出版社からのコメント
生体は様々な凝固活性調節機構を動員することにより,適切な量の血栓を迅速に形成し適切な期間保持することが可能であり,これにより組織の修復に貢献する。形成された血栓(凝血塊)は,出血が止まり組織の修復が完了すると線維素溶解(線溶)現象により速やかに溶解消失する。この血栓の溶解は早すぎると出血するし,遅ければ末梢の循環不全や梗塞につながるため,線溶系もまた様々な調節機構により制御されている。このような血小板および凝固系の活性化,また凝固と線溶の連携プレーには,巧みな指揮者に導かれるオ−ケストラのような趣がある。あたかも神様あるいは指揮者が全体の現象を調節しているように見えるが,実際は個々の反応にブレーキとアクセルがあり,周囲の状況に応じて速度が調節されている。本書では,このような血栓形成とその溶解に関わる個々の因子や機構を各項目で説明すると同時に,血液凝固・線溶反応を包括的で合目的的な生体反応と捉え,そのなかでの個々の役割に言及する。また血栓症の治療や予防方法についても最新情報を提供している。従来から使用されているアスピリン,ワルファリン,あるいはヘパリンに替わる新規治療薬は,いずれも臨床治験において従来の薬剤の欠点を補う効果,あるいは優れた治療成績が示された。しかしながら実地臨床での使用例が増えるにつれて,それらの問題点が明らかになってきた。逆に,長らく使用されてきた薬剤の優れた点も見直されるようになった。本書では,新規治療薬も含め,血栓症治療に使用される薬剤の作用機序と使用方法,また使用上の問題点も記載し,実地臨床における「治療」にも貢献できると期待している。
著者について
浦野哲盟(浜松医科大学医生理学講座教授) 後藤信哉(東海大学医学部内科学系循環器内科学教授)
