すごい、ダークな傑作です。でも、訳題が悪い。原題は"White as Snow"なのだから、作者の意図は明らかでしょう。「白雪姫の妖しく美しく残酷な真実」とかでよかったのに。それに、帯書きに「ふたりの白雪姫の物語」とあるのも見当外れ。白雪姫と(継母の)魔女王妃の物語りを、真実はもっと酷かったんだよと、再解釈して見せてくれています。
白雪姫のコイラが継母と思いこんでいる王妃アルパツィアは実の母親で、国を滅ぼされて一族皆殺しにあった上、拉致されて無理やり結婚させられた王女だったたため、回りを敵視して娘にも無関心どころか敵対するため。魔女ということになっているのも、魔法の鏡を持っていることは確かですが、回りにひどい態度を取り続けて恐れられていたため。この王妃が、どちらかといえば本編の主人公です。最後は、真っ赤に焼けた鉄の靴を履かせられて縛り首になるのだけれど、そういえば、それが白雪姫の原型だと、どこかで読んだような。
王妃の運命は救いようがないほど酷い。可哀そうで仕方がなかったです。
童話に教訓(モラール)はつきものだけど、強いてそれを探せば、ただ一人愛した狩人オリオンが、死んだ後も語りかけてきて、「回りの人たちはみんな強いと思っているのかい?」「自分だけに感情があると思っているのかい?」と言うくだりだと思った。
これに関連して、本書で感心したのは、アルパツィアの視線で描かれた情景や周囲の様子が、不可解で不安と脅威に満ちて感じられること。そういえば私自身、十代のころはそのような感じ方をしていたなあ、と思い出しました。自分が無力で周囲をコントロールすることができないと、そのように感じられてしまうのですね。古い話だが、その頃(1970年頃)、大学のクラスメートにマルクス主義に走る者が多かったのも、マルクス主義が世界を余すところなく説明することで、不可知感を免れさせてくれるような錯覚を与えてくれるグランドセオリーだったからでしょう。マルクス主義退潮の後を受けて登場したフェミニズムにも、そのようなグランドセオリー特有の錯覚作用があったと思います。
ちなみに、森の七人の小人とは、元々、今で言う低身長症のために捨てられて旅芸人に売られた子どもということになっていて、中世の厳しい現実に即したものになっています。メルヘンとは異なり、白雪姫が結ばれるのが小人のひとりというラストが、やりきれない暗い話に唯一、救いとなっています。
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鏡の森 単行本 – 2004/10/1
- 本の長さ493ページ
- 言語日本語
- 出版社産業編集センター
- 発売日2004/10/1
- ISBN-104916199642
- ISBN-13978-4916199645
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登録情報
- 出版社 : 産業編集センター (2004/10/1)
- 発売日 : 2004/10/1
- 言語 : 日本語
- 単行本 : 493ページ
- ISBN-10 : 4916199642
- ISBN-13 : 978-4916199645
- Amazon 売れ筋ランキング: - 1,288,146位本 (本の売れ筋ランキングを見る)
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2004年11月22日に日本でレビュー済み
Amazonで購入
『ゴルゴン』『血のごとく赤く』のリーの作品なので、取り寄せました。買ってから表紙をまじまじと見て、イメージが違うと思い、同じように思われたかたは、カバーは外してしまったほうが綺麗な本かもしれません。本体はパールのような光沢のきらびき紙が綺麗です。
グリムなどを下敷きにした短編を読んで、もっと長くこういう世界に浸りたい、というかたにはおすすめです。私は楽しめました。14歳の少女の内面のまま老いていくアルパツィアが痛かったですが・・・
「白雪姫」+「ギリシャ神話」(黄泉の国にさらわれる乙女)の、二本のラインが組み合わさり、そのモチーフと、リアル感のある「王」や「王女」の実態がおりなすストーリー。文体は耽美よりもリアルさ重視というかんじで、白雪姫をめざめさせる「王子」の造形や、ラストシーンは強いものがあります。読み終えたばかりですが、すぐまた再読したいです。
グリムなどを下敷きにした短編を読んで、もっと長くこういう世界に浸りたい、というかたにはおすすめです。私は楽しめました。14歳の少女の内面のまま老いていくアルパツィアが痛かったですが・・・
「白雪姫」+「ギリシャ神話」(黄泉の国にさらわれる乙女)の、二本のラインが組み合わさり、そのモチーフと、リアル感のある「王」や「王女」の実態がおりなすストーリー。文体は耽美よりもリアルさ重視というかんじで、白雪姫をめざめさせる「王子」の造形や、ラストシーンは強いものがあります。読み終えたばかりですが、すぐまた再読したいです。
2008年3月6日に日本でレビュー済み
あ。タニス・リーだ。と思って買ったんですが、
ちょっと食い足りない可も無く凄い不可でも無く。という感じを受けましたが
