確かに、ここでマイルスはトランペットを吹いている。しかしこれほど”普通のマイルス”
というのも珍しい。何か特別なことを演ってやろうとか、これは新しいだろう、ヒップだろう、
というような意欲や試みがない。
”薬中になっていた時期”という説明もできるが、心のスイッチ、やる気が入っていない。
同じ時期でも、ブルーノートに吹き込んだものには、彼の音楽が詰まっている。
マイルスが再び”やる気”になるのは、クリフォード・ブラウンが登場してから。
つまり1953年、クリフォードが、タッド・ダメロン楽団に参加し、ジャズシーンの
光を浴び始めてから。この時に、初めてマイルスは脅威、不安、恐れを感じた。
自分よりも確実に上手くトランペットを吹く男の出現。こんなことをしていてはダメだと、
本気に思って、マイルスは再び「マイルスになる」。
『Miles Davis & Horns』は、ほとんどの曲がアル・コーンのものであり、アレンジも
アルとジョン・ルイスが行なっている。そのせいもあるだろうが、マイルスのスイッチが
入っていない時の演奏がどういうものかがわかるレコーディングであり、アルバム。
M7「Blue Room」(1951年録音)は、本来ならば、素晴らしいトラックになるはずの
スローテンポのスタンダードなのに、中学生の練習のような内容になっている。