ハイデガーという頂きの見えない超級山岳にこれから挑もうとしている方も。
20世紀最大の哲学書と言っていい「存在と時間」に既に挑んで返り討ちにあった方も。
読んで損のないハイデガー入門です。
この書籍は、書かれなかった「時間と存在」の内容がどういったものだったのかを、
ハイデガー自身の思索や、それを支えたと思われる哲学者たちの思索の数々を参考に、
木田氏が読み解こう（あるいは、書かれていないことを考えれば、「編み出そう」？）とする意欲作です。
序論、第1章、第3章はとても読みやすく、哲学に馴染みのない方でもゆっくりと読み進めれば、
下手な哲学入門書よりも、西洋の哲学が見定めようとしたものがなんだったのかを感得できます。
ですが、「時間と存在」の章に挑む第2章はさすがに一筋縄では行きません。
一筋縄で行くのなら、あるいはそもそもそこに書かれている通りなら、
ハイデガー自身が「時間と存在」を記したのではないのかという野暮なツッコミもなくはないでしょう
（なぜそれをしなかったのか、できなかったのかという木田氏の”読み”にも触れられています）。
その第2章にしても、丁寧に読み解けば十分腑に落ちる内容です。
そして、それを可能にしているのが木田氏の文章です。
哲学に関する書籍ですので、平易な文章とは言いがたいのですが、
（訳書に多く見られる）難解を通り越して日本語として怪しい哲学書とは違い、
記述の明快さが読むものの理解を助けてくれます。
もちろん、これを読めばハイデガーが、西洋哲学が理解できるというわけではないでしょう。
これを読んで理解できるのは、あくまでも「木田氏が理解したハイデガーであり西洋哲学（の一片）」です。
そういう意味では、この本で読むハイデガーや西洋哲学は、
「木田氏というフィルターを通している」という自覚は必要でしょう。
ですが、西洋哲学（ハイデガー）という広大な海に漕ぎ出すとき、
木田氏という羅針盤に出会えたことを私はとても感謝しています。
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