イラストがどうしても合わなくて、イラっとするのがキビシかったですね。
どうしてもこれが気になって仕方ない。
この頃タニス・リーの本が新装版で何冊か発売されていてかわいい絵もあるんですが
軽めのファンタジーなら合う絵でも、
妖しい深い暗さが根底にあるタニス・リーには
どうしても合わない絵ばかりで面食らうのですがこの本は特に気になって仕方無くて・・・。
出版社さんには悪いのですが、カバーを外してしまいました。
本の内容で言うと
タニス・リーの他の本を数冊読んでハマって
全部集めたいという気持ちが出たから買う。そういう順番で買ったほうがいいと思います。
私はそのくちでした。
ちょっと食い足りない可も無く凄い不可でも無く。という感じを受けましたが
イラストがどうしても合わなくて、イラっとするのがキビシかったですね。
どうしてもこれが気になって仕方ない。
この頃タニス・リーの本が新装版で何冊か発売されていてかわいい絵もあるんですが
軽めのファンタジーなら合う絵でも、
妖しい深い暗さが根底にあるタニス・リーには
どうしても合わない絵ばかりで面食らうのですがこの本は特に気になって仕方無くて・・・。
出版社さんには悪いのですが、カバーを外してしまいました。
本の内容で言うと
タニス・リーの他の本を数冊読んでハマって
全部集めたいという気持ちが出たから買う。そういう順番で買ったほうがいいと思います。
私はそのくちでした。
2008年5月29日に日本でレビュー済み
白雪姫を骨子として、あるときは眠り姫、またあるときはシンデレラ、また、赤い靴など、有名なおとぎ話を重層的に絡み合わせながら母と娘の物語が進む。
それ以上に意味深いのは、ギリシャ神話から借用した三位一体の神々であろう。
我と鏡の一体化した子ども時代。よき母と悪き母の分離する体験。我の一部を切り落とした部分対象の混乱と抑うつ。思春期になる頃、三者関係の体験を経て成熟への経路が開かれるように、三位一体の神々は三角形にステップを踏みながら物語時間は経過する。
ネグレクトや虐待の中で育ち、愛することも、愛されることも知らずに、体ばかりが大人にさせられた二人のヒロインの間で。
より複雑に、より多様に、より曖昧に、より混沌に、より寛容に。
うすら白く表面を飾る欺瞞と偽善をはぎ落とし、もともとの物語が持っていたであろう、黒さと赤さを取り戻した物語だ。
ちょっと最後のほうが駆け足で物足りない感じがしたが、なかなか興味深いリライトだと思った。
ラストに掲げられた希望もよい。どんな生まれ方をしたとしても、子どもは雪のように穢れなく白いのだ。
それ以上に意味深いのは、ギリシャ神話から借用した三位一体の神々であろう。
我と鏡の一体化した子ども時代。よき母と悪き母の分離する体験。我の一部を切り落とした部分対象の混乱と抑うつ。思春期になる頃、三者関係の体験を経て成熟への経路が開かれるように、三位一体の神々は三角形にステップを踏みながら物語時間は経過する。
ネグレクトや虐待の中で育ち、愛することも、愛されることも知らずに、体ばかりが大人にさせられた二人のヒロインの間で。
より複雑に、より多様に、より曖昧に、より混沌に、より寛容に。
うすら白く表面を飾る欺瞞と偽善をはぎ落とし、もともとの物語が持っていたであろう、黒さと赤さを取り戻した物語だ。
ちょっと最後のほうが駆け足で物足りない感じがしたが、なかなか興味深いリライトだと思った。
ラストに掲げられた希望もよい。どんな生まれ方をしたとしても、子どもは雪のように穢れなく白いのだ。
2004年11月15日に日本でレビュー済み
この作品は読みづらい。
グリム童話の「白雪姫」とギリシア神話(星座の本などでおとめ座、オリオン座の伝説を見ると分かります)にモチーフを取っていること自体はいいのですがそれを練れていない印象が拭えません。他の作品を見ると、もっと練ってあって、リーなりの解釈・世界観が見事に構成されているものもあるので、どうしても比較をしてしまいます。
特に主人公アルパツィアの未熟かつ成長しない精神、そこから来る身勝手さ、理性の破綻などの描写に上手く娘のカンダシスが絡んでいると思えないのでそれぞれの話を別にしても良かったかも知れません。章も一つ一つ色の名前がついていますが、リーの色彩感溢れる描写がいまいち伝わってこない。どこか、物足りないのです。
あと願わくは、挿絵画家の変更をお願いしたいと思います。
グリム童話の「白雪姫」とギリシア神話(星座の本などでおとめ座、オリオン座の伝説を見ると分かります)にモチーフを取っていること自体はいいのですがそれを練れていない印象が拭えません。他の作品を見ると、もっと練ってあって、リーなりの解釈・世界観が見事に構成されているものもあるので、どうしても比較をしてしまいます。
特に主人公アルパツィアの未熟かつ成長しない精神、そこから来る身勝手さ、理性の破綻などの描写に上手く娘のカンダシスが絡んでいると思えないのでそれぞれの話を別にしても良かったかも知れません。章も一つ一つ色の名前がついていますが、リーの色彩感溢れる描写がいまいち伝わってこない。どこか、物足りないのです。
あと願わくは、挿絵画家の変更をお願いしたいと思います。
2004年11月26日に日本でレビュー済み
暗い......
