っているの?”」(pp.xxーxxⅱ、原著ではpp.7-8)
ここまで引用したあと、高橋さんは以下のように続けます。
「いや、わたしも、この「小説」を読むと「笑って」しまいたくなります。/これを書いた人は、どこかおかしい、と思いたくなる。意味がわからない、といいたくなる。それは、きっと、あなたもそうでしょう」(p.xxⅱ)
ぼくはここまで高橋さんと猫田さんの文章と小説を引用してきました。
引用しながら再確認したのですが、たしかに昔のぼくは『うわさのベーコン』を読んで爆笑したけれど、いまはぜんぜん笑えないのです。
なぜ「笑えない」のか。
なるほど、他のレビュアーの方が書いていらっしゃるように、猫田さんは「破瓜型」かもしれません。「破瓜型」の<言葉のサラダ>や<言語新作>なのかもしれない。
しかし、そうした猫田さん自身のご事情を度外視したとしても、『うわさのベーコン』からは(行間から?)物哀しさが漂ってくるので、もう笑うに笑えないのです。
高橋さんは「精神のチューニングがほんの少しずれている」(pp.xvⅲ)と書いていらっしゃいましたが、誰でも「精神のチューニング」が「ずれて」しまう可能性があるのが(特にコロナ禍にある)現代社会ではないでしょうか。
たとえばぼくはあまりテレビドラマは観ないのですが、『半沢直樹』で銀行の支店長にまでなったエリート行員がプレッシャーからあきらかに「精神のチューニングがほんの少しずれている」姿(の演技)を見ました。
閑話休題。本筋からどんどん逸れている気がしてきました。
『うわさのベーコン』。昔と読後の印象は180度くらい違いますが、目が離せない作品であることは確かです。
いわゆる「ふつう」のブンガクにあきたりない方は一読するのも一興だと思います。
書きながら罪悪感を抱いてきました。
ひとりのレビュアーの方が「猫田さんをそっとしておいて欲しい。人間の俗悪さを垣間見た思いだ」という趣旨のことを書かれていました。そのとおりなので、ぼくはレビューを書いてもいいのだろうか、と逡巡しましたが、少し違った角度で書いてみました。
オススメです。
無料のKindleアプリをダウンロードして、スマートフォン、タブレット、またはコンピューターで今すぐKindle本を読むことができます。Kindleデバイスは必要ありません。
ウェブ版Kindleなら、お使いのブラウザですぐにお読みいただけます。
携帯電話のカメラを使用する - 以下のコードをスキャンし、Kindleアプリをダウンロードしてください。
うわさのベーコン 単行本 – 2000/2/1
猫田 道子
(著)
- 本の長さ245ページ
- 言語日本語
- 出版社太田出版
- 発売日2000/2/1
- ISBN-104872335023
- ISBN-13978-4872335026
この商品をチェックした人はこんな商品もチェックしています
ページ 1 以下のうち 1 最初から観るページ 1 以下のうち 1
商品の説明
内容(「MARC」データベースより)
私が3歳になった頃、兄は交通事故にあって亡くなった。二十歳になって、いとこに兄のかたみのフルートをあげた…。脈絡なく展開するストーリーの表題作ほか3編を収録した小説集。
登録情報
- 出版社 : 太田出版 (2000/2/1)
- 発売日 : 2000/2/1
- 言語 : 日本語
- 単行本 : 245ページ
- ISBN-10 : 4872335023
- ISBN-13 : 978-4872335026
- Amazon 売れ筋ランキング: - 1,314,194位本 (本の売れ筋ランキングを見る)
- - 30,632位日本文学
- カスタマーレビュー:
著者について
著者をフォローして、新作のアップデートや改善されたおすすめを入手してください。
著者の本をもっと発見したり、よく似た著者を見つけたり、著者のブログを読んだりしましょう
カスタマーレビュー
星5つ中4.3つ
5つのうち4.3つ
全体的な星の数と星別のパーセンテージの内訳を計算するにあたり、単純平均は使用されていません。当システムでは、レビューがどの程度新しいか、レビュー担当者がAmazonで購入したかどうかなど、特定の要素をより重視しています。 詳細はこちら
11グローバルレーティング
虚偽のレビューは一切容認しません
私たちの目標は、すべてのレビューを信頼性の高い、有益なものにすることです。だからこそ、私たちはテクノロジーと人間の調査員の両方を活用して、お客様が偽のレビューを見る前にブロックしています。 詳細はこちら
コミュニティガイドラインに違反するAmazonアカウントはブロックされます。また、レビューを購入した出品者をブロックし、そのようなレビューを投稿した当事者に対して法的措置を取ります。 報告方法について学ぶ
-
トップレビュー
上位レビュー、対象国: 日本
レビューのフィルタリング中に問題が発生しました。後でもう一度試してください。
