気鋭の文化人類学が「暮らしと文化人類学」のつながりについて1980年代に連載したもの。
ふだんは貧しい食事なのに冠婚葬祭にどんちゃん騒ぎをする、といった「因習」をやめることで合理的な生活を実現してきた、と一般に思われている。
でも、食料やカネを均等に消費するのではなく、「ハレとケ」を交互に混ぜ合わせ、ハレの日にさまざまな信仰上の意味づけを与えることは、貧しい生活に「豊かな意味」を与える最高の知恵だったと指摘する。
伝統的農村では、ハレの日に人並みの消費ができないことは恥ずかしいことである一方、ケの日に浪費することも恥ずかしい行為とされた。
現代の都市生活者はハレの出費がなくなったかわりに貯金で耐久消費財を買うようになった。かつて、ハレの日のための衣服や食器をととのえたのが優れた工芸技術を発達させた。昭和30年代以降の日常生活の「ハレ化」は大量の耐久消費財の購入につながり、工業生産の水準を引き上げた。ただ、ハレの場での消費は社会的な関係を補強する意味があったが、家族単位の物品購入には人間関係がつなぐ効果はない。
さまざまな通過儀礼は、その儀礼を境として、資質や能力が画然と異なることが期待され、新たな権利や義務が与えられた。今は七五三も成人式も形だけになってしまった。人間の成長にけじめがなくなった結果、モラトリアム人間などが生じたと考えられ。
昔は女性の地位が低かった、という「常識」にも異を唱える。
たとえば壱岐島の勝本浦は妻が夫を「○○ちゃん」と呼び、発言力も強かった。むしろ工業生産社会で、家庭から生産要素が消えて暮らしの実体がぼやけてきたことで、女性の地位が落ちたとも考えられる。
農村には、家族の監視から離れながら行動の逸脱を防いでくれる「若者宿」のような親密な人間関係があった。思春期の男の子を親から切り離す「共同の子ども部屋」であり、若者たちが夢中になる「非行」もそこで覚えた。
たとえばヨバイにも、結婚前提でなければ3度しか同じ娘のところへは行かないといったルールがあった。若者の性は、制限されつつも社会のなかで「市民権」が与えられていた。
現代の都市の核家族は、親族関係も地縁関係も孤立し、若者集団も存在しない。中高生の性の状況はかつての若者より文化的にはるかに貧しい。
そういう意味では、ボロ屋を1軒借りてたまり場にしていた学生時代のサークルは僕らにとって「若者宿」だった。社会人には許されない「悪いこと」をいろいろやらかした経験は今思うと貴重だった。
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暮らしの中の文化人類学・平成版 単行本 – 1999/10/22
波平 恵美子
(著)
- 本の長さ213ページ
- 言語日本語
- 出版社出窓社
- 発売日1999/10/22
- ISBN-10493117826X
- ISBN-13978-4931178267
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商品の説明
内容(「MARC」データベースより)
日々の暮らしを少しでも豊かに彩ろうと生活のあちこちに組み込まれた先人たちの知恵から、飽食の時代に生きる私たちは何を学びとればいいのだろうか。福武書店86年刊を加筆修正したもの。
登録情報
- 出版社 : 出窓社 (1999/10/22)
- 発売日 : 1999/10/22
- 言語 : 日本語
- 単行本 : 213ページ
- ISBN-10 : 493117826X
- ISBN-13 : 978-4931178267
- Amazon 売れ筋ランキング: - 819,113位本 (本の売れ筋ランキングを見る)
- - 1,913位文化人類学一般関連書籍
- - 101,182位社会・政治 (本)
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2013年11月22日に日本でレビュー済み
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人は偶発的に産まれ、必然的に死ぬ。病とは、死とは何か。その人の属する社会によって違ってくるでしょう。これは欧米に於いて医療人類学という学問領域で研究がなされています。我が国では未だこの学問が医療の世界に浸透していない様で残念です。医療に従事する人、そうでない人も知ってほしい学問です。同書はそのガイド・ブックといえるでよう。
2006年8月20日に日本でレビュー済み
網野良彦が語っていたように私たちの生きている現代は歴史の流れの中で見ると途轍もない社会構造の大変革時代にあるのだろう。特に,継承家族制度の崩壊と性意識の平等化及び女性の社会進出は限りなく日本社会を凄まじい勢いで変えつつあり,日本自体を崩壊させかねないほどになっている。『晩婚化と少子化とは,日本の社会的情況がもたらしたものであると同時に,日本人が,結婚も子どもを産み育てることも,自分を中心に考え,自分の後に残るもの,残すべきものに関心をもたなくなったことを示している。人生は自分のみで終わり,死でもって終了するという自己存在の認識が広がってきている』なんとこの本は1991年に書かれており,波平さんのもつ社会分析の確かさと,これからのあるべき社会を考える上での文化人類学という学問の役割と重要性をよく理解できた。