今から19年前、まだほとんど無名だった柴田元幸が、これまた当時日本ではほとんど知られていなかったポール・オースターのCity of Glassを翻訳する機会を得た(つもりだった)が、少し訳したところで、版権が他の出版社によってすでに取得されていたことが発覚し、その企画は結局ボツになる。そのかわりに柴田は三部作中の第2作The Locked Roomを訳すことになったらしい。そういえば、むかしオースターの一連の翻訳をチェックしていたときに、柴田がほとんどの作品を訳しているにもかかわらず、なぜCity of Glassだけが他の訳者なのだろうかと不思議に感じたことがあった。今でこそ、現代アメリカ文学の翻訳といえばだれもがまず柴田の名前をあげるだろうが、その柴田にもこのような時期があったのだ。本誌のオースターとのインタビューももちろん興味深いものだが、翻訳家としての柴田の出発点ともいえるこの辺の事情を柴田自身の言葉で読むことができるのは貴重だと思う。
また、柴田自身がこの取材のおりに買ったという今年出版された書物の中から18冊が挙げられており、少しだけ氏の頭のなかを覗くことができる。今後の読書の指針にもしたいと思った。その他に、アメリカの出版事情が紹介されており、誕生まもないアメリカの文芸雑誌A Public Spaceに関する記事があった。ちなみに、この雑誌の第一号は日本文学を特集しており、阿部和重や中原昌也の短編と並んで、なんと柴田自身の英訳(!)による小川洋子の短編「バックストローク」が読めるのがすごいところだ。
最後に特集以外で、松浦豊明というピアニストへのさりげないグレン・グールドに関するインタビュー記事を発見した。コンサート活動をすぐにやめたグールドのライブ・パフォーマンスを実際に聴いたひとは現在ではもう多くはいないだろう。ましてや日本人のなかでは。しかし、この松浦氏は50年前にベルリンでグールドのコンサートを聴いたのだそうだ。短い記事だったが、グールドのファンとしてはこの着眼点に感心し興味深く読むことができた。1470円は「買い」である。
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Coyote No.21 特集:柴田元幸が歩く、オースターの街 ムック – 2007/9/10
新井敏記
(著, 編集)
Coyote No.21
特集:柴田元幸が歩く、ポール・オースターの街
小説家と翻訳者の関係にとどまらない深い繋がりで結ばれたポール・オースターと柴田元幸。
リバーサイドパーク、ブルックリンブリッジ、パークスロープ......。
季節外れの雪が舞うなか、オースターが綴る街を、柴田元幸が歩く。
CONTENTS
■ fiction 『ガラスの街』__ポール・オースター 訳=柴田元幸
■ 『ガラスの街』翻訳にあたって
■ conversation 少年の日々 対話 ポール・オースター×柴田元幸__写真=木原千佳
■ memory ポケットの中の空__絵=唐仁原教久
■ column and Other True Stories
■ report リテラリー・キャラバン in ニューヨーク
マンハッタン発 ブックデザイン・ナウ 教えて、チップ・キッド!
ブックストア最前線 大手チェーンに負けない独立系書店の心意気
ブルックリン発 書店巡りからはじめる街歩き
文芸誌A PUBLIC SPACE編集長ブリジット・ヒューズに訊く
■ essay 「ニューヨーク、二〇〇七年三月」文=柴田元幸
特集:柴田元幸が歩く、ポール・オースターの街
小説家と翻訳者の関係にとどまらない深い繋がりで結ばれたポール・オースターと柴田元幸。
リバーサイドパーク、ブルックリンブリッジ、パークスロープ......。
季節外れの雪が舞うなか、オースターが綴る街を、柴田元幸が歩く。
CONTENTS
■ fiction 『ガラスの街』__ポール・オースター 訳=柴田元幸
■ 『ガラスの街』翻訳にあたって
■ conversation 少年の日々 対話 ポール・オースター×柴田元幸__写真=木原千佳
■ memory ポケットの中の空__絵=唐仁原教久
■ column and Other True Stories
■ report リテラリー・キャラバン in ニューヨーク
マンハッタン発 ブックデザイン・ナウ 教えて、チップ・キッド!
