21世紀に入ってから、しきりに「治安悪化」が語られるようになり、「犯罪被害者や遺族のことを考えたら、厳罰化は必要。死刑も当然存置」といった論調が目立つようになってきたことに、どこか危ないものを感じるようになったここ二年ほど、私は「犯罪と刑罰」の問題についての本はたくさん読むようになった。
わが国ではこの問題がまずもって「死刑存廃」に結びついているせいか、話題になる本の多くは「犯罪被害者遺族の癒され難い思いの重さを知れ!」といった感じの本(藤井誠二、門田隆将など)か、さもなくば「こんなに冤罪事件が起こっているのだから、冤罪で執行してしまった場合に取り返しのつかない死刑という刑罰は、あってはならない」といった論調の本かどっちかで、私も最初は、そういった両極分解的な本ばかり読んでは、ため息をついていた。
が、最近になって、この「犯罪と刑罰」の問題を、死刑存廃に限らないもっと広い視野で地道に研究し続け、地味だが内容豊富な成果を発表し、問題提起を続けてきた日本犯罪社会学会と、刑事立法研究会の存在こそが重要であり、これらの学問的成果を踏まえないでは、この問題は論じられないと思うようになってきた。
本書も、そのようにして出会った「目から鱗」の本のひとつである。
特に、第六章「出所後の生活再建のための法制度試案」と第九章「更生保護と被害者」は、原理的次元で、世にありがちな「悪いやつを反省させるためには、これこれこうしたほうがいい」という常識的議論のはらむ問題点を、抉り出してみせている。
たとえば、出所者が出所後も生活再建へ向けて大きなハンディを負い続けて、結局再犯に至ってしまう現状が、制度上のどういう欠陥に由来しているかを指摘しつつ、渕野貴生はこう述べる。
「しかしながら、繰り返していうが、自由刑の執行に伴って付随的に被収容者に降りかかる不利益は刑罰の内容ではない。つまり、負わせてはならない不利益である。犯した犯罪の責任の範囲で自由刑を科すことは正当化されるが、自由刑を科されることであわせて余分な不利益まで課されているとしたら、刑の執行を受けた者には、そのような不利益を負わせた国家に対して、かかる不利益の除去・填補を求める権利が認められなければならず、かかる権利に応じて、国家の側には、本来正当化されないはずの付加的・付随的不利益を除去すべき義務があるというべきであろう。」(110〜111ページ)
「まず、行為に対する責任は言い渡された刑罰によって完全に評価しつくされているはずであるから、それ以上に実質的に刑罰にあたる制裁を科すことが許されないことは、多言を要しないであろう。実際には刑罰によっては完全に責任を尽くしてはいないという理由から付加的な制裁を正当化するならば、明らかに罪刑法定主義に反してしまう。」(117ページ)
また、更生保護の仕事に、被害者の立場を理解させる教育のようなものを、同時に担わせるべきだといった、近年盛んになっている議論に対して、森久智江は、つぎのように問題点を指摘する。
「基本法前文の『国民の誰もが犯罪被害者等となる可能性が高まっている今』という表現にも顕著であるように、『潜在的被害者』たる国民の意識に今最も強く響くのは『人々に対する被害者理解の教育が犯罪防止に役立ち、被害者の視点を取り入れた犯罪者の処遇が再犯を防ぐ』という『被害者学の視点からの犯罪対策』であり、これこそが『犯罪防止の切り札』であるという考え方である。つまり、前述の更生保護の理念に関する議論に沿っていえば、まず『再犯予防』あっての『改善更生』ということになるだろう。確かに、現状において著しく立ち遅れている『被害者理解』をまず深めていくことの重要性や、すでに一部で被害者の視点を取り入れた行為者処遇が奏功している実例があることは言及するまでもない。しかし、『現実の被害者』に対する施策の積極的推進と更生保護のあり方、そして国民一般と更生保護のあり方は、本来峻別して考えるべきではないだろうか。なぜなら、国民一般は『潜在的被害者』であると同時に、『潜在的加害者』でもありうる存在であって、さらに被害や加害いずれも新たに生み出すことのない社会をめざす『担い手』としての主体性をも有していると考えられるからである。」(191〜192ページ)
確かに、このごろのわが国の風潮のおかしなところは、「あなた自身の身内が残酷な犯罪の被害者になっても、同じことが言えるのか!」と言って寛刑論者を責める者は掃いて捨てるほどいるのに対して、「あなた自身が加害者あるいは被疑者になっても、同じことが言えるのか!」と言って厳罰主義者に食ってかかる言説は、まるで自主規制を余儀なくされたがごとく、抑圧されていることだ。前者の人々は「私は加害者になるような悪人じゃない」と思って、もっぱら被害者に感情移入するのを当然と思っているのかもしれないが、悪人じゃないつもりの人だって、業務上過失致死罪などで逮捕されたり起訴されたりすることは、身に起こりうることだし、さらにいえば、松本サリン事件の河野義行さんのように、まったく身に覚えのないことについて、加害者扱いをされて、自白強要に等しいことをされる可能性だってあるのだ。「国民」はあくまで両面の可能性について想像力を働かせたうえで、望ましい法制度について冷静に考えるべきなのだ。
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更生保護制度改革のゆくえ―犯罪をした人の社会復帰のために 単行本(ソフトカバー) – 2007/6/1
刑事立法研究会
(著)
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昨今の更生保護制度改革について,監視機能を強化するよりも,援助機能の強化こそが犯罪者の社会復帰を促進するという視点から更生保護制度のあり方を提言する
- 本の長さ368ページ
- 言語日本語
- 出版社現代人文社
- 発売日2007/6/1
- ISBN-104877983392
- ISBN-13978-4877983390
