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アイヌ語地名の輪郭 ペーパーバック – 1999/4/1
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北海道の大地に深く広く刻まれているアイヌ語の地名。その研究を後半生の楽しみとして生き、三年前に亡くなった、山田秀三氏(1899―1992年)の著作を集めた最後の本がこのほど出版された(『アイヌ語地名の輪郭』、草風館)。これで、山田氏のアイヌ語地名関係の著作のほとんどが単行本として集約されたことになる。
アイヌ語地名は第一に先住のアイヌ民族によって命名され受け継がれてきた、アイヌ民族文化の記憶であり、生きることの原点というべき生活に密着した自然との共生を物語る文化遺産である。北海道のエキゾチズムとして旅心を誘う役割も果たしているが、ロマンチックな響きなどの底にある人間と自然の共生から生まれた本当の地名の姿を、山田氏は明らかにした。
第二に、道外から移住してきた人々との関係の中で変容していった、アイヌ民族文化と社会の歴史をも物語っている。山田氏はアイヌ語地名の研究を通じて、土地の人々の歴史をくみ取ろうとしていた。アイヌ語地名の分布の研究は道内だけでなく、アイヌ語地名が残る東北地方の古代史研究にとっても重要な意味をもつこととなった。 山田氏のアイヌ語地名研究に成果をもたらし、評価をゆるぎないものとした理由はその方法にある。地形などに即して語源を考察するという徹底した現地調査主義でありながら、机上の作業が現地調査の前後数週間に集中して行われた。現地調査は実りのない旅行に終わる場合も多かったが、行って納得できなけれは断定的な結論は出さない。だから出された結論は信頼するに足るものであった。
ところがだんだん「山田地名学」が頼りにされだすと、結論が求められるようになり、本人は自信がもてないことをうっかり書いて、それが一人歩きすることを警戒して、一層慎重になった。「地名屋」を自称し、地名が語ることはここまでと自己の立場を限ったのは、地名を尊重したからにはかならない。広く日本列島の住民の歴史解明にアイヌ語地名研究が貢献できる可能性に夢がないではなかったが、東北以南へ性急に踏み込むことはしなかった。ようやく晩年に至って、あとのことは託すという意味で、自信はもてないがとしながら東北地方南部から北関東にかけてのアイヌ語地名についても意見を発表した。
若いころの型破りな商工省などの官僚時代を経て、戦後に北海道の会社経営をしながら始まる地名研究の道程には、金田一京助、知里真志保、久保寺逸彦の各氏らとの出会いがあり、教えを乞うたアイヌ古老の方々がいた。歴史のめぐりあわせもあったとはいえ、まれなほど恵まれた環境であったともいえる。それらのアイヌ語地名研究の人々が亡くなったあとも、人脈の要として長い間北海道にかかわりつづけ、ひとり思い出とともに研究を続けたのである。
山田氏のアイヌ語地名研究はその成果が学界で利用されることはあっても、だれにもどこにも束縛されることのない自由な学問であった。
「常呂川筋の地名」など今回の最後の著作に収められたものもそうだが、論文形式ではない各地の地名探査の報告を読むと、現地の人々の暮らしがそこにあって地名があることがわかる。また、そのことを伝えようとしているようでもあり、同好の人々への呼びかけが随所に見られる。
地名が文化遺産であることはだれでも承知している(とはいっても、あまり重要視されてもいないようであるが)。山田氏の地名研究は、地名が文化遺産であることの意味を教えてくれるものである。風化する記憶の中で今、アイヌ語地名は何を語り、未来に向かってわれわれはどうこたえればいいのか、本当の地名研究ガ求められている。 児島恭子
(1995.10.17 北海道新聞)
アイヌ語地名は第一に先住のアイヌ民族によって命名され受け継がれてきた、アイヌ民族文化の記憶であり、生きることの原点というべき生活に密着した自然との共生を物語る文化遺産である。北海道のエキゾチズムとして旅心を誘う役割も果たしているが、ロマンチックな響きなどの底にある人間と自然の共生から生まれた本当の地名の姿を、山田氏は明らかにした。
第二に、道外から移住してきた人々との関係の中で変容していった、アイヌ民族文化と社会の歴史をも物語っている。山田氏はアイヌ語地名の研究を通じて、土地の人々の歴史をくみ取ろうとしていた。アイヌ語地名の分布の研究は道内だけでなく、アイヌ語地名が残る東北地方の古代史研究にとっても重要な意味をもつこととなった。 山田氏のアイヌ語地名研究に成果をもたらし、評価をゆるぎないものとした理由はその方法にある。地形などに即して語源を考察するという徹底した現地調査主義でありながら、机上の作業が現地調査の前後数週間に集中して行われた。現地調査は実りのない旅行に終わる場合も多かったが、行って納得できなけれは断定的な結論は出さない。だから出された結論は信頼するに足るものであった。
ところがだんだん「山田地名学」が頼りにされだすと、結論が求められるようになり、本人は自信がもてないことをうっかり書いて、それが一人歩きすることを警戒して、一層慎重になった。「地名屋」を自称し、地名が語ることはここまでと自己の立場を限ったのは、地名を尊重したからにはかならない。広く日本列島の住民の歴史解明にアイヌ語地名研究が貢献できる可能性に夢がないではなかったが、東北以南へ性急に踏み込むことはしなかった。ようやく晩年に至って、あとのことは託すという意味で、自信はもてないがとしながら東北地方南部から北関東にかけてのアイヌ語地名についても意見を発表した。
若いころの型破りな商工省などの官僚時代を経て、戦後に北海道の会社経営をしながら始まる地名研究の道程には、金田一京助、知里真志保、久保寺逸彦の各氏らとの出会いがあり、教えを乞うたアイヌ古老の方々がいた。歴史のめぐりあわせもあったとはいえ、まれなほど恵まれた環境であったともいえる。それらのアイヌ語地名研究の人々が亡くなったあとも、人脈の要として長い間北海道にかかわりつづけ、ひとり思い出とともに研究を続けたのである。
山田氏のアイヌ語地名研究はその成果が学界で利用されることはあっても、だれにもどこにも束縛されることのない自由な学問であった。
「常呂川筋の地名」など今回の最後の著作に収められたものもそうだが、論文形式ではない各地の地名探査の報告を読むと、現地の人々の暮らしがそこにあって地名があることがわかる。また、そのことを伝えようとしているようでもあり、同好の人々への呼びかけが随所に見られる。
地名が文化遺産であることはだれでも承知している(とはいっても、あまり重要視されてもいないようであるが)。山田氏の地名研究は、地名が文化遺産であることの意味を教えてくれるものである。風化する記憶の中で今、アイヌ語地名は何を語り、未来に向かってわれわれはどうこたえればいいのか、本当の地名研究ガ求められている。 児島恭子
(1995.10.17 北海道新聞)
- 本の長さ211ページ
- 言語日本語
- 出版社草風館
- 発売日1999/4/1
- ISBN-104883230805
- ISBN-13978-4883230808
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商品の説明
内容(「MARC」データベースより)
地名研究の第一歩は、地名の元来の位置、その元来の形と語義を調べるところから始まる。アイヌ語地名研究者として著名な故・山田秀三氏の「アイヌ語地名」に関する研究論文を集録したもの。
登録情報
- 出版社 : 草風館 (1999/4/1)
- 発売日 : 1999/4/1
- 言語 : 日本語
- ペーパーバック : 211ページ
- ISBN-10 : 4883230805
- ISBN-13 : 978-4883230808
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