最初の出だしから、クライマックス(どこがクライマックスだっだのだ?)経由終点までずっと暗い。まさに、人生未来なし、希望なし、と言う暗いテーマに乗っ取った作品にしか思えない。
タニス.リーと言えば、きらめゆく表現と豊かな色彩、耽美な匂いに包まれた思いもよらない結末が待ち受けている作風が魅力の作家なのですが、これはちょっとイタダケナイです。
数年前の作品のようですが、作者も女性であるが故の「老い」に悩まされているかのような、読み進むめば進むほど、こちらが「老化」と「醜悪」で悩まされてしまう、そんなイメージです。
「罪悪」「異型」「老い」「絶望」「錯乱」「身勝手」「ひきこもり」...
キリスト教の7つの大罪と、それらをひっくるめたテーマにとりかかろうとしたのは大作になろうべきものだったのに、書いているうちに、本人が逆にそれに取り付かれてしまったかのような、小道具の扱いのいいかげんさ。
タニス.リー独特のひねりが、悪いほうへ、悪いほうへと方向違いに向いた結果がこの後味の悪い読後感をかもし出してしまうのか、なんともすっきりしない作品でした。
最初の出だしから、クライマックス(どこがクライマックスだっだのだ?)経由終点までずっと暗い。まさに、人生未来なし、希望なし、と言う暗いテーマに乗っ取った作品にしか思えない。
タニス.リーと言えば、きらめゆく表現と豊かな色彩、耽美な匂いに包まれた思いもよらない結末が待ち受けている作風が魅力の作家なのですが、これはちょっとイタダケナイです。
数年前の作品のようですが、作者も女性であるが故の「老い」に悩まされているかのような、読み進むめば進むほど、こちらが「老化」と「醜悪」で悩まされてしまう、そんなイメージです。
「罪悪」「異型」「老い」「絶望」「錯乱」「身勝手」「ひきこもり」...
キリスト教の7つの大罪と、それらをひっくるめたテーマにとりかかろうとしたのは大作になろうべきものだったのに、書いているうちに、本人が逆にそれに取り付かれてしまったかのような、小道具の扱いのいいかげんさ。
タニス.リー独特のひねりが、悪いほうへ、悪いほうへと方向違いに向いた結果がこの後味の悪い読後感をかもし出してしまうのか、なんともすっきりしない作品でした。
2005年1月19日に日本でレビュー済み
~白雪姫のストーリーは、一応、踏んでいますが、
ギリシャ神話(ペルセフォネの物語)のモチーフが繰り返され、
リー版ギリシャ神話と云った方がしっくりする作りになっています。
ドイツの古い民話と言われている白雪姫の世界の住人を、
これまた古くから伝わるギリシャ神話の世界に放り込んだという感じです。
これにしろ、「血のように赤く」にしろ、~~白雪姫本人より、母親に主眼が置かれているようなのですが、
リーにとって、白雪姫本人は扱いにくい題材だったのでしょうか。~
ギリシャ神話(ペルセフォネの物語)のモチーフが繰り返され、
リー版ギリシャ神話と云った方がしっくりする作りになっています。
ドイツの古い民話と言われている白雪姫の世界の住人を、
これまた古くから伝わるギリシャ神話の世界に放り込んだという感じです。
これにしろ、「血のように赤く」にしろ、~~白雪姫本人より、母親に主眼が置かれているようなのですが、
リーにとって、白雪姫本人は扱いにくい題材だったのでしょうか。~