神田の古書店で購入。
古典的というのは発する方が緊張する言葉だけれど、およそ子供についての言説をかなり幅広く射程に収める著者の思想的な視座(それが本書を綜論たらしめている)を指示するのには適ったものと思われる。
例えば子供が読む本についてあれこれ論及される際のパターンとして、本書の初めの方に「芸術至上主義」と「人道主義」というのがあげられている。
《前者は、子どもというものと大人とのちがいを、「空想性」「非現実性」という極に集約させて、そういうことばの範疇の内部にとりこまれてくる子ども存在を、いわば「子ども価値」としてそのままに絶対化しようとしている。だから大人との差異を必要以上に強弁し、固定化する必要も自然と生じてくる。それは現実からの離陸ということをかくれた理念としているために、どうしてもじっさいに子どもがすでに身につけていたり、これから自然と身につくはずである大人的な現実性を価値の低いものとして軽視しがちである。
また後者は、子どもを、「教唆されみちびかれるべき未熟な存在」として引きつけてとらえ、むしろ大人が身をひたしている現実性(大人が現実性だと思っていることども)に目ざめさせることの方により大きなウェイトをおいている。この方向は究極的には子どもの本の価値を実践的教育的なところに置いているので、“いま”という時間を生きている子どもの内面相といったものには本当はあまり関心がないのである。〔本書pp.15-16.〕》
私などには、これはかなり納得のいく区分けで、殊に前者は「わたくし子どもが純粋に好きなだけで、小難しいおはなしはごめん被りますわ」と開き直って済ましている反知性主義(ロマン派の亜種)を思わせて、ーー周囲にその手の連中を頻繁に見かける私一身上の、そういう職場の故でもあるがーーおもしろい。また後者もたしかに有害ではあろうが、およそloyaltyの殆どと無縁になってしまった現代からすれば、あるいは自信をもって教唆してくださる存在というのは羨望を向けられるのかも知れない。
ともあれ子供論一般の偏向は確かにこの二ついずれかに当て嵌まるだろうし、かかる認識は両陥穽から距離をとらしむる点で我々にとって有用である。
もちろんこれら双方を批判する著者の論述は単なる折衷案に止まるものではない。その具体的な思索の襞については直に確かめていただく他ない。
それにしても高校生の時分教科書に何故か載っていた小浜さんの文章(「人は何故働かなければならないか」という感じの題だったと思う)に出会って、当時は論旨がまるっきり掴めなかったが「こんな文章を書く人がいるのか」ということだけは覚えていて、いつか読もうと思っていたものにようやく出会い直すことができたような心地。
この文章なら無教養な高校生が読めなくて当然だ。概念的な用語は避けられていて一見すると難解な哲学者を思わせない風であるが、文面がなだらかであればあるだけ思考は粘り強さを要する。「矛盾的自己同一」(西田幾多郎)とか「なんたら弁証法」(ヘーゲルetc…)とか概念に振り切ってしまった方がおそらく簡単で思考も鋭くなる。けれども概念化に伴って捨象されることがらがあって、それを逃すまいという留意に小浜さんのスタイルは根ざしている…? 憶測しか並べられないが、ともかく本書の内容は必ずしも平易ではない。これには読了した自分を褒めてやりたいという気持ちが半分くらい含まれています。
蛇足ながら、といって上記すべてが蛇足の代物ではあるが、「子ども」は「子供」と表記されて然るべし、というのは本書におけるあり得べき一つの帰結であると思う。つまり群衆性の意で、逆にそこから身を引き剥がし(思春期)、己の単独性を自覚して引き受ける態度が「大人」をあらわす、と。
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方法としての子ども 単行本 – 2006/2/9
小浜 逸郎
(著)
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購入オプションとあわせ買い
エロス、労働、死という三つのキーワードから、子どものありようを大人との関係のなかに捉えていく本質的子ども論。たとえば絵本「こぶたのまーち」を手がかりに親子関係を、またサンタクロースを手がかりに、子どもにとっての孤独や死について考える。
大和書房刊(1987年初版)、ちくま学芸文庫化(1996年)を経て、2005年、索引と著者の書き下ろしを追加してポット出版より復刊。
「大人」の条件やイメージが崩れているなか、子どものありようを考えることで「大人とは何者か」の問いに答える。
大和書房刊(1987年初版)、ちくま学芸文庫化(1996年)を経て、2005年、索引と著者の書き下ろしを追加してポット出版より復刊。
「大人」の条件やイメージが崩れているなか、子どものありようを考えることで「大人とは何者か」の問いに答える。
- 本の長さ303ページ
- 言語日本語
- 出版社スタジオポット
- 発売日2006/2/9
- ISBN-104939015831
- ISBN-13978-4939015830
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著者について
1947年横浜市生まれ。横浜国立大学工学部卒業。批評家・評論家。思想講座「人間学アカデミー」主催。現在、国士舘大学客員教授。学校論、家族論を中心に評論活動を展開。主な著書に『学校の現象学のために』(大和書房)、『無意識はどこにあるのか』(洋泉社)、『オウムと全共闘』(草思社)、『癒しとしての死の哲学』(王国社)、『「恋する身体」の人間学』『正しい大人化計画』(以上、ちくま新書)、『「弱者」とは誰か』『「男」という不安』(以上、PHP新書)、『なぜ人を殺してはいけないのか』『人はなぜ働かなくてはならないのか』『人生のちょっとした難問』(以上、洋泉社・新書y)、『エロス身体論』(平凡社新書)、『可能性としての家族』『方法としての子ども』(以上、ポット出版)などがある。
登録情報
- 出版社 : スタジオポット (2006/2/9)
- 発売日 : 2006/2/9
- 言語 : 日本語
- 単行本 : 303ページ
- ISBN-10 : 4939015831
- ISBN-13 : 978-4939015830
- Amazon 売れ筋ランキング: - 1,589,038位本 (本の売れ筋ランキングを見る)
- - 256位児童心理
- - 6,369位教育学 (本)
- - 93,737位教育・学参・受験 (本)
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