本書は、銃マニア小峯隆生氏が関係者へのインタビューを通じ、現代の傭兵「プライベート・オペレーター」と傭兵ビジネスの実態に迫る内容である。
冒頭、伝説の傭兵隊長マイク・ホアーに取材したことがあるジャーナリストへのインタビューから始まり、旧ソ連のアフガン侵攻やクロアチア傭兵部隊への参加経験のある「現役」傭兵・高部正樹氏が登場する。
高部氏は著作もあるのでその業界では割と知られている人物で、傭兵として働いているときの給料の話など聞くと従来のイメージに近いものがある。アフガンでムジャヒディンと一緒に旧ソ連と戦っていた頃は無給、だから「義勇兵」と呼ばれる。クロアチアの傭兵部隊では月給3万円。どう考えても、高額な報酬のために傭兵をやっているということではない。では何のために傭兵として仕事をするのか。答えはない。傭兵としての評価が高まる、ということしかわからない。
2004年3月、イラクのファルージャで4人の米国人「警備員」が地元武装勢力に襲われて死亡。焼き殺された遺体が橋げたからぶら下げられる映像が世界に衝撃を与え、「プライベート・オペレーター」と呼ばれる現代の傭兵が注目されるようになった（ちなみに本書の刊行は2005年）。軍服は着用していない。サングラス、カーゴパンツ、そしてM4カービンといういでたちは、普通の「民間人」というわけでもなさそうだ。
次なるインタビューは、米国陸軍特殊部隊グリーン・ベレーに21年間在籍していたという三島瑞穂氏の登場である。ここで初めて現代の傭兵ビジネスの全容が明かされる。元特殊部隊員が中心となって設立された民間軍事会社とその従業員たちのことである。税金で培われた知識と経験が国のためではなく個人のカネ儲けのために使われるということ、民間会社に移った軍の元将官がかつての部下から契約を受注するという天下りまがいの体制のこと、それらが批判的に語られる。
インタビューは再び高部氏に戻る。ここでようやく、「義勇兵」とも呼ばれる従来の傭兵と、現代の傭兵であるプライベート・オペレーターの違いが明確になる。その違いとは、「自分で戦場を選べること」である。その戦闘に疑問を感じたらいつでも自分からやめることが出来ること、カネのために働いているのではない、ということである。
さて、インタビューは再び最初のジャーナリストに戻り、「レバノン軍団」という謎の組織についての話題に移る。私はこのレバノン軍団というものについてはまるで聞いたことが無く、本書で語られている同組織についての内容も、正直なところ荒唐無稽な印象を受けるので、早々にパス。
最後に、現役日本人オペレーター山本氏なる人物へのインタビューである。欧米の特殊部隊出身でない日本人がどのように行動すればオペレーターの仕事に就くことが出来るか、具体的に語られる。報酬の相場も、妥当な金額という印象を受ける。いわゆる「対テロ工作員の告白」的な本で見受けられる法外な金額の報酬などは無い。現実的な数字である。また、一口にオペレーターになると言っても、習得すべき技能がいろいろあって、ボディガードとしてのスキルもそのうちの一つだという。面白いのは、日本の警備会社でイスラエルに要員を送って訓練している会社がある、と触れられていることである。私の知る限り、いまではやっていないのじゃないかな、と思う。
ちなみに本書では語られていないが、本書に登場する民間軍事会社ストラテゴス社は近接格闘術としてロシアのシステマを早くから採用していたとされている。システマは元々旧ソ連時代には門外不出とされていた格闘術。冷戦後、カナダを中心に民間でも活動が活発になったが、本書が刊行された2005年頃には業界の人を除いてあまり知られていなかった。今ではネットなどで調べればすぐにヒットするし、練習に参加する機会も容易に見つけられるだろう。
無料のKindleアプリをダウンロードして、スマートフォン、タブレット、またはコンピューターで今すぐKindle本を読むことができます。Kindleデバイスは必要ありません。
ウェブ版Kindleなら、お使いのブラウザですぐにお読みいただけます。
携帯電話のカメラを使用する - 以下のコードをスキャンし、Kindleアプリをダウンロードしてください。
この著者の人気タイトル
ページ 1 以下のうち 1 最初から観るページ 1 以下のうち 1