ブックストア最前線 大手チェーンに負けない独立系書店の心意気
ブルックリン発 書店巡りからはじめる街歩き
文芸誌A PUBLIC SPACE編集長ブリジット・ヒューズに訊く
■ essay 「ニューヨーク、二〇〇七年三月」文=柴田元幸
- 本の長さ304ページ
- 出版社スイッチパブリッシング
- 発売日2007/9/10
- 寸法1.5 x 20.8 x 27.2 cm
- ISBN-104884182081
- ISBN-13978-4884182083
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商品の説明
レビュー
Coyote(コヨーテ)No.21
特集 柴田元幸が歩く、オースターの街「二〇〇七年、再び摩天楼へ」
小説家と翻訳者の関係にとどまらない深い繋がりで結ばれたポール・オースターと柴田元幸。リバーサイドパーク、ブルックリンブリッジ、パークスロープ……。季節外れの雪が舞うなか、オースターが綴る街を、柴田元幸が歩く。
待望の柴田訳 「ガラスの街」300枚一挙掲載!
・『ガラスの街』
ポール・オースター 訳=柴田元幸
・対話 少年の日々
ポール・オースター×柴田元幸
・絵本「ポケットの中の空」 絵=唐仁原教久
・コラム and Other True Stories
・リポート リテラリー・キャラバン in ニューヨーク
(マンハッタン発)ブックデザイン・ナウ
ブックストア最前線
(ブルックリン発)書店巡りからはじめる街歩き
生まれたばかりの文芸誌
・エッセイ 「ニューヨーク、二〇〇七年三月」
文=柴田元幸 --Coyote(コヨーテ)No.21
<その他のラインナップ>
・藤原新也「日本浄土」〜尾道1〜
・ホンマタカシ「Our Garden」
・とーあんしやさ[琉球料理の記憶と味の物語1]
文=駒沢敏器 写真=関博
・柴田元幸翻訳叢書[EXPLORING OLD LITERARY FOREST] 第六回ジャック・ロンドン『水の子』 絵=板垣しゅん
・[カタリココ]都築響一 聞き手=大竹昭子
・木原千佳「肖像」第六回 平野清子 ・最初の一歩 第二十一回 杉井志織「芽吹き」
・瀬戸照「山水踏日」 第六回 頂のあわうみ
・空を飛んだトカゲたち ARC'TERYX & Coyote
・海と時を漕ぐ 第八回『サバニ帆漕レース』観戦記
・「鈴木理策:熊野、雪、桜」展
出会うことの不思議
・星野道夫メモリアル・トーテムポールプロジェクト通信
第五回 My Dear Friends in Japan #3 リン・スクーラー --Coyote(コヨーテ)No.21
特集 柴田元幸が歩く、オースターの街「二〇〇七年、再び摩天楼へ」
小説家と翻訳者の関係にとどまらない深い繋がりで結ばれたポール・オースターと柴田元幸。リバーサイドパーク、ブルックリンブリッジ、パークスロープ……。季節外れの雪が舞うなか、オースターが綴る街を、柴田元幸が歩く。
待望の柴田訳 「ガラスの街」300枚一挙掲載!
