人の賑わいも絶えた深夜の東京駅。
来る電車も無いはずのホームに、しかし、一本の列車が到着する。今日は敗戦からちょうど十年目の八月十五日、サイパンで散った兵隊たちへ、始発が来るまでのほんのひととき、祖国の様子を見せるためにこの列車はやってきた。
以前より読んでみたいと思っていたのだが、戦争物の小説には手が出にくいのと、書店で暇を潰している時に思い出して探しても見当たらず、古書肆で尋ねても置いておらずで延び延びになっていたのを、ついにAmazonで買ってしまった。
映画のdvdはさておき、書籍はなるたけ書店にお金を落としたいと思っているのだが、最近Amazonでの購入が増えており、少し反省している。
本書には、「サイパンから来た列車」と「ポッポ班長万歳」の2篇が収められている。「サイパン〜」の方は、ほんの50頁の短編である事にまず驚いた。長編かと思っていたから。「ポッポ班長〜」は100頁ほどである。共にたいへん平易な文章で書かれており、誰にでも接しやすいと思う。
軍隊を題材にしているが、どちらも戦争それ自体は描いていない。「ポッポ班長〜」は初年兵と二年兵との、兵営での物語であり、「サイパン〜」は戦争が終わって十年後の、かりそめの帰国者の話である。
どちらも、軍隊らしい勇ましい話ではない。おっちょこちょいだったり、ドジだったりする、その辺にいる人が出征し、生きて帰る事が叶わず、十年後の東京に戻ったとしたら何をし、何を思うだろうか、を描いたものだ。
私は通常、軍隊ものの小説は読まない。半藤一利やアントニー・ビーヴァーの本は読むが、あの戦争に関しては作り物の話は読まない様にしてきた。私は頭の中の交通整理に自信が持てないので、どこでどのように、史実とフィクションとを取り違えるかも知れず、その事がおそろしかったからだ。
だが、棟田さんの書いたものは私が密かに恐れていた様なものでは無かった。穏やかな筆致で、勇ましさや好戦性とは無縁であった。この人の本なら読んでも良いのではないか、「拝啓天皇陛下様」くらいなら読んでも良いのではないかと、今揺らいでいる所だ。
無料のKindleアプリをダウンロードして、スマートフォン、タブレット、またはコンピューターで今すぐKindle本を読むことができます。Kindleデバイスは必要ありません。
ウェブ版Kindleなら、お使いのブラウザですぐにお読みいただけます。
携帯電話のカメラを使用する - 以下のコードをスキャンし、Kindleアプリをダウンロードしてください。
サイパンから来た列車 ペーパーバック – 2010/8/4
倉本聰脚本 舞台 ドラマ 「歸國」の原作!!
「祖国と親愛なる者たちは果たしてどうなっているのか?」を報告する任務を背負い、戦後10年経ち降り立った東京駅のホーム。
彼らは何を見て感じたのか?。
倉本聰による「あとがき」特別寄稿
「祖国と親愛なる者たちは果たしてどうなっているのか?」を報告する任務を背負い、戦後10年経ち降り立った東京駅のホーム。
彼らは何を見て感じたのか?。
倉本聰による「あとがき」特別寄稿
- 本の長さ192ページ
- 言語日本語
- 出版社TBSサービス
- 発売日2010/8/4
- ISBN-104904345126
- ISBN-13978-4904345122
この著者の人気タイトル
ページ 1 以下のうち 1 最初から観るページ 1 以下のうち 1
商品の説明
著者について
棟田 博(むねた ひろし)
明治42年11月、岡山県津山市に生まれる
早稲田大学文学部国文科中退 陸軍伍長
太平洋戦争中は南方各地へ従軍
昭和17年 「台児荘」で野間文芸奨励賞受賞
昭和63年 茅ヶ崎市において死去
主な著書 「分隊長の手記」「続分隊長の手記」「台児荘」
「拝啓天皇陛下様」「地と影」「美作ノ国吉井川」「坂東捕虜収容所」ほか
明治42年11月、岡山県津山市に生まれる
早稲田大学文学部国文科中退 陸軍伍長
太平洋戦争中は南方各地へ従軍
昭和17年 「台児荘」で野間文芸奨励賞受賞
昭和63年 茅ヶ崎市において死去
主な著書 「分隊長の手記」「続分隊長の手記」「台児荘」
「拝啓天皇陛下様」「地と影」「美作ノ国吉井川」「坂東捕虜収容所」ほか
登録情報
- 出版社 : TBSサービス (2010/8/4)
- 発売日 : 2010/8/4
- 言語 : 日本語
- ペーパーバック : 192ページ
- ISBN-10 : 4904345126
- ISBN-13 : 978-4904345122
