吉本と芹沢は引きこもりは病気ではなく程度の問題だと過小評価しているが、引きこもりのような適応障害が病気かどうかはともかく深刻な社会的問題である点に無自覚すぎる。労働力にもなりえず社会保障の持続性への阻害要因になりえるひきこもりの存在は病気ではないのであれば一層解決すべき問題である。
芥川や夏目、太宰の例が出され幼年期は子供と一緒にいるべきだとこの二人は力説しているが小説の次元と現実の次元を混同している。つまり芥川や夏目がどのような生い立ちであれ彼らの独自に性格形成された小説の主人公が現実の次元において支持され感情移入されうる対象として確立されている点を軽視しているのである。子供が母親と一緒にいるべきだという価値観は幼稚園や保育園が制度化される以前に良いものとされていたものであって、両親共働き化が進んだ現状ではその価値観も変えなければならない。
太宰の津軽においてお手伝いさんが母親だったという重要な指摘がなされており、家族間のみならず友人や他人との間にも性的な牽引力が成立すると言っておきながら血縁という即物に下降していくのは思想の劣化だろうか。
結論からいうと本書は幼年期から脱して十分に母親から分離できなかった幼児的大人の願望である。
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幼年論: 21世紀の対幻想について 単行本 – 2005/6/17
両者が切り拓いてきた「対幻想論」「家族論」の領域を、「幼年」に焦点を当てることでさらに豊饒なものとする対話。自己史、子ども、家族のあり方、太宰、漱石などの文学作品、天皇制などを通して自在に語られる思想としての幼年。
- 本の長さ187ページ
- 言語日本語
- 出版社彩流社
- 発売日2005/6/17
- ISBN-104882029014
- ISBN-13978-4882029014
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商品の説明
著者について
詩人、評論家。1924年東京生まれ。1947年東京工業大学理学系化学科卒。
著書『言語にとって美とはなにか』『共同幻想論』『心的現象論序説』(以上、角川文庫)
『ハイ・イメージ論I-III』(ちくま学芸文庫)『アフリカ的段階について』(春秋社)
『母型論』(思潮社)ほか多数。芹沢俊介との共著に『新装増補 対幻想 n個の性を
めぐって』『対幻想[平成版]』『宗教の最終のすがた オウム事件の解決』(以下春秋社)
などがある。
評論家。1942年東京生まれ。1965年上智大学経済学部卒。
著書『現代<子ども>暴力論<増補版>』『母という暴力』『家族という暴力』
『新版 ついていく父親』(以下、春秋社)『引きこもるという情熱』(雲母書房)
『死のありか』(晶文社)などがある。
著書『言語にとって美とはなにか』『共同幻想論』『心的現象論序説』(以上、角川文庫)
『ハイ・イメージ論I-III』(ちくま学芸文庫)『アフリカ的段階について』(春秋社)
『母型論』(思潮社)ほか多数。芹沢俊介との共著に『新装増補 対幻想 n個の性を
めぐって』『対幻想[平成版]』『宗教の最終のすがた オウム事件の解決』(以下春秋社)
などがある。
評論家。1942年東京生まれ。1965年上智大学経済学部卒。
著書『現代<子ども>暴力論<増補版>』『母という暴力』『家族という暴力』
『新版 ついていく父親』(以下、春秋社)『引きこもるという情熱』(雲母書房)
『死のありか』(晶文社)などがある。
登録情報
- 出版社 : 彩流社 (2005/6/17)
- 発売日 : 2005/6/17
- 言語 : 日本語
- 単行本 : 187ページ
- ISBN-10 : 4882029014
- ISBN-13 : 978-4882029014
- Amazon 売れ筋ランキング: - 1,042,220位本 (本の売れ筋ランキングを見る)
- - 5,874位哲学 (本)
- - 7,237位思想
- - 15,471位近現代日本のエッセー・随筆
- カスタマーレビュー:
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トップレビュー
上位レビュー、対象国: 日本
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2005年6月23日に日本でレビュー済み
お腹にいる間のお母さんの精神的な安定、そして1歳までの間の精神的な安定がその後の人としての安定感を決定する、ということを繰り返し語ってきた吉本さんだが、柳田国男の「軒遊び」概念をつかって、この時期に関する考察を行っている。その問題意識がよく出ているのが「まえがき」で吉本さんは「幼年期の内働きの主役であった母親の授乳と排泄から学童期にいたる間に、とくに「軒遊び」の時期を設定してみせた柳田国男の考え方は、たんに民俗学や人類学の概念の基礎を与えただけではない。存在論の倫理としていえば、母親による保育とやがて学童期の優勝劣敗の世界への入り口の中間に弱肉強食に馴染まない世界が可能かも知れないことを暗示しようとしているともいえる」と書いている。
そして対談を経ての結論がよく出ているのが、芹沢さんによる「あとがき」。「だが現在、子どもたちは社会においても家族においても、このような幼年期の核となる軒遊びの時間を生きることが困難になってきている。子どもは生まれて間のない時期から〈ある〉ことだけでは許されず、いつも教育のまなざしのもとで何か〈する〉ことを求められるのだ」。幼児は不安になってくずったりする。その時にうけとめてくれるのは母親の乳房だ、という話にはちょっと感動。いまは消え去った風景だが、子供がくずったりすると、母親は胸をはだけて母乳を与えるというよりも、乳房を与えていた。それは「ちゃんとつながっているだ」という感覚を子供に与えることができ、〈ある〉ことの精神の安定を生むのだろと思う。
そして対談を経ての結論がよく出ているのが、芹沢さんによる「あとがき」。「だが現在、子どもたちは社会においても家族においても、このような幼年期の核となる軒遊びの時間を生きることが困難になってきている。子どもは生まれて間のない時期から〈ある〉ことだけでは許されず、いつも教育のまなざしのもとで何か〈する〉ことを求められるのだ」。幼児は不安になってくずったりする。その時にうけとめてくれるのは母親の乳房だ、という話にはちょっと感動。いまは消え去った風景だが、子供がくずったりすると、母親は胸をはだけて母乳を与えるというよりも、乳房を与えていた。それは「ちゃんとつながっているだ」という感覚を子供に与えることができ、〈ある〉ことの精神の安定を生むのだろと思う。