・『ガラスの街』
ポール・オースター 訳=柴田元幸
・対話 少年の日々
ポール・オースター×柴田元幸
・絵本「ポケットの中の空」 絵=唐仁原教久
・コラム and Other True Stories
・リポート リテラリー・キャラバン in ニューヨーク
(マンハッタン発)ブックデザイン・ナウ
ブックストア最前線
(ブルックリン発)書店巡りからはじめる街歩き
生まれたばかりの文芸誌
・エッセイ 「ニューヨーク、二〇〇七年三月」
文=柴田元幸 --Coyote(コヨーテ)No.21
<その他のラインナップ>
・藤原新也「日本浄土」〜尾道1〜
・ホンマタカシ「Our Garden」
・とーあんしやさ[琉球料理の記憶と味の物語1]
文=駒沢敏器 写真=関博
・柴田元幸翻訳叢書[EXPLORING OLD LITERARY FOREST] 第六回ジャック・ロンドン『水の子』 絵=板垣しゅん
・[カタリココ]都築響一 聞き手=大竹昭子
・木原千佳「肖像」第六回 平野清子 ・最初の一歩 第二十一回 杉井志織「芽吹き」
・瀬戸照「山水踏日」 第六回 頂のあわうみ
・空を飛んだトカゲたち ARC'TERYX & Coyote
・海と時を漕ぐ 第八回『サバニ帆漕レース』観戦記
・「鈴木理策:熊野、雪、桜」展
出会うことの不思議
・星野道夫メモリアル・トーテムポールプロジェクト通信
第五回 My Dear Friends in Japan #3 リン・スクーラー --Coyote(コヨーテ)No.21
著者について
Coyote No.21
特集:柴田元幸が歩く、ポール・オースターの街
小説家と翻訳者の関係にとどまらない深い繋がりで結ばれたポール・オースターと柴田元幸。
リバーサイドパーク、ブルックリンブリッジ、パークスロープ......。
季節外れの雪が舞うなか、オースターが綴る街を、柴田元幸が歩く。
CONTENTS
■ fiction 『ガラスの街』__ポール・オースター 訳=柴田元幸
■ 『ガラスの街』翻訳にあたって
■ conversation 少年の日々 対話 ポール・オースター×柴田元幸__写真=木原千佳
■ memory ポケットの中の空__絵=唐仁原教久
■ column and Other True Stories
■ report リテラリー・キャラバン in ニューヨーク
マンハッタン発 ブックデザイン・ナウ 教えて、チップ・キッド!
ブックストア最前線 大手チェーンに負けない独立系書店の心意気
ブルックリン発 書店巡りからはじめる街歩き
文芸誌A PUBLIC SPACE編集長ブリジット・ヒューズに訊く
■ essay 「ニューヨーク、二〇〇七年三月」文=柴田元幸
特集:柴田元幸が歩く、ポール・オースターの街
小説家と翻訳者の関係にとどまらない深い繋がりで結ばれたポール・オースターと柴田元幸。
リバーサイドパーク、ブルックリンブリッジ、パークスロープ......。
季節外れの雪が舞うなか、オースターが綴る街を、柴田元幸が歩く。
CONTENTS
■ fiction 『ガラスの街』__ポール・オースター 訳=柴田元幸
■ 『ガラスの街』翻訳にあたって
■ conversation 少年の日々 対話 ポール・オースター×柴田元幸__写真=木原千佳
■ memory ポケットの中の空__絵=唐仁原教久
■ column and Other True Stories
■ report リテラリー・キャラバン in ニューヨーク
マンハッタン発 ブックデザイン・ナウ 教えて、チップ・キッド!
