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民俗学と歴史学: 網野善彦、アラン・コルバンとの対話 単行本 – 2007/1/1
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話。
民俗学と歴史学
赤坂憲雄
わたしはいつでも、歴史学と民俗学とがあい交わるあたりに眼を凝らしてきた
気がする。ふたつの知のまなざしや方法が境を接する、ボカシの領域がどこかに
広がっていて、そこに関心をそそられ、魅せられてきたのではなかったか、
と思う。すでに名前をあたえられ、分類コードをもって知の標本箱のなかに収め
られたモノたちには、熱い関心を差し向ける気になれない。名付けがたきモノら
との邂逅、そして交歓こそに、畏れを抱きながら、ひそかにそそられてきたので
ある。だからかもしれない。わたしは否定しようもなく、たとえば民俗学という
名づけが施される以前に属する、柳田国男の明治・大正期の仕事に深くとらわれ
てきた。
昭和の初年から十年代にかけて、柳田とその周辺にあっては、あらたな分類へ
のまなざしや方法への意志をもって、歴史学とも民族学ともあきらかに一線を画
されるべき、郷土研究という名の民俗学が生成を遂げていった。いつしか、やわ
らかな知の可能性の種子がふんだんに詰まっていたはずの民俗学以前は、はるか
かなたへと遠ざかった。制度の外部へと逐いやられたのである。「感性の歴
史学」にかかわる一連の仕事もまた、民俗学以前に含まれる。
民俗学はいま、いかなる地点へと到り着いているのか----。その問いが反転し
て、あらためて民俗学以前にたいするノスタルジックな関心を掻き立てているの
かもしれない、とも感じる。過去をいたずらに懐かしむのではない、ひとたび過
去のある地点に立ち返って、そこから、たとえば民俗学的な知の軌跡を辿り直そ
うとするのである。そうした思想史的な探求には依然として、未来へと向かう力
が豊かに宿されているのではないか。わたしのなかでは、どうやら思想史への
回帰がゆるやかにはじまっているようだ。
それはたんなる回帰ではない。ひとたび、わたしなりの流儀と作法でフィール
ドをくぐり抜けたうえでの、あらたな日本思想史への出立である。ひとつの焦点
は、確実に、明治以降の近代に生起した知や学問の系譜を発生的に掘り起こすこ
とである。そこに埋もれている可能性の種子を探しながら、これからの、未来へ
と繋がってゆく思想や哲学を創りあげてゆくための糧としなければならない。柳
田国男の残したテクストのなかに、アナール派の「感性の歴史学」に拮抗す
る仕事が、たとえ断片ではあれ見いだされたように。それは一個の励ましであ
る。わたしはここでも、あの、汝の足元を深く掘れ、そこに泉あり----という声
に、その呼びかけの真実に賭けたい、と願う。
いま、ある種の知や学問をめぐる閉塞状況は、だれの眼にもあきらかだろう。
歴史や文化にかかわる知や学問はみな、そのアイデンティティをめぐって根底か
らの懐疑にさらされているのではないか。その自覚の深さ・浅さが、対応を多様
なものにしてはいるが、直面している困難さには大差がないのかもしれない。
いかにして、こうした閉塞状況を乗り越えることができるのか。ここにいたっ
て、思想史への方法的な回帰は、より大きな時代の必然と化してゆくのかもしれ
ない、と感じる。わたしたち自身の近代の知をめぐる包括的な再検証こそが、あ
らためて緊要なる課題として浮上してくる。それはしかも、思想史の土俵に留ま
るのではなく、ただちに学問の最前線へとフィードバックすることが求められ
る。あらゆる人文諸科学のテリトリーは、近代の国民国家の生成とともにしだい
に画定されていったものであり、その自明性はなにものによっても担保されては
いないことを。近代の黄昏のなかで、そのテリトリー再編がたいせつな課題と
なってゆく必然があり、そして、見えにくいものではあれ、すでに再編のドラマ
はそこかしこで幕を開けているはずだ。
(あかさか・のりお/東北芸術工科大学教授)
- 本の長さ231ページ
- 言語日本語
- 出版社藤原書店
- 発売日2007/1/1
- ISBN-104894345544
- ISBN-13978-4894345546
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商品の説明
出版社からのコメント
てきた網野善彦、そしてアラン・コルバン。民俗学から「東北学」へと歩み
を進めるなかで、一人ひとりの人間の実践と歴史との接点に眼を向けてきた著
者と、この東西の歴史学の巨人との間に奇跡的に成立した、「歴史学」と「民俗
学」の相互越境を目指す対話の記録。
登録情報
- 出版社 : 藤原書店 (2007/1/1)
- 発売日 : 2007/1/1
- 言語 : 日本語
- 単行本 : 231ページ
- ISBN-10 : 4894345544
- ISBN-13 : 978-4894345546
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