- Amazon 売れ筋ランキング: - 734,941位本 (本の売れ筋ランキングを見る)
- - 16,890位日本文学
- カスタマーレビュー:
著者について
著者をフォローして、新作のアップデートや改善されたおすすめを入手してください。
著者の本をもっと発見したり、よく似た著者を見つけたり、著者のブログを読んだりしましょう
カスタマーレビュー
星5つ中4つ
5つのうち4つ
全体的な星の数と星別のパーセンテージの内訳を計算するにあたり、単純平均は使用されていません。当システムでは、レビューがどの程度新しいか、レビュー担当者がAmazonで購入したかどうかなど、特定の要素をより重視しています。 詳細はこちら
15グローバルレーティング
虚偽のレビューは一切容認しません
私たちの目標は、すべてのレビューを信頼性の高い、有益なものにすることです。だからこそ、私たちはテクノロジーと人間の調査員の両方を活用して、お客様が偽のレビューを見る前にブロックしています。 詳細はこちら
コミュニティガイドラインに違反するAmazonアカウントはブロックされます。また、レビューを購入した出品者をブロックし、そのようなレビューを投稿した当事者に対して法的措置を取ります。 報告方法について学ぶ
-
トップレビュー
上位レビュー、対象国: 日本
レビューのフィルタリング中に問題が発生しました。後でもう一度試してください。
2022年3月13日に日本でレビュー済み
Amazonで購入
2014年10月29日に日本でレビュー済み
Amazonで購入
半藤一利氏が著作内で紹介されてたので、読んでみたが期待値が高かったからか、
思いのほか感銘は受けなかった。
ただ、戦争で亡くなった先人たちから、今の日本、日本人を見られているという
意識は大切だと思った。
平和ぼけ、自己中心的な現代だけど、次世代に少しでもいい日本を引き継いでもらいたい。
思いのほか感銘は受けなかった。
ただ、戦争で亡くなった先人たちから、今の日本、日本人を見られているという
意識は大切だと思った。
平和ぼけ、自己中心的な現代だけど、次世代に少しでもいい日本を引き継いでもらいたい。
2021年12月27日に日本でレビュー済み
Amazonで購入
倉本聡の「歸國」はそれはもうヒドイ作品でしたが、原作は違います。ビート何とかや石坂何とかに相当する人物は登場せず、死んでしまった者たちから見る日本の姿やどうにもならないもどかしさを感じ取ることができます。街娼を民主日本の職業婦人と評しているのも素晴らしいと思います。
それ以上に面白かったのが、インパール作戦に失敗しても白兵戦術に固執した事から泥沼化していく一方のビルマ戦線の日本軍を描き、作者本人もチョットだけ登場する「地霊」とサイパンの密林で戦後十年も生き残り日本へ帰国してきた三人の帰国してからの悲喜を描く「三人の元日本兵」の二作です。
それ以上に面白かったのが、インパール作戦に失敗しても白兵戦術に固執した事から泥沼化していく一方のビルマ戦線の日本軍を描き、作者本人もチョットだけ登場する「地霊」とサイパンの密林で戦後十年も生き残り日本へ帰国してきた三人の帰国してからの悲喜を描く「三人の元日本兵」の二作です。
2010年8月28日に日本でレビュー済み
Amazonで購入
今夏、終戦記念日前日8/14に放映されたテレビドラマを見たのがきっかけで
この原作本を手にした。
脚本家・倉本聰氏が、短編小説「サイパンから来た列車」に感銘を受け
50年以上温めてきた作品である。
原作の初出は「面白倶楽部」(昭和30年10月号)で、
その後昭和49年に、棟田博兵隊小説文庫(光人社)として出版されている。
テレビドラマでは戦後65年という設定だが、
原作では戦後10年目、つまり1955年(昭和30年)である。
原作冒頭に出てくる東京駅の乗降客数はもとより、
東京の街の風景、英霊たちの訪れた先の状況は、
戦後65年の設定のドラマと戦後10年目の原作とでは、
まさしく隔世の感ありである。
こうしたドラマ化にあたっての苦労が、
「あとがき」で自らの言葉として書かれている。
そんな中、脚本家倉本氏が、原作から読み取った問題意識とは、
「こんな、だらしのない、腰の抜けてしまった日本には、さらさら用はない。
おれはサイパンに永久に居るつもりなんだ。」
とのメッセ−ジではないだろうか。
原作に立ち戻ることにより、
あらためてドラマや演劇を通して脚本家が
