フィルムセンターで増村保造のほとんどすべての映画が上映される。そのなかにはまだ観ていない『恋にいのちを』とか『うるさい妹たち』なども入っている。『原色の蝶は見ていた』というあまり聞いたことのないテレビドラマも上映される(本書の「増村保造テレビ作品」のリストに入っていた)。夢のような話だ。未見の作品はすべて観るつもりだが、それと同時にこれまで何度も観てきた映画も、また観ることだろう。たとえばあの『夫が見た』。
あの映画の最後のほうで、傷ついた田宮二郎が愛する人妻・若尾文子の危急を知り、動かしてはいけない体で悪女・岸田今日子ににじりよる時、その岸田今日子が「真の嫉妬」から男に放つ言葉、その声音、というより彼女がかもしだすすべてに、なぜか私は何度観ても涙をとめられない。確かに若尾文子は圧倒的に美しく素晴らしい。だがそれ以上に『夫が見た』のラストシーンにおける岸田今日子は、ほとんど言語を絶している。この映画のタイトルには、吹けば飛ぶようなつまらない「夫」である川崎敬三が含意されているが、彼が見ていない、見ることのできない至上の惨劇は、上記の三人によって演じられている、そんな感じがする。
ともあれ誰かひとりを選ぶとしたらこの人、になろう私にとっての増村保造。その彼がつくったすべての映画が紹介され、書いた批評・エッセイが収録された本書は、今年6月末から9月まで続くフィルムセンター大回顧展の良き参考書である。
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映画監督増村保造の世界: 映像のマエストロ映画との格闘の記録1947-1986 単行本 – 1999/3/1
増村 保造
(著)
- 本の長さ527ページ
- 言語日本語
- 出版社ワイズ出版
- 発売日1999/3/1
- ISBN-104898300057
- ISBN-13978-4898300053
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商品の説明
内容(「MARC」データベースより)
「映画監督は、旧式の三八銃だけで、熱帯のジャングルの中で、一人ぼっちで戦っている兵士のようなものだ」が口癖だった増村保造の全仕事の記録。「痴人の愛」「華岡青洲の妻」など57作品のフィルモグラフィーも収録。
登録情報
- 出版社 : ワイズ出版 (1999/3/1)
- 発売日 : 1999/3/1
- 言語 : 日本語
- 単行本 : 527ページ
- ISBN-10 : 4898300057
- ISBN-13 : 978-4898300053
- Amazon 売れ筋ランキング: - 629,568位本 (本の売れ筋ランキングを見る)
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トップレビュー
上位レビュー、対象国: 日本
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2005年6月25日に日本でレビュー済み
三島由紀夫の同期生増村保造は、東大法学部卒業後、イタリアで映画を学び、日本映画に新風を吹き込んだ。本書は、彼の全作品レビュー・関係者インタビュー・監督本人による自作解題・批評集をまとめたものである。
本書をひもとけば、青年時代におけるヨーロッパ文化との衝撃的な出会いをきっかけに、彼が、いかにして、あるいは何のために、映画を作ってきたか、が理解できるであろう。、
また、本書に含まれている、彼の含蓄に富んだ映画論は、数十年前のものとはいえ、古さを感じさせないばかりか、記号論的な学者主義に満ちた映画批評が跋扈する昨今において、逆に新鮮ですらある。酒の席で「オレの教養は海よりも深く山よりも高い」と呟いてみせたという、旧制高校で学んだエリートとしての面目躍如といったところであろう。特に出色なのは彼の師であった溝口健二論と、鋭い視点から斬ってみせる巨匠黒澤明論である。
しかし、何よりも本書には、映画への情熱と夢をかきたててくれる息吹のようなものが漂っている。映画監督の本は数あれど、これほど一途な力強さを感じるものは数少ない。まずは増村保造の映画に親しんでから読むことを勧めるが、そうでなくとも、批評集を通じてそのような「息吹」を楽しむことはできるはずである。
本書をひもとけば、青年時代におけるヨーロッパ文化との衝撃的な出会いをきっかけに、彼が、いかにして、あるいは何のために、映画を作ってきたか、が理解できるであろう。、
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しかし、何よりも本書には、映画への情熱と夢をかきたててくれる息吹のようなものが漂っている。映画監督の本は数あれど、これほど一途な力強さを感じるものは数少ない。まずは増村保造の映画に親しんでから読むことを勧めるが、そうでなくとも、批評集を通じてそのような「息吹」を楽しむことはできるはずである。