本書は、近年、若手から中堅の弁護士の間でかなり広く読まれている
（と思われる）本です。
陪審制のあるアメリカやイギリスの裁判制度を前提に、
陪審員を説得するために、どのようにプレゼンテーションをするべきか、
について書かれた本ですが、
日本でも最近、裁判員制度が始まりましたので、とても参考になります。
法廷での立ち居振る舞いについて
１０７個（数え方によってはもう少し少ない）もの細則が挙げられていますが、
すべてに共通するのは、
何を話すか（聴くか）ではなく、どのように話すか（聴くか）
についてのルールであるという点です。
これは、何を話すか（聴くか）は重要ではない、という意味ではなく、
それだけでは足りない、という風に受け取るべきでしょう。
要するに、法廷とはプレゼンテーションの場であり、見せ方も大事だ、ということです。
それも、事件の見せ方だけではなく、
自分自身の見せ方にも細心の注意を払うべきだ、ということです。
説得力のある話し方をする人の話には、誰でも耳を傾けます。
逆に、話し方次第で、正しいことを言っているのに
聞く耳を持ってもらえない場合もあります。
弁護士たる者、できれば常に前者でありたいものです。
このことは、どんな事件についても
最善の弁護をするための一般的要件と言えると思います。
ベテランの先生方は、通常、自らの試行錯誤によってこういった技術を身につけていますが、
本書は、（私のような）若手の弁護士が、できるだけ「錯誤」をせずに、
依頼人のために当初から最善の弁護を実践できるようにと書かれたものです。
なお、弁護士以外の人が読んで役に立つかどうかは分かりませんが、
誰もが裁判員に選ばれる可能性のある昨今、
弁護士の（悪く言えば）手管について知っておくことは有益かもしれません。
検察官の手管についても別途、勉強されるとなお良いと思います。
そして、弁護士に対して本書を推薦することとは矛盾するかもしれませんが、
個人的には、裁判官および裁判員の皆さんには、
弁護士や検察官の「見せ方」に必要以上に左右されることなく、
証拠と、双方の主張の「中身」を冷静に吟味して、
妥当な結論を導いていただきたいと思います。
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