より深く、鋭く提起している問題意識を汲み取れるのではないだろうか。
この原作本を手にした。
脚本家・倉本聰氏が、短編小説「サイパンから来た列車」に感銘を受け
50年以上温めてきた作品である。
原作の初出は「面白倶楽部」(昭和30年10月号)で、
その後昭和49年に、棟田博兵隊小説文庫(光人社)として出版されている。
テレビドラマでは戦後65年という設定だが、
原作では戦後10年目、つまり1955年(昭和30年)である。
原作冒頭に出てくる東京駅の乗降客数はもとより、
東京の街の風景、英霊たちの訪れた先の状況は、
戦後65年の設定のドラマと戦後10年目の原作とでは、
まさしく隔世の感ありである。
こうしたドラマ化にあたっての苦労が、
「あとがき」で自らの言葉として書かれている。
そんな中、脚本家倉本氏が、原作から読み取った問題意識とは、
「こんな、だらしのない、腰の抜けてしまった日本には、さらさら用はない。
おれはサイパンに永久に居るつもりなんだ。」
とのメッセ−ジではないだろうか。
原作に立ち戻ることにより、
あらためてドラマや演劇を通して脚本家が
より深く、鋭く提起している問題意識を汲み取れるのではないだろうか。
2010年9月18日に日本でレビュー済み
Amazonで購入
テレビドラマ歸國の原作ということで、興味があり購入した。
テレビドラマでは2時間特番ということで、内容の濃いメッセージ色の強い仕上がりになっていたが、果たして原作は?と思って読んだが、短編小説だったせいもあるかもしれないが、想像よりあっさりした内容だと思う。すぐに読み終えてしまった。
ドラマでは戦後65年後の日本、原作では戦後10年後の日本という設定で、ずいぶん違う。それでも戦後65年経った今から見れば戦後10年なんてまだ戦後意識が強いものと感じるがそうでもなく、やはり「もはや戦後ではない」のかもしれない。
ドラマでの「腑抜けた日本人」というメッセージをこめた内容にも共感するが、年代は違えど同じ発想から描いた違うドラマと考えれば、むしろ心地よいストーリーと感じるかもしれない。
ただ僕には期待していただけに、あっさりしすぎていたかもしれない。
テレビドラマでは2時間特番ということで、内容の濃いメッセージ色の強い仕上がりになっていたが、果たして原作は?と思って読んだが、短編小説だったせいもあるかもしれないが、想像よりあっさりした内容だと思う。すぐに読み終えてしまった。
ドラマでは戦後65年後の日本、原作では戦後10年後の日本という設定で、ずいぶん違う。それでも戦後65年経った今から見れば戦後10年なんてまだ戦後意識が強いものと感じるがそうでもなく、やはり「もはや戦後ではない」のかもしれない。
ドラマでの「腑抜けた日本人」というメッセージをこめた内容にも共感するが、年代は違えど同じ発想から描いた違うドラマと考えれば、むしろ心地よいストーリーと感じるかもしれない。
ただ僕には期待していただけに、あっさりしすぎていたかもしれない。
2022年1月13日に日本でレビュー済み
おそらく無断転載だが、ユーチューブで『歸國』を見て、本書を手に取った。
『歸國』は、平成日本に対する強い異議申し立てであった。折は民主党政権、拝金主義が蔓延し、戦後レジームも極まっていた。
『サイパンから来た列車』は、戦後十年が舞台。兵士たちは、懐かしい東京を巡る。牧歌的で、実に淡々としたものだ。共に収録されている『ポッポ班長バンザイ』も、読んでて楽しい兵隊小説である。
さて、御代は令和。『歸國』の放映から早十年。戦後八十年も間もなくである。今の日本を、英霊たちはどう見るであろうか──。
靖国神社参拝は、安倍首相が在任中に一度したものの、それ切り。東日本大震災以後、スマホの加速度的な普及もあり、まっとうな言論が通るようにもなってはいる。「国家」を論じることができるようにもなった。
しかし、新型コロナ禍で露呈したのは、凄まじいアノミーである。本質的な問題は論じられることなく、「空気」による支配が日本を動かしている。中西輝政や倉山満が指摘するところだが、これは大東亜戦争当時とアイソモーフィックである。
コロナ対策や福祉政策にしても、外交安全保障政策にしても、とどのつまり、哲学がないのである。「人にとって最も大切なものは何か?」、「日本とはなんなのか?」、「私達は何を目指すのか?」……このあたりの根本問題から目を逸しているから、結果「空気」が最高の支配者となるのだ。
いま、改めて考えたい。日本はこれでいいのか?