2020年10月5日に日本でレビュー済み
Amazonで購入
2019年11月2日に日本でレビュー済み
このような日本語を使う人たちをネットで一定数見かけるようになった現在,この作品は大きな違和感なく受容できる.一読して「ふーん」な感想,再読したいとも思わない.タイミング的にピンポイントで 1990年代(サブカルがポストモダンや実験文学を受容できる程度に成熟し,そしてネット普及以前)に,この感覚で世界とコミュニケーションする人が,短編小説フォーマットで物語を創作・発表意欲を持ち行動に移したことが生み出した,ちょっとした偶発的小品
2016年8月11日に日本でレビュー済み
日本語がギリギリのまま物語を成立させちゃってるのがすごいです。
数話収録されてますが、表題話がよいです。
数話収録されてますが、表題話がよいです。
2010年6月12日に日本でレビュー済み
花山薫。サイコガンダム、キングダーク、レイレイに斉木しげるとジオング。手の大きいゴイエレメスな体型が子供の頃から好きでした。包容力です。あの大きな手につかまってさえいれば大抵の攻撃からは守ってくれそうなあの手。…と、それも自身が大きいなるにつれ手の一連の動きが理解できてくると、いつまでだって卵一個を握るような手つきばかりはしておれないと気付くのです。なるべく隙間を殺してみたところで、すくった水はこぼれるし残った底溜まりなど見ているだけで儚くなるというもので。なんだか足らないものだらけのようでいて、なにかで満ち満ちている作品。私はこれまで三度。読む機会がありましたが、ありのままを受け入れるのを諦めて四周目にさしかかろうかというところ。本当に手にした個人の想像におまかせするしかない一冊。ただ日本語がとても好きになる、ような気はする。
2015年5月17日に日本でレビュー済み
本書は『うわさのベーコン』を含む他数作品で成り立つ。 『うわさのベーコン』は第一回ジュノン小説大賞の審査員に揶揄され、キワモノ枠として最終候補まで残された猫田氏の処女作である。 その後間もなく、クイックジャパン編集局の強い要望で、著者同意の元、同誌26号に全文が掲載された。 狙い通り、読者の反響は大きく、(名指しはしないが)著名な作家・評論家らの狡猾で皮肉混じりの賞賛も手伝い、以って単行本化が決定された。
正直、本書のタイトルを聞くと無念な気持ちにさせられる。 出版に至るまでの関係者全員の狡猾な含み笑いがありありと眼に浮かんでくるからである。 「破瓜型」という言葉を検索してみ給え。 氏の辛苦を――それに由来する独特の文章構成、思考回路、論理飛躍、誤字脱字を――悪魔の破顔を以って公に晒すとは何事ぞと思う。 私はここに俗世の醜穢を見た。
なるべく本書並びに作者をそっとしておいて欲しい――切にそう願うばかりである。
正直、本書のタイトルを聞くと無念な気持ちにさせられる。 出版に至るまでの関係者全員の狡猾な含み笑いがありありと眼に浮かんでくるからである。 「破瓜型」という言葉を検索してみ給え。 氏の辛苦を――それに由来する独特の文章構成、思考回路、論理飛躍、誤字脱字を――悪魔の破顔を以って公に晒すとは何事ぞと思う。 私はここに俗世の醜穢を見た。
なるべく本書並びに作者をそっとしておいて欲しい――切にそう願うばかりである。
2006年6月26日に日本でレビュー済み
タイトルに書いた通りグッチャグッチャに掻き回されます。
物語・プロットなんてどうでもいい作品。この猫田道子著
「うわさのベーコン」という小説、文字・言語を読み、租借し、
嚥下するという行為自体を楽しむものです。
ある意味において、文学界の大きな収穫と言えると思います。
ただ、読む。
物語・プロットなんてどうでもいい作品。この猫田道子著
「うわさのベーコン」という小説、文字・言語を読み、租借し、
嚥下するという行為自体を楽しむものです。
ある意味において、文学界の大きな収穫と言えると思います。
ただ、読む。
2016年6月15日に日本でレビュー済み
取りあえず、ベーコンのとこだけ読んだ。脳みそが腐る。ベーコンはどこに出てくるのだ?
といいつつも、吹き出して笑ってしまった。
。。
といいつつも、吹き出して笑ってしまった。
。。
2003年10月8日に日本でレビュー済み
誰もかいてないじゃん!!!この本なら五つ星が10くらい並んでると思ったのに・・・。すんばらしいめちゃくちゃな文章、とても推敲して書いたとは思えない構成、考えられない誤字、脱字、ですます調と、だ、である調が入り乱れる文体の中、お話は進んでいきます。ある耳の聞こえないフルートふきの少女の物語。・・・という筋なのですが、んなこた~どーでもいい(あ、でも「音楽」も重要なテーゼになってますが)。吉本ばななさんの小説で「女性の感性はすごい」と驚かれている中年男性の皆様全員にお勧め。これが「おんな・こどもの感性」の小説の決定版です!!普段身近にいる「おんな」は実はこうゆうことを考えているのです・・・