最初読んだ時は、エステや最新ダイエット、美容、恋愛、お金などの欲望(男性から真摯に愛されたい等)を満たすために主人公が四苦八苦する所に目を奪われるのですが、今読み返してみると、母親から愛されたい、好きになった男性から大切にされたいと思う私達とたいして変わらない普通の女の子の健気な話、なんだと思います。
主人公の典子さんには知性があった、そのために結末は人によっては男から捨てられてオタクの道に入った可哀想なオバさん、とも言えるし、等身大の自分を受け入れて人に依存する事もなく、周囲の人に優しく出来る大人の女性として成長した、とも言えるし、読む人によって印象は変わると思います。
横森さんのエッセイで不幸の布教 について述べられていますが、主人公の女の子は自分の不安や不満感を誰かにはぶつける事はなかった、これはスゴイ事だと思います。(その代わり自分の体をコントロールしようとするのですが。)横森さんの小説の主人公は刹那的な生き方をしていても自分がされてやな事は人にしないよう極力気をつけている子が多いです。
あと若い女性、と言うのはちやほやされるけど、年上の同性の女性(母親とか)から八つ当たりされたり、女友達同士でも気が抜けない、心許せない部分がある事など、同じ女性として、うなずいてしまう部分が多く散りばめられています。
主人公の典子さんは母親から愛されたいために自分が本当にしたい事(漫画を描く事)を諦めるし、付き合っている男性から大切にされたいためにムリなダイエットを繰り返したり、かなりムリをするわけですが、結果、母親との関係も良くなるわけでもない、付き合っている男性は相変わらず他の女性と遊んでいる状態で某野球漫画の主人公(星〜〜)のように血のにじむ努力をしても報われない、と言う現実を突きつけられます。(主人公自身も、もう体も心も悲鳴を上げて相手の期待に応える事が出来なくなっている。)
私の尊敬する駒尺喜美さんの本の中で、ある独身の職業婦人の言葉で人に合わせるのが私にとって一番苦痛な事だった、と言う言葉があるのですが、誰にとっても人に合わせ続ける、と言う事はしんどい事で、主人公の典子さんは自我の確立しない子供の頃は親のいい子ちゃんでいられてもいつまでもと言うわけにも行かず、付き合っている男性の理想の女性に自分をムリにはめこんでも、誰だって年取るしいつまでも若く美しくなんてありえない、結局、相手に愛されたいために自分を殺したりムリをしても自分が目減りするだけ、と言う事実だけしか典子さんには残りません。
物語の背景が高度経済成長と言う事もあって、分をわきまえる よりも、もっと上をもっと上をと目指していた、目指す事が出来た時代背景も大きいのかもしれません。
山岸凉子さんの一昔前の漫画だと、似たような状況の場合主人公はだいたい発狂しちゃうのですが、現代の主人公は自分のやりたいことに立ち戻って自分を再構築する、スカーレット・オハラのように転んでも起きあがる、主人公は母親からも彼氏からも見捨てられて自分の本当にやりたかったこと(漫画を描くこと)を始めます。
ニューシネマパラダイスの主人公は父親代わりの映写技師から自分の仕事を愛せ(自分自身を愛せ)故郷には絶対戻ってくるなと言われローマへ行き、成功するわけですが、エステマニアの主人公、典子さんも母親や彼から見捨てられ自分のやりたい事をやり始めて自分を取り戻す事が出来ます。
人は愛がないと生きていけないのだけれども自分自身を愛さないと、大事にしないとまずいんだよと女性も成熟する事を求める時代のシンデレラ・ストーリーとも言えなくもない名作です。
寿命が伸びている現代、母親と仲悪くても友達いなくても、彼氏(夫)から捨てられても生き続けなくてはいけないせちがい現代社会に生きる女性達への応援歌のようです。
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エステマニア 単行本 – 1995/9/1
横森 理香
(著)
- 本の長さ270ページ
- 言語日本語
- 出版社幻冬舎
- 発売日1995/9/1
- ISBN-104877280723
- ISBN-13978-4877280727
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商品の説明
内容(「MARC」データベースより)
ダイエット、エアロビ、エステ、そしてセックス。愛されるための大努力、私にとっても魅力的な私に出会うまでの誰にも言えない喜びと悲しみの闘い。絶対綺麗を見つけだす、楽しくって切ない体験的書き下ろし小説。
登録情報
- 出版社 : 幻冬舎 (1995/9/1)
- 発売日 : 1995/9/1
- 言語 : 日本語
- 単行本 : 270ページ
- ISBN-10 : 4877280723
- ISBN-13 : 978-4877280727
- Amazon 売れ筋ランキング: - 1,920,876位本 (本の売れ筋ランキングを見る)
- - 45,917位日本文学
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トップレビュー
