「名曲Eight Corners収録」といったうたい文句で語られることが多いですよねこのEP。
基本的にGastr del Solはひとつのアルバム全体を一貫した作品とみなした創作を行っていると思うので
一曲だけを取り出して雑誌などで特記しすぎるのはナンセンスだとは考えてしまうのですが…。
もちろんEight Cornersは名曲です。この曲を聴いているとメシアンではないですが(って当然だ)ベージュ色の光が頭に浮かぶんです。
大友良英さんがUpgrade&Afterlifeを象徴させた名言、「恋愛感情」と限りなく近い胸のふるえに訴える官能性はこの頃から健在だったんだな〜。
続くバストロ末期のインスト曲Glisteryに大幅にアレンジを加えたロック的疾走感あふれるDictionary of Handwritingでは
終盤につれ速度と強度の増大が起こり、それらが散り散りのかすれた音響に分散していく…ところで突然のドラムロールに引き裂かれ沈黙が訪れます。
その後の2曲、Why SleepとMirror Repairなのですが、これらはもう締めくくりとして奇跡と形容して差し支えないほど
完全性(他のレビュー同様ボキャ貧ですいません)を達成し得た5分間ではないでしょうか?
他のどんな音楽に対しても、これほどの、まるで心象風景の最深部に続く階段を手探りで一歩一歩と確実に降りていくような、ロマンチックな緊張を覚えたことはありません。
この2曲をアルバムの終結部としてひとまとまりに考えるなら、Upgrade&AfterlifeのRebecca Sylvesterと並んで
Grubbsと音響工作の出会いが実らせた、あいまいですが従来的な規定で括れそうな「歌もの」の最高峰だと思います。
(The Harp Factry on Lake Streetは除外して)
Mirror Repairに挿入されるハーモニウムのドローンに絡む、これはアタックの削られた管楽器なんでしょうか?
うつろな和声の変化が極度に抽象的な箇所にもかかわらず、すべてがそこに収斂される最後の最後の登場を予言する、めくるめく深遠の形象化とさえ思えます。
これら全て、全5曲の相補性のたまものですし、なぜか評価があまり安定していないMirror Repairですが
EPとはいえやはり最高傑作の一角にノミネートできるほどの圧倒的クリエイティヴィティ、クオリティですね…。
この充実感はたった20分の賜物なんだもの。信じがたい。