理研創設に関わったとしか知らなかった高峰譲吉とアドレナリンの結晶化に成功した上中啓三の史実の発掘を伴う非常に真摯で公平で、新たな歴史を明らかにしたノンフィクションとなっている。
日本のこのたぐいの本ではまれなほど、1次情報をにこだわり、探し出し、まさに当の本人の上中啓三のインタビューとメモなど一つ一つ確実に、現在流布している俗説、ゆがめられた歴史を書き換えていく。
なにより、米国だけで未だにエピネフリン、そう，最近話題になった食物アレルギーの救急用「エピペン」の由来となっているまだ現実に薬として使われているアドレナリンの抽出、結晶化が、1900年頃の時代背景の下、活写されている。
そしてなにより、理化学研究所を創設するに至った渋沢栄一との関係以上に、その日本への深い愛情と、実利的志向を納得させられる。
この成功の裏には、パークデービスという当時の最先端製薬企業の全面的バックアップの中ではじめて、高峰、上中のアドレナリンの結晶化の成功があったと言うことを得心させられる。
そして、後にタカジアスターゼの発明により巨万の富を築き、それを惜しみなく民間大使として苦境の日本外交を支援したこと。
でも、外国留学が日本での差別的待遇もあっってのことだったこととなど、この時期の日本の科学と技術の発展の空気とともに、あくまでも実利的技術にこだわった高峰譲吉が伝わってくる。
高峰譲吉が起業した三共でずっと働いてきた著者石田三雄氏のこだわりと執念のたまものであることが、的確な記述とともに、その1次情報の文献リストでよくわかる。
たんなる読み物として以上に、かなり歪曲されてきたホルモン研究の初期の真実の一端を鮮やかに教えてくれる謎解きとしてスリリングである。
エピネフリンと呼んできた米国も、いま、国際的に使われていきた高峰譲吉の命名であるアドレナリンが使われようとしてしているという。
大村智 - ２億人を病魔から守った化学者
とは全く違うかたちの、世界に屹立した日本人を知ることが出来る。
英語の翻訳版も出ました。京大レポジトリー紅から「Hormone Hunters: The Discovery of Adrenaline」として読めます。
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