「日本は島国で他国との交流が少なかったなどというのは偏見」「東日本と西日本はそれぞれ別の国家となる可能性もあるほどの相違があった」といった主張や、日本では古くから農業生産以外にも多様な産業が展開していたこと、貨幣については現在とは異なった意味があると思われること等、わくわくするような力ある学説に満ちている網野史学。
その網野史学について、勉強会の対話の中で、全体構造が解りやすく解きほぐされていく。
それと同時に、網野史学の力の源泉が明らかになっていく。
「とにかく天皇の一言で戦争が終わったということが、われわれには屈辱だと思います。それは仕方がないと言えばその通り、われわれにはそれだけの力しかなかったんですからp.133」
「日本の歴史を考えていく場合、・・人間の持っている可能性を歴史のなかからもう一度取り出してみる、そのエネルギーを現在に生かしていく道を考えることは、どうしても必要p.119」
網野氏は、霞ヶ浦という巨大な湖の周辺に住む漁民たちが４８津という巨大な自治組織を作っていて漁業権を管理していた体制が、江戸時代から明治にかけて滅びていったことを研究する中で、なぜそういった自治組織が力を失い滅びざるを得なかったのかを明らかにし、その知見を現代の社会に生かすべきだと主張している。p.116
網野史学の力の源泉は、いわば、失われた日本の民主主義を過去の歴史の中から掘り起し、それを現代に復活させたいという信念だったのではないか。
「法隆寺が建てられたのは聖徳太子の怨霊を鎮めるためだったという梅原猛さんの学説をどう思いますか」などという質問が遠慮なしに出てくるような歴史マニアの勉強会に真面目に付き合ってくれた網野氏の寛容な精神のおかげで、私たちはその魅力的な学説を生み出したマグマのような力の源泉を知ることができるのである。
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