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1978–1979年、NY録音 L：Asylum P：Joni Mitchell
ジョニ・ミッチェルが、敬愛するジャズ・ミュージシャン、ミンガスにちなむアルバムを作る
ということで、予想していたのは「ミンガス・ミュージックをベースにしたボーカルもの」
だったが、アルバムから聴こえてきたものは、まったく違っていた。
内容的には、ミンガスが作曲したメロディにジョニ・ミッチェルが詩をつけるというものが
中心になっているが、何より驚くのが、ジャコ・パストリアスのベースだった。アルバムの核は、
ジャコのベースでできていた。
録音したのが1978年から79年。ジョニとしては10枚目のスタジオ・アルバムで、ジャコは
ウェザーリポートのメンバー。傑作ライブアルバム『8:30』から『ミスター・ゴーン』の時期で、
油が乗り切っている。
このアルバムにはウェイン・ショーターとハービー・ハンコックが参加している。2人は約30年後、
2007年に『リヴァー』をリリースしてジョニ・ミッチェルに捧げる事になる。
ジャコはWRでは、グループ・サウンドに貢献しなくてはならないし、リーダーでキーボード担当の
ジョー・ザビヌルと張り合っているために、かなりアグレッシヴな演奏となっているが、ここでは
そうした力関係から自由になり、「ただの天才的なベース・プレイヤー」となり、非の打ち所のない
素晴らしいベース・プレイを披露する。これはジャズ史を牽引したジャズマンとして、多分唯一、
ホーンやピアノ奏者ではないミンガスという存在への最大のオマージュとなっている。録音も
素晴らしく、ジャコの音色、フレージングを際立たせている。
ミンガスは、ジャズの伝統や、アフリカから続く黒人の原点に忠実で、その豊かな、野卑とも
言える生命力を振りまくように発揮してきた。同時に前衛にも立ち、新たなことに挑戦し、
自然な形でフリー・ジャズとの橋渡しも兼ねている。真にジャズ・ジャイアントと呼ぶに
ふさわしい人物でありミュージシャン。日本ではかなり過小評価されていて、『直立猿人』
ばかりに光があてられている。それよりも素晴らしいアルバムが、少なくとも5枚以上ある。
1964年にエリック・ドルフィーと離れてからは、新しい創造性は希薄で、健康面では病に
侵され、体の自由を失っていく。だが、このアルバムもそうだし、最晩年の『Me, Myself
an Eye』もそうなのだが、多くの支持者たちの献身的なサポートを得て、素晴らしいアルバムを
作り出す。ミンガスはこのアルバムの完成を見ることなく他界してしまうが、少し離れて
天から笑って見ている方が、彼に合っている。
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