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2022年9月17日に日本でレビュー済み
Amazonで購入
この年頃にありがちな自意識。また、毒親に育てられた主人公。無駄毛の処理や、細部細部 よく書かれていて、いい作品。
ピースフルでハッピーなエッセイより断然いいと思う。
ピースフルでハッピーなエッセイより断然いいと思う。
2011年2月27日に日本でレビュー済み
Amazonで購入
横森理香さんの短編は一度読んだ事があり他の作品も読んでみたく購入しました。主人公は美人で将来はモデルになれるのではと両親は喜び期待していたが、小学校5年生の時成長と共に太りはじめ…両親の落胆ははげしく、クラスの男の子からもからかわれ、太った事だけではなく毛深い事もわかりさらにショックを受け、中学からはじめた歯列矯正で「お歯黒」とからかわれ、通信販売の「痩せ薬」「エステ器具」にはまる…15.16.17と暗かった人生、ようやく入った大学で女子大生パブのホステスへ変身しそこで金持ちと出会い念願の痩身エステに通うのだが… 読んでいて痩せたいならお菓子食べるのやめればいいのに、とかイライラする部分もありましたがスラスラ読めて面白く最後ハッピーエンド的な終わり方で良かった☆
2004年6月28日に日本でレビュー済み
エステに通っていたときに読みました。
経験者だからこそわかるエステの裏側が描かれていて、読んでいてちょっと怖くなるぐらいです。
また、エステにハマっていった女心も丁寧に描かれているので同じ女性として共感できる部分が多かったです。
経験者だからこそわかるエステの裏側が描かれていて、読んでいてちょっと怖くなるぐらいです。
また、エステにハマっていった女心も丁寧に描かれているので同じ女性として共感できる部分が多かったです。
2011年5月14日に日本でレビュー済み
横森さんはこのテーマについて何度か書いており、彼女にとって本当に大事なテーマであることがわかる。
この小説は一見軽薄に見えるかもしれないが、バブルの時代の狂騒と虚無を見事に表現しているのが何よりすばらしい。欲望を追求し尽くした果ての虚無、そういうものは平凡な人間には縁のないものであるが、この作品の底には宴が果てた後の虚無の風がびょうびょうと吹いている。(バブルについて描かれた小説は他にもあるが、この小説には実感がこもっている。)
この小説にはもう一つ、外から見える自分と本当の自分の乖離が描かれている。(ほとんどの女性には理解できる悩みではないだろうか。)肌がつるつるで、顔は小さく手足は長く…バービー人形のような姿になることを女性たちは目指してしまう。それなのに、裸足で歩いていた少女の部分も捨てられない。主人公は最後に、本当の自分に戻るのだが…
それを幸福と見るか、不幸と見るか、読む人の価値観が出る部分かもしれない。
この小説は一見軽薄に見えるかもしれないが、バブルの時代の狂騒と虚無を見事に表現しているのが何よりすばらしい。欲望を追求し尽くした果ての虚無、そういうものは平凡な人間には縁のないものであるが、この作品の底には宴が果てた後の虚無の風がびょうびょうと吹いている。(バブルについて描かれた小説は他にもあるが、この小説には実感がこもっている。)
この小説にはもう一つ、外から見える自分と本当の自分の乖離が描かれている。(ほとんどの女性には理解できる悩みではないだろうか。)肌がつるつるで、顔は小さく手足は長く…バービー人形のような姿になることを女性たちは目指してしまう。それなのに、裸足で歩いていた少女の部分も捨てられない。主人公は最後に、本当の自分に戻るのだが…
それを幸福と見るか、不幸と見るか、読む人の価値観が出る部分かもしれない。
2007年12月23日に日本でレビュー済み
作者についてほとんど何も知らずに最初に手にしたのがこの本。時々雑誌で見かけるご本人のイメージを朧に読み進んだ。
容姿コンプレックスを持つ主人公典子はどこへ向かおうとしていたのか。先へ先へと走る気持ちと、動こうとしない自分、ありのままを受け入れるか、前進するか。時として後退するか。恋愛。美。中盤、エステ通いによって美を手に入れる事で前進しようとする姿とその崩壊の描写が恋愛物語の中で自然に描かれていて興味深い。また、終盤にかけて次第に美を手に入れる事ではなく、あるがままを受け入れることであるがままに磨きをかけ、本当に前進していく典子の穏やかな心境への描写の変遷は(それ自体、小説としてキレイに収まり過ぎかもしれないけど)とても清々しい。
容姿コンプレックスを持つ主人公典子はどこへ向かおうとしていたのか。先へ先へと走る気持ちと、動こうとしない自分、ありのままを受け入れるか、前進するか。時として後退するか。恋愛。美。中盤、エステ通いによって美を手に入れる事で前進しようとする姿とその崩壊の描写が恋愛物語の中で自然に描かれていて興味深い。また、終盤にかけて次第に美を手に入れる事ではなく、あるがままを受け入れることであるがままに磨きをかけ、本当に前進していく典子の穏やかな心境への描写の変遷は(それ自体、小説としてキレイに収まり過ぎかもしれないけど)とても清々しい。