『歸國』は、平成日本に対する強い異議申し立てであった。折は民主党政権、拝金主義が蔓延し、戦後レジームも極まっていた。
『サイパンから来た列車』は、戦後十年が舞台。兵士たちは、懐かしい東京を巡る。牧歌的で、実に淡々としたものだ。共に収録されている『ポッポ班長バンザイ』も、読んでて楽しい兵隊小説である。
さて、御代は令和。『歸國』の放映から早十年。戦後八十年も間もなくである。今の日本を、英霊たちはどう見るであろうか──。
靖国神社参拝は、安倍首相が在任中に一度したものの、それ切り。東日本大震災以後、スマホの加速度的な普及もあり、まっとうな言論が通るようにもなってはいる。「国家」を論じることができるようにもなった。
しかし、新型コロナ禍で露呈したのは、凄まじいアノミーである。本質的な問題は論じられることなく、「空気」による支配が日本を動かしている。中西輝政や倉山満が指摘するところだが、これは大東亜戦争当時とアイソモーフィックである。
コロナ対策や福祉政策にしても、外交安全保障政策にしても、とどのつまり、哲学がないのである。「人にとって最も大切なものは何か?」、「日本とはなんなのか?」、「私達は何を目指すのか?」……このあたりの根本問題から目を逸しているから、結果「空気」が最高の支配者となるのだ。
いま、改めて考えたい。日本はこれでいいのか?
2010年8月7日に日本でレビュー済み
Amazonで購入
倉本聰さんのドラマの原作だということと、ジブリの「火垂の墓」「もののけ姫」の美術監督の山本二三さんの表紙ということで手に取りました。一気に読みました。
「第二次大戦後十年目の8月15日深夜、一台の軍用列車が密かに東京駅にすべりこむ、降りたったのはサイパンで玉砕してそのまま遺骨も放置された英霊たちの一連隊、彼らはなつかしい故国の深夜を夜の明けるまでさまよい歩き、南の海へ再び帰って行く。」(あとがき)
原作では、亡くなった兵士が10年後の日本に帰るという設定になっています。ドラマでは現在の日本に帰るということになっているようです。兵士は何のために戦ったのだろうか?自分たちが犠牲になることで、祖国に残された愛する家族が幸せになることを願いながら死んでいったことは間違いはありません。その兵士たちが今の日本の姿を見たときに、どんな風に感じるかという問題が突きつけられています。兵士の犠牲の上に我々の生活が築かれていることは間違いないことです。しかし、今の日本の姿を見て兵士は何を思うだろうということを考えさせられます。
このように紹介すると、深刻な話のように思われますが、読後感はむしろさわやかで透明な気持ちにさせられます。それは、「戦争の悲劇を決して高所から描くのではなく、その中に置かれた兵隊たちの人間を、あるときは人情、あるときはユーモアすら交えながら、むしろ淡々とおかしみで活写さている点にあるだろう」(倉本聰さんのあとがきより)
倉本聰さんのあとがきもすばらしいです。あとがきを読むだけでもこの本を手に取った意味があると感じました。読後に、山本二三さんの描いた表紙を眺めると感慨深い気持ちになりました。さすが「火垂の墓」の山本二三さんだなと感じました。
「第二次大戦後十年目の8月15日深夜、一台の軍用列車が密かに東京駅にすべりこむ、降りたったのはサイパンで玉砕してそのまま遺骨も放置された英霊たちの一連隊、彼らはなつかしい故国の深夜を夜の明けるまでさまよい歩き、南の海へ再び帰って行く。」(あとがき)
原作では、亡くなった兵士が10年後の日本に帰るという設定になっています。ドラマでは現在の日本に帰るということになっているようです。兵士は何のために戦ったのだろうか?自分たちが犠牲になることで、祖国に残された愛する家族が幸せになることを願いながら死んでいったことは間違いはありません。その兵士たちが今の日本の姿を見たときに、どんな風に感じるかという問題が突きつけられています。兵士の犠牲の上に我々の生活が築かれていることは間違いないことです。しかし、今の日本の姿を見て兵士は何を思うだろうということを考えさせられます。
このように紹介すると、深刻な話のように思われますが、読後感はむしろさわやかで透明な気持ちにさせられます。それは、「戦争の悲劇を決して高所から描くのではなく、その中に置かれた兵隊たちの人間を、あるときは人情、あるときはユーモアすら交えながら、むしろ淡々とおかしみで活写さている点にあるだろう」(倉本聰さんのあとがきより)
倉本聰さんのあとがきもすばらしいです。あとがきを読むだけでもこの本を手に取った意味があると感じました。読後に、山本二三さんの描いた表紙を眺めると感慨深い気持ちになりました。さすが「火垂の墓」の山本二三さんだなと感じました。