構造主義の観点から進化について書かれた理論書。池田清彦自らが「私の密かな目論見によれば，本書は未来から書かれた進化論史の本なのである」と自負するように，その理論の射程は，既存の進化論（ネオ・ダーウィニズム）を遙かに凌駕する。その卓越した先駆性に未だ時代は追いついておらず，池田清彦最大の理論書の１つといってよいだろう。この本を理解できたならば，現代流通している進化論がいかに底の浅いものであるかわかると同時に，それに基づいている進化心理学などもたちまち砂上の楼閣であることがわかるだろう。
また，冒頭の古代ギリシャの自然哲学史だけでも，彼らがいかなる意味で「科学的」であり，その歩みを進めてきたかがよくわかるのでギリシア科学論史の隠れた名書といえる。全編にわたり文章はわかりやすいが，内容は高度であるため，すらすらわかるというよりも，「名とは時間を生み出す形式である」といったような謎めいたテーゼをはじめとして，じっくりと読み解いていく愉しさが味わえる本である。
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