信州小布施にチェルシーバンズという長らく愛されているパンがあります。
この本はそのパン誕生にまつわる人々の美しいお話です。昭和の初め、
結核療養所を作るためにカナダからやってきた看護師、ミス・パウル。
このパンは彼女から伝えられた味です。
戦争の時代をはさみ、小布施でただひとりパンを作っていたのが岩崎小弥太さん
でした。ある日、ミス・パウルに呼ばれてひとつのパンをすすめられた小弥太さん。
一口食べてそのあまりのおいしさに衝撃を受けます。なんとかこのパンを
自分の手で焼いてみたい、そう決意した彼でしたが、物資の乏しい戦後の日本で
それは大変困難なことでした。
しかし、試行錯誤の末ついに完成させます。このパンはミス・パウルの家に
おばあさんの代から伝わる「わが家の味」だったのです。かつて亡国病と
いわれた結核。貧しい結核患者の状態に胸を痛め、なんとか救いたいと
彼女はたったひとり東洋の異国で長い年月を暮らしていました。その意志
と博愛の心、さらに彼女の気持ちになんとか応えたいと奮闘した小弥太さんの
心意気、その熱い思いがチェルシーバンズになって今に伝えられています。
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