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登録情報
- 出版社 : 現代人文社 (2007/6/1)
- 発売日 : 2007/6/1
- 言語 : 日本語
- 単行本(ソフトカバー) : 368ページ
- ISBN-10 : 4877983392
- ISBN-13 : 978-4877983390
- Amazon 売れ筋ランキング: - 736,929位本 (本の売れ筋ランキングを見る)
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トップレビュー
上位レビュー、対象国: 日本
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2007年6月13日に日本でレビュー済み
いま、世間は犯罪者に厳しい。自分とは異なる存在として犯罪者を激しく非難することで人々は自らの鬱憤を晴らすがごときである。
確かに、殺人など凶悪犯罪は憎むべき行為である。社会的に相応に非難されるのもいたしかたのないことだろう。
ただ、忘れてはならないのは、私たちも常に加害者の側にも立ちうるということである。凶悪事件の犯人になることは稀であっても、たとえば自動車事故の加害者になる可能性は大いにある。被害者が死亡すれば、被害者遺族は事故であっても加害者を「人殺し!」と呼ぶだろう。私たちは、いつでも犯罪被害者(当事者または近親者)になる可能性をもっているのと同じように、加害者(当事者または近親者)にもなりうるのである。
また、格差の拡大や相対的貧困層の増加によって、高齢者や障害者が刑務所に多数収容されていることが、いくつかの書籍や最近の報道等によって明らかにされつつある。
本来ならば社会福祉が担ってきた役割を、刑罰を執行する刑務所が果たしているのだという。とくに、悪いことの分別がついているのか、犯罪をすることがそもそも可能か疑わしい知的障害者が刑務所人口の2割を占めているという。
いつから私たちの社会は、異質な者を排除し、見たくない現実を直視しようとしなくなってしまったのか。
本書は、刑務所から仮釈放された人などが受ける保護観察制度のあり方などについて論じているのだが、刑務所からの出所者が抱える多くの困難を克服するために、刑務所内での処遇と出所後の処遇は一貫したものでなければならず、かつ社会福祉的な援助であるべきであると説いている。
犯罪者を刑務所に閉じ込めておくだけの政策(「人間倉庫」といわれる)をとったアメリカでは200万人の刑務所人口を抱え、国家は重い財政的な負担を抱えるとともに、社会階層の分化がさらに進行し、かつ固定化することとなった。
犯罪者が再び犯罪をせず、真の意味で立ち直れる社会、理想論かもしれないが、そんな社会を私たちはめざすべきではないのか。
確かに、殺人など凶悪犯罪は憎むべき行為である。社会的に相応に非難されるのもいたしかたのないことだろう。
ただ、忘れてはならないのは、私たちも常に加害者の側にも立ちうるということである。凶悪事件の犯人になることは稀であっても、たとえば自動車事故の加害者になる可能性は大いにある。被害者が死亡すれば、被害者遺族は事故であっても加害者を「人殺し!」と呼ぶだろう。私たちは、いつでも犯罪被害者(当事者または近親者)になる可能性をもっているのと同じように、加害者(当事者または近親者)にもなりうるのである。
また、格差の拡大や相対的貧困層の増加によって、高齢者や障害者が刑務所に多数収容されていることが、いくつかの書籍や最近の報道等によって明らかにされつつある。
本来ならば社会福祉が担ってきた役割を、刑罰を執行する刑務所が果たしているのだという。とくに、悪いことの分別がついているのか、犯罪をすることがそもそも可能か疑わしい知的障害者が刑務所人口の2割を占めているという。
いつから私たちの社会は、異質な者を排除し、見たくない現実を直視しようとしなくなってしまったのか。
本書は、刑務所から仮釈放された人などが受ける保護観察制度のあり方などについて論じているのだが、刑務所からの出所者が抱える多くの困難を克服するために、刑務所内での処遇と出所後の処遇は一貫したものでなければならず、かつ社会福祉的な援助であるべきであると説いている。
犯罪者を刑務所に閉じ込めておくだけの政策(「人間倉庫」といわれる)をとったアメリカでは200万人の刑務所人口を抱え、国家は重い財政的な負担を抱えるとともに、社会階層の分化がさらに進行し、かつ固定化することとなった。
犯罪者が再び犯罪をせず、真の意味で立ち直れる社会、理想論かもしれないが、そんな社会を私たちはめざすべきではないのか。
2007年6月5日に日本でレビュー済み
保護観察中の者の再犯がメディアで取り上げられることを契機に、保護観察のあり方が問われるようになり、現在法改正が進行中である。しかし、更生保護制度の実態については、メディアが取り上げるわずかな重大再犯事件を除き、あまり知られていない。昨年、NHKで「繋がれた明日」というドラマが放送されたが、多くの保護観察処遇、犯罪者の社会復帰は、保護観察官や保護司の懸命の努力によって円滑に行われているのではないかと考えられる。
本書ではさらに踏み込んで、保護観察を受けている人の生活再建には、本人への信頼と主体性の尊重を基礎とした社会的援助が不可欠であるとする。これは、国際的な思潮や受刑者処遇の改革にも見合った内容である。保護観察処遇の失敗は、仮釈放・保護観察の積極的取消による再収容という、アメリカのような刑務所社会の到来である。私たちの社会の問題としてあるべき更生保護像を真剣に考えたいと思う。
本書ではさらに踏み込んで、保護観察を受けている人の生活再建には、本人への信頼と主体性の尊重を基礎とした社会的援助が不可欠であるとする。これは、国際的な思潮や受刑者処遇の改革にも見合った内容である。保護観察処遇の失敗は、仮釈放・保護観察の積極的取消による再収容という、アメリカのような刑務所社会の到来である。私たちの社会の問題としてあるべき更生保護像を真剣に考えたいと思う。