ブックストア最前線 大手チェーンに負けない独立系書店の心意気
ブルックリン発 書店巡りからはじめる街歩き
文芸誌A PUBLIC SPACE編集長ブリジット・ヒューズに訊く
■ essay 「ニューヨーク、二〇〇七年三月」文=柴田元幸
登録情報
- 出版社 : スイッチパブリッシング (2007/9/10)
- 発売日 : 2007/9/10
- ムック : 304ページ
- ISBN-10 : 4884182081
- ISBN-13 : 978-4884182083
- 寸法 : 1.5 x 20.8 x 27.2 cm
- Amazon 売れ筋ランキング: - 273,465位本 (本の売れ筋ランキングを見る)
- カスタマーレビュー:
カスタマーレビュー
星5つ中4.9つ
5つのうち4.9つ
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トップレビュー
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2007年9月10日に日本でレビュー済み
2008年1月16日に日本でレビュー済み
ポール・オースター初期の作品「City of Glass」を柴田元幸氏が訳した「ガラスの街」全文を掲載。
版権を取れず、訳し残していた作品で、ずっと柴田訳を読みたかった人は多いはず。
本の版権と雑誌の版権は別だ、と雑誌「Coyote」の編集長が気付き、晴れてお目見えとなったもようです(この辺のことは『翻訳文学ブックカフェ2』に書いてありました)。
これでオースターのニューヨーク三部作「ガラスの街」「幽霊たち」「鍵のかかった部屋」がすべて柴田訳で読めるようになりました。
この雑誌”MAGAZINE FOR NEW TRAVELERS”と掲げるだけあって、この号では文学・出版と旅を上手く繋いでいるなぁ、と思いました。
写真もたっぷり。
ニューヨークを訪れた柴田氏のエッセイを読み、コニー・アイランドに行ってみたくなりました。
本当にこんなに(いろんな意味で)コワい場所なのかな。
続いてマンハッタンやブルックリンの書店、ブックデザイン、新創刊の文芸雑誌の取材記事。
ブックデザインでは、売れっ子のブックデザイナー、チップ・キッドの案内で本屋をうろうろ。
チップ・キッドは早川書房『ロング・グッド・バイ』の装幀をやった人だそうです。
版権を取れず、訳し残していた作品で、ずっと柴田訳を読みたかった人は多いはず。
本の版権と雑誌の版権は別だ、と雑誌「Coyote」の編集長が気付き、晴れてお目見えとなったもようです(この辺のことは『翻訳文学ブックカフェ2』に書いてありました)。
これでオースターのニューヨーク三部作「ガラスの街」「幽霊たち」「鍵のかかった部屋」がすべて柴田訳で読めるようになりました。
この雑誌”MAGAZINE FOR NEW TRAVELERS”と掲げるだけあって、この号では文学・出版と旅を上手く繋いでいるなぁ、と思いました。
写真もたっぷり。
ニューヨークを訪れた柴田氏のエッセイを読み、コニー・アイランドに行ってみたくなりました。
本当にこんなに(いろんな意味で)コワい場所なのかな。
続いてマンハッタンやブルックリンの書店、ブックデザイン、新創刊の文芸雑誌の取材記事。
ブックデザインでは、売れっ子のブックデザイナー、チップ・キッドの案内で本屋をうろうろ。
チップ・キッドは早川書房『ロング・グッド・バイ』の装幀をやった人だそうです。
2020年6月23日に日本でレビュー済み
Amazonで購入
本号の特集は、「柴田元幸が歩く、オースターの街」。
「オースターの街」は、ニューヨーク市・ブルックリン区。
有名作家が多く住む高級住宅街。
表紙の写真は、木原千佳さん撮影。
雲に覆われた暗い夕暮れの空のもと、
ブルックリン・ブリッジからマンハッタンの摩天楼の遠景を写しています。
光り輝くものが何もない、
摩天楼がそびえたっているようには全然見えない、マンハッタンの風景。
一瞬にして割れて崩れ落ちるガラスの街。
静かに立ちすくんでいるようにも見える建物たち。
「ニューヨーク、2007年3月」というエッセイ(文=柴田元幸さん)が良かった。
エッセイの英語タイトルは、「The Fugitive in New York」(163頁)
柴田さんは、雪の残る街を歩く、歩く、歩く。雪にすべって、転びそうになりながら。
