だいぶ前に読んで、その後まもなく売ってしまいました。現在手元にありません。900ページをこえる大作なのですが、中身がうすく、サルトルがみょうに矮小化されてしまったように思えました。「存在と無」についても、「弁証法的理性批判」のことも、ほとんど書かれていなかったように記憶しています。
著者ベルナール=アンリ・レヴィはnouveaux philosophes（新哲学派）の一人。日本ではあまり有名ではありませんが、「ヌーヴォー･フィロゾフ」といえば、1970年代にポスト構造主義に続く新世代の哲学者たちとして喧伝され、私も当時新聞の文化欄で読んで、名前だけは知っていました（Wikipediaによると、そもそもこの言葉を作ったのはレヴィ本人だそうです）。実際にはマスコミの販売戦略にすぎず、当時過激な発言で威勢のよかった何人かの若手哲学者を、ひっくるめて呼んだだけの言葉のようです。あまりにレベルが低いので、ドゥルーズなどには、はなから相手にしてもらえない。
じっさいこの流派に属する（とされた）学者の言説には、問題が多い。レヴィ本人ではありませんが、アンドレ･グリュックスマンとの公開討論が『
フーコー・コレクション〈4〉権力・監禁 (ちくま学芸文庫)
』に収められていて（「6.人民裁判についてーマオイスト（毛沢東主義者）たちとの討論」）、これを読むと、まるで与太者が絡んでいるようで質が悪い。相手をしているフーコーが手を焼いているのがよくわかる（このときグリュックスマンと並んで討論に参加しているベニー･レヴィーは、後にサルトルの「秘書」になった人物だそうで、晩年のサルトルの周囲には、どうもこの種の質のよくない連中が集まっていたように思えます）。どうやら彼らは、いわゆる日本でいう全共闘世代で、68年に新左翼運動の洗礼を受け、マオイスムにかぶれた後、さまざまな経路をたどってマルクス主義批判に転じた人たちのようです。著者ベルナール=アンリ・レヴィも、イラク戦争に賛同したりして物議をかもしたりしている。翻訳されている本に『危険な純粋さ』という表題があり、もうこれだけで「いかにも」と思ってしまう。
サルトルという作家=思想家の生涯を、物語的に概括するなら、これでもいいでしょう。しかしそれならば200ページですむ。こんな長さは必要ありません。
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