ぞろぞろうしろからついて来る「亡霊たちの視線を感じながら」(175頁)歩き回る。
映画「Little Fugitive」(1953年公開)は、
小さな子供が一人で地下鉄に乗ってコニー・アイランドに行って冒険する、という筋。
柴田さんも、その小さな子供になった気分で、百年前のニューヨークを幻視して歩く。
亡霊ばかりのニューヨークに怖くなって、友人のバリー・ユアグローさんに電話すると、
「どうして自分は亡霊じゃないみたいな言い方をするんだ?」(175頁)と言われる。
2007年3月、
柴田元幸さん自身も、こうしてニューヨークのりっぱな亡霊のひとりになりました。
それから13年経った、2020年4月~5月のこと、
コロナ禍の感染者数と死亡者数でだんとつ世界一となっている偉大なるアメリカ合衆国。
ロックダウン中のニューヨークに長く閉じ込められているバリーさんから、
悲痛な叫びのような超短篇の寓話原稿十二本が次々とメールで
「モト(柴田元幸さん)」の元に届く。緊急事態。
「2001年以来、超大国アメリカがいずれ滅びる可能性がいろんな形で口にされるようになったのと同じように、ニューヨークをよく知る人たちが、ニューヨークがいつまでも世界一の都市ではないかもしれない、と考えはじめているのは興味深い」(170頁)と柴田さんは書いていました。
2020年の今、こんなコロナ禍というネガティヴな形で再び世界一になってしまい、
偉大な米国はどうなっていくのでしょうか。
再び、本書の表紙に戻り、
木原千佳さんの撮った、暗い色調の暗闇迫るニューヨークの写真をながめています。
「CITY OF GLASS」の中の写真をながめて、暗い気持ちになっています。
ポール・オースターさんの新しい小説が読みたい。柴田元幸さんの訳で。
早く、……の前に。
「オースターの街」は、ニューヨーク市・ブルックリン区。
有名作家が多く住む高級住宅街。
表紙の写真は、木原千佳さん撮影。
雲に覆われた暗い夕暮れの空のもと、
ブルックリン・ブリッジからマンハッタンの摩天楼の遠景を写しています。
光り輝くものが何もない、
摩天楼がそびえたっているようには全然見えない、マンハッタンの風景。
一瞬にして割れて崩れ落ちるガラスの街。
静かに立ちすくんでいるようにも見える建物たち。
「ニューヨーク、2007年3月」というエッセイ(文=柴田元幸さん)が良かった。
エッセイの英語タイトルは、「The Fugitive in New York」(163頁)
柴田さんは、雪の残る街を歩く、歩く、歩く。雪にすべって、転びそうになりながら。
ぞろぞろうしろからついて来る「亡霊たちの視線を感じながら」(175頁)歩き回る。
映画「Little Fugitive」(1953年公開)は、
小さな子供が一人で地下鉄に乗ってコニー・アイランドに行って冒険する、という筋。
柴田さんも、その小さな子供になった気分で、百年前のニューヨークを幻視して歩く。
亡霊ばかりのニューヨークに怖くなって、友人のバリー・ユアグローさんに電話すると、
「どうして自分は亡霊じゃないみたいな言い方をするんだ?」(175頁)と言われる。
2007年3月、
柴田元幸さん自身も、こうしてニューヨークのりっぱな亡霊のひとりになりました。
それから13年経った、2020年4月~5月のこと、
コロナ禍の感染者数と死亡者数でだんとつ世界一となっている偉大なるアメリカ合衆国。
ロックダウン中のニューヨークに長く閉じ込められているバリーさんから、
悲痛な叫びのような超短篇の寓話原稿十二本が次々とメールで
「モト(柴田元幸さん)」の元に届く。緊急事態。
「2001年以来、超大国アメリカがいずれ滅びる可能性がいろんな形で口にされるようになったのと同じように、ニューヨークをよく知る人たちが、ニューヨークがいつまでも世界一の都市ではないかもしれない、と考えはじめているのは興味深い」(170頁)と柴田さんは書いていました。
2020年の今、こんなコロナ禍というネガティヴな形で再び世界一になってしまい、
偉大な米国はどうなっていくのでしょうか。
再び、本書の表紙に戻り、
木原千佳さんの撮った、暗い色調の暗闇迫るニューヨークの写真をながめています。
「CITY OF GLASS」の中の写真をながめて、暗い気持ちになっています。
ポール・オースターさんの新しい小説が読みたい。柴田元幸さんの訳で。
早く、……の前に。